昔から、巷の嘆きは「今の若い者は!」が決まり文句だった。青少年の犯罪も急増した。それが、いつしか「外国人は危ない」に変わった。それも今では誤りであることに気付かされる。

少子化で当然としても青少年の犯罪は減り続ける。率でも同じだ。外国人に至っては日本人の平均よりも少ない。マスコミが大きく取り上げるから、この国は外国人の犯罪天国かと思いきや、そんなことはない。至って健全なのだ。

この11日、平成28年版の犯罪白書が閣議報告された。昨年の刑法犯の認知件数は109万8969件(前年比9.4%)と13年連続で減少した。ピークだった平成14年の約285万件からは40%以上も減ったという。

一方、高齢者の犯罪だけは増え続ける。刑務所に入った受刑者の1割は65才を超えた。一昨年では、約176万件の犯罪の内、一般刑法犯だけでも65才以上の検挙数は4万7252人と、この20年で4倍に達している。巷の嘆きは「今の若者は」から「今の年寄りは」に取って変わった。

今年度の犯罪白書には「再犯」に関する特集がある。特筆すべきは、ここでも65才以上が突出して高い。平成23年に刑務所を出て、5年以内に再び罪を犯した65才以上の高齢者のうち、4割は再犯に至るまで半年以内である。

しかも、再犯までの期間は高齢になるほど短くなる傾向にある。半年未満では29才以下が21.8%、30から39才が25.1%なのに対し、60から64才は38.2%、65才以上は40.2%と極めて高い。

老々介護の果てに、といった悲惨な現実も背景にあるが、凶悪犯が多いのも事実だ。だが、最多層は孤独な高齢者が生活に困窮し、再び犯行を起こして舞い戻っているのが実態であろう。

収監者の平均年齢は上がり続ける。凶悪犯なら獄中でさらに高齢化する。犯罪者とはいえ介護問題は避けて通れない。看守は、社会復帰を手助けするどころか、介護作業に追われることになる。刑務所が終の棲み家と化し、究極の介護支援センターになりつつあるのだ。

現在、日本には貧困層の単身高齢者が約800万人存在する。何れ、非正規就労者4000万人の多くが、この仲間に加わる。施設と介護士不足は深刻を極め、老人ホームへの入居には、10年以上待ちが当たり前になる。有料でさえ億単位の金を積んでも入れない時代がやって来る。

身体の衰えた高齢者には10年も待てない。身内はいない。高額な施設など入れる道理はない。結局は、優先的に入所でき、医療や介護サービスが提供されるところは、あそこしかない。しかもタダだ。そこで”故郷“に帰る。

「お隣のじい様、ヨレヨレ詐欺で捕まったそうじゃ」

「それじゃ、もう老後の心配はいらんのう」

「‥‥‥」

終の棲み家となる安住の地が、住み慣れた我が家や生まれ育った田舎ではなく、刑務所になる日が近いのかも知れない。