2020年の東京五輪(7月24日開幕)まで、あと2年。一方、この8月12日からは、オリンピックの前哨戦ともされるアジア大会が、インドネシアのジャカルタで開催される。東京五輪では今以て暑さへの懸念が消えない。今夏の熱波に苛まれる異常気象も加わり、マスコミ各社は、挙って「東京の暑過ぎ」を煽り立てる。でも、どこまでが真相なのだろうか。
東京大会は、誘致に際しても盛夏の開催に異論が続出した。あくまで国内からだが、暑いから時期をずらして春や秋に変更しろ、というのだ。しかし、これはおかしい。夏場開催はIOCや各競技団体の決定事項であり、「夏季大会」と謳う以上、暑中だからこそ意義があるのだ。
確かに東京の夏は暑い。湿度も高い。だが過去の大会はもっと暑い。例外は“IOCの都合”で10月開催になった1964年の東京や、標高が高い1968年のメキシコシティ、季節が逆の南半球に位置する2000年のシドニー、地理的に涼しい2012年のロンドンなど数大会しかない。平均気温たるや夏の東京なんて恵まれた方だ。それでも各大会では好記録が続出している。
ロス五輪(1984年)のマラソンでは、30度半ばの高温の中、ロペスが2時間10分を切るタイムで走り、気温40度に迫る酷暑と大気汚染の北京大会(2008年)では、お馴染みのワンジルが、2時間6分32秒という驚異的なオリンピック新記録で優勝。36℃を観測したアテネ五輪でも日本の野口みずきが2時間26分20秒で金メダルを獲得している。五輪ではないが、高橋尚子は猛暑のバンコク・アジア大会で、当時の世界記録に迫るタイムを叩き出している。
《参考、各都市の過去最高気温》
(左から、都市名、最高気温、観測年代)
★はアジア大会
☆東京、39.5℃、2004年
☆ロサンゼルス、44.4℃、1990年
☆北京、41.9℃、1999年
☆アテネ、48.0℃、1977年
☆パリ(2024年開催地)、40.4℃、1948年
★バンコク、40.8℃、1983年
★ジャカルタ、43.8℃、年代不明
昨日(23日)は東京都心でも歴代2位の39℃(青梅市など郊外は除く)を観測したが、上記以外の開催都市でも一部を除き、(過去には)大台を遥かに超えて40度半ばになることさえ珍しくない。猛暑の今夏だけをみても決して東京は暑い方でない。
では、どうして夏の開催に異論が出るのか。それは特定の競技だけをみた誤った認識に他ならない。考えて欲しい。夏季五輪は陸上だけではない。あくまで全33競技の1つであり、マラソンなら全339種目のひとつに過ぎない。夏場の競技を集めた大会でもある。だからこそ、水泳があり、ヨットやウェイクボードがあり、夏に相応しい競技が盛り沢山なのだ。
2020年の東京大会で実施される競技の多くは、ドームやナイター設備のみならず、空調の備わった室内で実施される。何の問題もない。夏の競技を夏に行うだけのことである。
冬季五輪にも同じことがいえよう。最も寒い時期に開催して初めて雪と氷の祭典になる。極寒は体に悪いと人工雪を降らして5月や10月に開催するなら、それは冬季五輪ではない。だからこそ夏季五輪も暑い時期が一番似合うのだ。
現在、世界人口の5分の2(約30億人)は常夏の国に居住する。この内7割は熱波に苛まれる地域にある。東京の夏は快適だ。摂氏50℃には絶対ならない。オリンピックは世紀の祭典であると同時に民族の祭典でもある。熱帯地方の国民からすれば肌寒い5月や10月に開催された方が迷惑この上ないだろう。
それでも「東京の夏は暑すぎる」や「秋に開催すべきだった」と言い続けるメディアや有識者に改めて問いたい。
オリンピックといえば陸上競技、それもマラソンしか眼中にないのではないか。夏でないと困る競技のことは考えていないのではないか。その陸上も、世界選手権にせよ、アジア大会にせよ、必ずこの季節に開催される。そして自分の出番をテントの下や控え室で待つ。
球技でも同じで、プロ野球は、オールスター以降、7月末から8月にかけて佳境を迎える。しかし、「夏場は暑いから秋から春に開催しろ」、なんて話は聞いたことがない。野球も、オリンピックではプロ野球同様、ナイターで開催される。暑いから困るのは、マラソンや競歩といったロードレースだけで、それ以外の競技は“暑い季節でないと困る”競技ばかりなのだ。
成長著しい東南アジアのみならず、南アジアやアフリカ諸国でも、いずれはオリンピックを開催するだろう。熱帯地方に涼しい季節はない。暑いことを理由に、これらの国々の開催にも異を唱えるのだろうか。
間もなく、アジア大会が、インドネシアのジャカルタで開催される。赤道直下だけに涼しい季節はない。湿度も高い。この場合、誰も「開催時期を変えろ」とは言わない。前述の通り熱帯地方には30億人が居住する。温暖(寒冷)な地域思考で語るなら、そんなオリンピックは止めてしまった方がよい。
それでも納得出来ないなら、ひとつ提案したい。確かにマラソンだけは夏の大会に相応しくない。主要なレースは冬場に最も多く開催される。だったら、マラソンだけは冬季五輪に移行しよう。これで全て解決する
*サッカーは、基本的に秋から春にかけての競技だが、摂氏50℃が予想される次期カタール大会を除き、ワールドカップも全て夏場に開催されてきた。
◇◇◇◇◇◇
東京五輪が暑いなら夏の甲子園(高校野球)はどうなのだろう。毎年のこと酷暑の中で行われる。球児も大変だが観客だって大変だ。イニング毎に交代できる選手と違って何時間も灼熱地獄に晒され続ける。その点、五輪会場(スタジアム)は屋根付きだ。
かつて、甲子園の暑さに「海水浴と同じで真夏の風物詩ではないか」と言って憚らない評論家がいた。それが今では暑い五輪に異を唱えて大騒ぎしている。夏の甲子園は暑くて当然。でも夏期オリンピックだけは暑いから駄目。一体、何を考えているのだろうか。
東京大会は、誘致に際しても盛夏の開催に異論が続出した。あくまで国内からだが、暑いから時期をずらして春や秋に変更しろ、というのだ。しかし、これはおかしい。夏場開催はIOCや各競技団体の決定事項であり、「夏季大会」と謳う以上、暑中だからこそ意義があるのだ。
確かに東京の夏は暑い。湿度も高い。だが過去の大会はもっと暑い。例外は“IOCの都合”で10月開催になった1964年の東京や、標高が高い1968年のメキシコシティ、季節が逆の南半球に位置する2000年のシドニー、地理的に涼しい2012年のロンドンなど数大会しかない。平均気温たるや夏の東京なんて恵まれた方だ。それでも各大会では好記録が続出している。
ロス五輪(1984年)のマラソンでは、30度半ばの高温の中、ロペスが2時間10分を切るタイムで走り、気温40度に迫る酷暑と大気汚染の北京大会(2008年)では、お馴染みのワンジルが、2時間6分32秒という驚異的なオリンピック新記録で優勝。36℃を観測したアテネ五輪でも日本の野口みずきが2時間26分20秒で金メダルを獲得している。五輪ではないが、高橋尚子は猛暑のバンコク・アジア大会で、当時の世界記録に迫るタイムを叩き出している。
《参考、各都市の過去最高気温》
(左から、都市名、最高気温、観測年代)
★はアジア大会
☆東京、39.5℃、2004年
☆ロサンゼルス、44.4℃、1990年
☆北京、41.9℃、1999年
☆アテネ、48.0℃、1977年
☆パリ(2024年開催地)、40.4℃、1948年
★バンコク、40.8℃、1983年
★ジャカルタ、43.8℃、年代不明
昨日(23日)は東京都心でも歴代2位の39℃(青梅市など郊外は除く)を観測したが、上記以外の開催都市でも一部を除き、(過去には)大台を遥かに超えて40度半ばになることさえ珍しくない。猛暑の今夏だけをみても決して東京は暑い方でない。
では、どうして夏の開催に異論が出るのか。それは特定の競技だけをみた誤った認識に他ならない。考えて欲しい。夏季五輪は陸上だけではない。あくまで全33競技の1つであり、マラソンなら全339種目のひとつに過ぎない。夏場の競技を集めた大会でもある。だからこそ、水泳があり、ヨットやウェイクボードがあり、夏に相応しい競技が盛り沢山なのだ。
2020年の東京大会で実施される競技の多くは、ドームやナイター設備のみならず、空調の備わった室内で実施される。何の問題もない。夏の競技を夏に行うだけのことである。
冬季五輪にも同じことがいえよう。最も寒い時期に開催して初めて雪と氷の祭典になる。極寒は体に悪いと人工雪を降らして5月や10月に開催するなら、それは冬季五輪ではない。だからこそ夏季五輪も暑い時期が一番似合うのだ。
現在、世界人口の5分の2(約30億人)は常夏の国に居住する。この内7割は熱波に苛まれる地域にある。東京の夏は快適だ。摂氏50℃には絶対ならない。オリンピックは世紀の祭典であると同時に民族の祭典でもある。熱帯地方の国民からすれば肌寒い5月や10月に開催された方が迷惑この上ないだろう。
それでも「東京の夏は暑すぎる」や「秋に開催すべきだった」と言い続けるメディアや有識者に改めて問いたい。
オリンピックといえば陸上競技、それもマラソンしか眼中にないのではないか。夏でないと困る競技のことは考えていないのではないか。その陸上も、世界選手権にせよ、アジア大会にせよ、必ずこの季節に開催される。そして自分の出番をテントの下や控え室で待つ。
球技でも同じで、プロ野球は、オールスター以降、7月末から8月にかけて佳境を迎える。しかし、「夏場は暑いから秋から春に開催しろ」、なんて話は聞いたことがない。野球も、オリンピックではプロ野球同様、ナイターで開催される。暑いから困るのは、マラソンや競歩といったロードレースだけで、それ以外の競技は“暑い季節でないと困る”競技ばかりなのだ。
成長著しい東南アジアのみならず、南アジアやアフリカ諸国でも、いずれはオリンピックを開催するだろう。熱帯地方に涼しい季節はない。暑いことを理由に、これらの国々の開催にも異を唱えるのだろうか。
間もなく、アジア大会が、インドネシアのジャカルタで開催される。赤道直下だけに涼しい季節はない。湿度も高い。この場合、誰も「開催時期を変えろ」とは言わない。前述の通り熱帯地方には30億人が居住する。温暖(寒冷)な地域思考で語るなら、そんなオリンピックは止めてしまった方がよい。
それでも納得出来ないなら、ひとつ提案したい。確かにマラソンだけは夏の大会に相応しくない。主要なレースは冬場に最も多く開催される。だったら、マラソンだけは冬季五輪に移行しよう。これで全て解決する
*サッカーは、基本的に秋から春にかけての競技だが、摂氏50℃が予想される次期カタール大会を除き、ワールドカップも全て夏場に開催されてきた。
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東京五輪が暑いなら夏の甲子園(高校野球)はどうなのだろう。毎年のこと酷暑の中で行われる。球児も大変だが観客だって大変だ。イニング毎に交代できる選手と違って何時間も灼熱地獄に晒され続ける。その点、五輪会場(スタジアム)は屋根付きだ。
かつて、甲子園の暑さに「海水浴と同じで真夏の風物詩ではないか」と言って憚らない評論家がいた。それが今では暑い五輪に異を唱えて大騒ぎしている。夏の甲子園は暑くて当然。でも夏期オリンピックだけは暑いから駄目。一体、何を考えているのだろうか。