十数年前、三菱自工(現ふそう)川崎事業所の構内通路脇にあったトイレのドアには、こんな落書きがあった。
『世界のトヨタ』
‥‥‥『日本の日産』
‥‥‥‥‥‥『川崎村の三菱自動車』
トイレは清掃されているが、この落書きだけは消さない。名言なのか、大企業のゆとりからくる洒落なのか、いつまでも残されていた。
三菱自工が揺れている。2000年に続き、2004年にも大規模なリコール隠しが発覚して、売り上げは激減した。有罪判決も確定し、同年、バスやトラックといった大型事業を分社化した。
今度は燃費試験の不正である。燃費をよく見せるため、国交省に虚偽のデータを提出していたことが明らかになった。国内の乗用車販売が縮小する中、数少ない市場を巡って厳しい過当競争に晒されているとはいえ、情けない限りだ。
この三菱自工には意外な一面がある。往々にして大企業ほど設備や資材の新規取り引には慎重になるもの。如何に画期的であれ、括弧とした納入実績を示さなければ、けんもほろろに追い返されてしまう。
だがトヨタと三菱自工だけは違った。納入実績は、あまり求めない。それどころか、僅かばかりの実績を恐る恐る提示すると、「なんだ、既にあるじゃないですか」「だったら最初からうちに持ってきて下さいよ!」が常だった。
結果、新たな設備や資材を積極的に採用する企業は業績を大きく伸ばし、排他的な企業ほど後塵を拝した。では、三菱自工は、どうして低迷したのか。数々の不正発覚があったにせよ、それだけではない。
トヨタは“最新”を積極的に取り入れるだけではなく、納期、品質、在庫と、全ての管理に厳しかった。三菱自工は、やや違う。経営的観点からは相応しくないとはいえ、多少の無理にも寛容だった。旧態依然とした縦型組織で、上意下達の企業風土だけが目につくが、カンバン方式全盛にあっても、「もう少しだけ‥」を容認する下地があった。
トイレに書かれた“川崎村”も、こうした寛容の表れだったように思う。無論、落書きはいけない。不正など言語道断で、もっといけない。だが、なにか人間臭さが漂っている。
常習犯なら、この先だって分からない。だからこう書くと「前科3犯を許すな!」と叱られるかも知れない。だが、日本を代表する印籠(三菱)を持ってして、こんな泥臭い現場もある。だからこそ猛省し、大多数の真面目な従事者のためにも、1日も早い“更生”を期待したいものだ。
『世界のトヨタ』
‥‥‥『日本の日産』
‥‥‥‥‥‥『川崎村の三菱自動車』
トイレは清掃されているが、この落書きだけは消さない。名言なのか、大企業のゆとりからくる洒落なのか、いつまでも残されていた。
三菱自工が揺れている。2000年に続き、2004年にも大規模なリコール隠しが発覚して、売り上げは激減した。有罪判決も確定し、同年、バスやトラックといった大型事業を分社化した。
今度は燃費試験の不正である。燃費をよく見せるため、国交省に虚偽のデータを提出していたことが明らかになった。国内の乗用車販売が縮小する中、数少ない市場を巡って厳しい過当競争に晒されているとはいえ、情けない限りだ。
この三菱自工には意外な一面がある。往々にして大企業ほど設備や資材の新規取り引には慎重になるもの。如何に画期的であれ、括弧とした納入実績を示さなければ、けんもほろろに追い返されてしまう。
だがトヨタと三菱自工だけは違った。納入実績は、あまり求めない。それどころか、僅かばかりの実績を恐る恐る提示すると、「なんだ、既にあるじゃないですか」「だったら最初からうちに持ってきて下さいよ!」が常だった。
結果、新たな設備や資材を積極的に採用する企業は業績を大きく伸ばし、排他的な企業ほど後塵を拝した。では、三菱自工は、どうして低迷したのか。数々の不正発覚があったにせよ、それだけではない。
トヨタは“最新”を積極的に取り入れるだけではなく、納期、品質、在庫と、全ての管理に厳しかった。三菱自工は、やや違う。経営的観点からは相応しくないとはいえ、多少の無理にも寛容だった。旧態依然とした縦型組織で、上意下達の企業風土だけが目につくが、カンバン方式全盛にあっても、「もう少しだけ‥」を容認する下地があった。
トイレに書かれた“川崎村”も、こうした寛容の表れだったように思う。無論、落書きはいけない。不正など言語道断で、もっといけない。だが、なにか人間臭さが漂っている。
常習犯なら、この先だって分からない。だからこう書くと「前科3犯を許すな!」と叱られるかも知れない。だが、日本を代表する印籠(三菱)を持ってして、こんな泥臭い現場もある。だからこそ猛省し、大多数の真面目な従事者のためにも、1日も早い“更生”を期待したいものだ。