かつて東京帝大に寺田寅彦という物理学者がいた。地震研究の第一人者であると同時に随筆家でもあった。そのためか宏観現象にも着目し、地震と発光現象や、地震と漁獲量の変化、といった研究にも熱心だった。だが多くはデマだとして批判の的にされたが、こうした渦中にあって、あの忌まわしい関東大震災が起きた。

関東大震災では約190万人が被災し死者行方不明者は10万5千人に達した。もし、こうした異変を前以て知らせることが出来たなら、かなりの減災に結び付いたのではないかと悔やんだそうだ。この時の名言「天災は忘れた頃にやって来る」は皆さんも御存じかと思う。

数年前、イタリアで自然界に異変が続出した。民衆は「地震が来るぞ」と騒いだ。学者は「デマ」だとして沈静化を計った。だが実際に大地震は起きてしまった。その結果、デマ説を唱えた地震学者数名は告発され、なんと有罪になってしまった。これは「地震が来る」より「地震は来ない」をデマとして裁いた一例である。

宏観から地震の有無を判別するのは難しい。カラスが騒ぐのは、天敵たる猛禽類の襲来か、縄張りを守るための威嚇が多い。犬が吠えるのは欲望や護身本能であり、正常と異常のが区別がつかない。ならば、日常的な行為は除いて、尚且つノイズか否かを選別しなくてはならない。

★天敵や越境、繁殖期でもないのにカラスが異様に騒ぐ。

★どこか落ち着かず、いつもと違って犬が悲しげに鳴く。

★猫やネズミが家屋を離れ、意外(安全)な場所で群れていた。

★厳冬期にヘビやミミズが這い出した。

★地鳴り、海鳴り、発光現象。

★豊漁、不漁、深海魚が揚がる。

これらは、ほんの一例であり、まだまだある。しかも単なる“お騒がせ”ではない。故溝上恵氏など地震予知連や中央防災会議の面々が書き残した前兆集からの抜粋である。

もし、これらをデマとするなら、寺田寅彦のみならず、日本を代表する地震学者の考えまで否定することになる。地震予知連や中央防災会議は、有識者と関係行政機関、全国の国立大学からなる公的機関だ。いわば国がデマを飛ばしているといっているようなものだ。

先日(8月24日)のイタリア地震では、また告発騒ぎが起きている。地震学者もうかうかできない。そのせいか日本でも著名な地震学者の多くが「大地震が来るぞ」と大騒ぎを始めた。当たるも八卦、当たらぬも八卦ではあるまいが、やはり地震は、来ないといって来るより、来るといって来ない方が良い、といったところか。

尚、今日の午後、茨城県南部を震源に、最大震度4の、やや強い地震があった。先日も記したように、今回の地震も、台風13号の進路を先取りするように発生している。これで台風の進行方向に3連続しての前兆現象だ。やはり気象と地象には何らかの繋がりがあるのではないか。

台風13号は間もなく温帯低気圧に変わりそうだが秋雨前線を刺激して大雨も予想される。地震は規模が大きくなるほど荒天明けに多い。一言“デマ”を付け加えるなら、首都圏では当分の間、M5を超える強い地震に注意すべきかと。