夏の甲子園、岩手大会決勝では、プロ注目の右腕・佐々木を擁する大船渡が花巻東に2-12で敗れた。敗因は言うまでもない。エースで四番の温存にある。決勝を投げれば(準決勝から)2連投である。球児の至宝だけに守りたかったのだろう。結局は、ピッチングはおろか、打席に立つこともなく終えた。賛否両論はあるだろうが監督の英断には拍手を送りたい。
一方、東京五輪を前に盛り上がりを見せるのが、陸上の男子400Mリレーだ。桐生に続いて、サニブラウンに小池と、サブテン(9秒台)が相次いでいる。この秋までには山縣だって(10秒の壁を)切りそうな気配にある。巷では、メダル間違いなしから金メダルの可能性も、、と威勢がいい。だが、ちょっと待って欲しい。何か勘違いしてはいないだろうか。
(日本選手権2019/優勝のサニブラウン)
(左から3着の小池と2着の桐生)
過去からも、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)やカール・ルイス(米国)といったスーパースターを擁した国々に限って勝つ傾向にある。ボルトは、100、200Mと合わせて三冠であり、ルイスに至っては走り幅跳びまで制して四冠である。正に超人以外の何者でもない。
日本の場合はどうか。底上げしたとはいえ総合力ではまだまだ及ばない。バトンの技術を磨いたとはいっても合算では決勝に残れるかどうかのタイムなのだ。もうひとつある。100、200Mに、ファイナリストが誕生するということは、400Mリレーが“弊害”であることも忘れてはならない。
誰しも、ファイナリストになれそうな選手は個人種目に重きを置く。だから、リレーは予選を回避して、決勝にに残った場合に限っての出走となる。それだけ選手層が厚くなければならず、さもなければ如何に鉄人とはいえ身体が持たないのが短距離走なのだ。
確かに日本は速くなった。五輪に世界陸上と、400Mリレーでは立て続けにメダルを獲得している。しかし今度ばかりは事情が違う。ファイナリスト候補も複数いるのだ。でも選手層は薄い。予備(リレー)要員だけでは予選突破さえ危うい。そこで、主力組には、予選からの出走を余儀なくされてゆく。
これまでは決勝に残れるような実力者は誰一人としていなかった。予選落ちが定番であり、希に準決勝に残れる程度であった。ある意味、走る本数が少ない分、余裕をもってリレーに臨めたのだ。それが今、ファイナリストも可能なメンバーが揃った。個人種目で決勝を目論む者にリレーまで期待するのは酷ではなかろうか。
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《参考/世界歴代10桀》
(1)09秒58、ウサイン・ボルト、ジャマイカ
(2)09秒69、タイソン・ゲイ、米国
(2)09秒69、ヨハン・ブレーク、ジャマ
(4)09秒72、A・パウエル、ジャマイカ
(5)09秒74、ジャスティン・ガトリン、米国
(6)09秒78、ネスタ・カーター、ジャマイカ
(7)09秒79、モーリス・グリーン、米国
(7)09秒79、C・コールマン、米国
(9)09秒80、S・マリングス、ジャマイカ
(10)09秒82、R・トンプソン、T・トバゴ
《参考/日本歴代10桀》
(1)09秒97、サニブラウン、2019
(2)09秒98、小池祐貴、2019
(2)09秒98、桐生祥秀、2017
(4)10秒00、伊東浩司、1998
(4)10秒00、山県亮太、2017
(6)10秒02、朝原宣治、2001
(7)10秒03、末続慎吾、2003
(8)10秒07、江里口匡史、2009
(8)10秒07、多田修平、2017
(10)10秒08、飯塚翔太、2017
(10)10秒08、ケンブリッジ飛鳥、2017
(9秒台が3人とはいえ、まだ世界は遥か彼方にある。サニブラウンでも世界歴代では70位にも入らない。ファイナリストで9秒95、メダルに絡には9秒8台の前半が絶対条件であろう)
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短距離とはいえ全力で走り切るだけにダメージは計り知れない。だから度重なるケガにも悩まされる。サニブラウンは回復まで(昨年)一年間を費やし、山縣も今夏の日本選手権には出られなかった。ふくらはぎを痛めて途中棄権の飯塚翔太やケンブリッジ飛鳥も然りだ。
五輪や世界選手権でファイナリストになることは、アスリートにとって最大の目標であり夢でもある。ことに100Mでは、1932年ロス五輪の吉岡隆徳(6位入賞)以降、87年間も出ていない。付け足しで行われる400Mリレーとは価値がまるで違う。
二兎を追う者は一兎をも得ず、のことわざ通り、このままでは両方とも取り損ねてしまうだろう。いや怪我人続出にさえなりかねない。ならばどうだ。リレーは予備軍に任せて、主力は個人種目に特化させては。(リレーは)予選で敗退しても仕方あるまい。ファンは失望しても走るのは選手個人なのだ。国民の期待から競技人生を台無しにしたのでは元も子もない。先々を見越して佐々木投手が決勝戦を回避したように。
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「ならば、バットマンと・・」
「スパイダーマンも・・」
「リレーメンバーに加えたらどうかのう」
「クモりでもコウモリさえあれば、どんなレイン(レーン)にだって対応できるからのう」
「これで金メダル間違いなしじゃ」
「・・・・・
」
