太陽に愛された乙女 | インドの神話の世界

太陽に愛された乙女


         昔むかし、インドの山奥に、とある仙人が住んでいた。


ある夜、

彼の草庵の前が急に明るくなった。

不審に思って見ていると、

ひとりの赤子が寝ている。


女の子だ。 


その子が光っているのだ。

月から滴るしずくが無垢な赤子の相(すがた)に凝ったに違いない。

仙人はその子を”チャンドラバーガー”(月の化身)と名づけ、

自分の娘として大切に育てることにした。


http://www.asahi-net.or.jp/~jk9m-kmt/moon/moon_index.htm

彼女は美しい乙女になった。

ある日、

仙人はいつものようにチャンドラバーガーを連れて近くの泉に行き、
太陽を讃えながら、沐浴していた。

地・空・天をあまねく渉るもの

            おお太陽 至高なるものよ
 
            その愛でたき光明 われらに与えたまえ

            われらを霊感で満たしたまえ

彼の讃歌に太陽が応え、地上に降りた。

太陽神は、チャンドラバーガーを一目見るなり恋に落ち、

仙人に彼女との結婚を申し込んだ。

仙人に異論は無い。






しかし、娘は、

「いやよ、絶対にいや、彼に愛されたら、本当に燃え上がって死んでしまう」
といって逃げ出した。

太陽神は天駆けるラタに乗ってあとを追った。

つかまってなるものか、

娘は必死に駆けた。

太陽神は執拗にそのあとを追った。

娘はついに追い詰められた。
海まで来てしまったのだ。
もう逃げ場は無い。

娘は祈った。


「海神よ!お願い私を匿って(かくまって)」
すると、彼女のからだは海に融け(とけ)、海と一体化した。

彼女が逃げた軌跡(あと)は河になった。

人々はこの河を太陽神が愛した乙女の名にちなみ、


「チャンドラバーガー」と呼ぶようになった。
 
春浅い日、

外にはまだ肌寒い冷気と、

深い闇がわだかまっているコーナラク。


太陽が七頭立ての戦車(ラタ)に乗って天空を駆ける、

というヴェーダ神話を反映した祭り。


幻の山車が熱狂的な信者の群れに牽かれて

大河の畔を駆け抜けていくプリーの山車祭り。
2時間ほどして海に着いた。

ほどなくして、紅く歪んだ円盤が海上に顔をのぞかせると、

海岸からは、わあんという唸り声が生じ、

人々は次々とチャンドラバーガーに身を沈め、

祈りとともに沐浴を始める。

チャンドラバーガー河は死んではいなかったのだ。

伏流と化して地下世界を流れていたのだ。

そして、海岸で顔を出し、

細長い沐浴場を形成するのだ。

インドには稀な、

月からの滴が溜まったような、

清い美しい水だった。

              


物語がよみがえった。


太陽は今でもチャンドラバーガーを愛している。

だから彼は毎日、東の海から姿を顕し、彼女に祝福を与えるのだ。

チャンドラバーガーが在るからこそ、陽はまた昇るのだ。

風は、さわやかだが、

空気は甘く熟れている。

頸い(つよい)陽射しがコーナラクを染めている。



             ・・・・・・図説・・・・・・インド神秘事典 より・・・・・・