203x年、この国は廃屋で溢れた。地方だけではない。大都市であれ朽ち果てた家々によって埋め尽くされている。高層住宅だって同じだ。生活感のなさは、あたかも軍艦島のようでもある。人々はどこへ行ってしまったのだろうか。

 声がする。どうやらうめき声らしい。僅かな者だけが旧市街地の片隅で生き延びてはいるものの、どこか元気がない。病に冒されている年寄りも多く必死に助けを求めている。でも悲しいかな誰もこない。たまに巡回する救護隊もいるにはいるが、首に下げたIDカードで身寄りのない独り身と知るや、そのまま放置されてしまうのだ。

 財政は破綻し医療福祉の制度などは過去の遺物に成り果てている。富裕層は早々に国を捨て海外へ逃亡。若者も新天地に活路を求めた。2019年から入国した就労目的の外国人も、五輪を境にした不況から職を追われ、もう誰一人として残っていない。日本列島全域が絶海の孤島であり、姥捨山になってしまった。この国に未来はあるのだろうか。

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 総務省が26日公表した住宅土地統計調査によると、2018年10月1日現在、全国の空き家数は846万戸に上ることが分かった。これは住宅総数(6242万戸)の13%で、約7軒に1軒が空き家ということになる。都道府県別でみると、最も多い順に山梨21.3%、和歌山20.3%、長野19.5%と続き、低いのは埼玉と沖縄の10.2%である。

 〈全国の空き家数(率)〉

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 (総務省データより)

 2030年代には団塊世代も急速に欠落する。この世代は総人口の中でも最多層にある。戸建てに住む割合も一番高い。間もなく、これら3557万人の住まいの多くがが空き家として加わってゆく。机上の計算では3分の1だが、このままだと全戸数の約半分が空き家になる可能性だってあるのだ。見渡す限りの廃屋が如何に恐ろしいことか。

 (65才以上人口の推移)

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 (総務省データより)

 令和元年にも家屋数が世帯数を上回る。瞬く間に2000万戸、場合によっては3000万戸の空き家すら生みかねない。市場は需要と供給のバランスで成り立つ。ならば不動産に価値はない。これからの時代、不動産は資産でなく所有してはならない「究極の負債」に名を変えるのではなかろうか。

 《過去記事/住宅がタダより安くなる》
https://blogs.yahoo.co.jp/rohitigu/35758690.html

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 日本人の平均年収は韓国に抜かれ中国の極東部にも追い越されてしまった。賃金水準たるや、メイドとして北京や上海で出稼ぎをするフィリピーナにも及ばない。直ぐ後ろにはタイやベトナム、マレーシアといったASEAN諸国が迫る。2030年代にはインドやパキスタン、バングラデシュにも追い付かれでしまうだろう。現在、外国人就労の主力でもあるネパールだって例外ではない。

 ある調査によると、来春卒業の大学生の内、約2万8千人が直接外国での就業を希望しているという。筆頭はやはり中国だ。理由は言うまでもない。賃金の高さにある。かつての違法就労大国はどこへやら。日本人の若者が出稼ぎに行く時代になってしまった。

 空き家の増加は少子高齢化たけに止まらない。こうした事情も加味されてゆく。ならば3000万戸でも収まるかどうか。

 深沢七郎の物語(楢山節考)では我が子に背負われることで姥捨山まで辿り着く。しかし、これからの高齢者に実子はいない。2035年には2人に1人が生涯を独り身で通す時代になるのだ。ならば姥捨山に行くことさえできない。いや、今そのものが姥捨山なのかも知れない。