(ネズミ編)

 その昔、干支は「子→丑→寅卯→辰→巳→」ではありません。呼び名は「ネ・ウシ・トラ・ウ・タツ・ミ・・」と同じでも「猫→丑→寅→卯→辰→巳→」だったのです。ではどうしてネズミとネコは入れ替わってしまったのでしょうか。

 それは、ある元日のことでした。その日は朝から12干支が集まって大事な会議を開くことになっていました。遅刻なんて絶対に許されません。いの一番に登場しなくてはならないネコなら尚のことです。

「あ~あ、眠たいにゃ~。なにも、こんな朝早くから働かなくてもいいと思うけどなー」

 そうなんです。ネコは夜行性なので朝が大の苦手。やっとのことで起きたものの眠くて眠くてなりません。しかも、この数日、ご馳走にありつけていないだけに、もうフラフラでした。

「眠い、食べたい、食べたい、眠い・・」

「お腹と瞼がグールグルでもうダメだよ」

 それでも、おぼつかない足取りで歩いていると、なにやら美味しそうなものが目の前を行ったり来たり・・。

「チュウチュウチュウのドッカラチュウ」

「ドッカラチュウのチュウチュウチュウ」

 ネコにとってご馳走はネズミ。大好物なんです。「しめたっ!」と思いました。でも残念なことに追いかけることさえ出来ません。眠気と空腹から足腰には全然力が入らないのです。まんまと逃げられてしまいました。

 ネコは悔しくて悔しくて堪りませんでした。そこで作戦を立てました。追うのではなく待つことにしたのです。巣に入ったネズミは必ず出てくるわけですから。

 しばらくが経ちました。でも一向に出て来る気配はありません。

「コックリ、コックリ」

 もう待ちきれずに、とうとううたた寝をしてしまったから、さあ大変。

 その時です。微かに鐘の音が聞こえました。会議の始まりを告げる合図だったのです。

「しまった! 今日は大事な大事な1日だったんだ。最初に登場する俺らが遅刻じゃ何もかもぶち壊しだぞ。なにか良い言い訳を考えないと」

 あまりの出来事に眠気も吹っ飛びました。お腹がすいていることすら忘れていました。一目散に駆けつけ、そーっと会議室の扉のすき間から覗いてみると・・。

 なっなっなんと、いの一番の席には、あのネズミのチュウ公が座っているではありませんか。しかも会議は予定通りに行なわれているのです。さらには12干支の並び順を見て愕然としました。

「ありゃりゃ、《ネ(猫)→ウシ(丑)→トラ(寅)→》が、いつの間にか《ネ(子)→ウシ(丑)→トラ(寅)→》に入れ替わっているじゃにゃ~か」

 まさか主役のネコが干支から外されるなんて夢にも思っていなかったのでしょう。

「にゃんたるこっちゃ!」

 まんまと鼠に騙されてしまった猫は、あまりの悔しさにこう叫ぶと、しばらくの間ネコんでしまったそうな。

 その後、この猫がどうなったかは定かでありません。でも名工・左甚五郎によって彫られ、日光東照宮の回廊に、眠り猫として据えられているのは確かなようです。

(眠り猫)
(日光東照宮)

「本当かなー」

「でも正月だから、まっいいか!」

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《折り紙/子年の教訓》

 猫しっぽ猫あたまにゃんこ危うきに近寄らずねずみねずみ


 今年も宜しくお願いします