僕も彼女もなんだか緊張が解けてしまって、お腹がすごく減った。店を出て、どこか食事ができるところを探すことになった。

彼女に、何時に帰らなければいけないかを聞いたら、家がものすごく遠くて、ってか隣のY県に住んでいて、2146分の電車に乗っても家に着くのが0時を回るって言った。このときすでに21時。僕はすごくびっくりして、このあとどうしたらいいか戸惑った。

そしたら彼女は、なぜかスタバに行きたいと言い始めた。まったく理解できなかったけど(笑)、僕も他に宛てがなかったので一緒にスタバに向かった。でもスタバは混んでいて、その隣のエクセに入ることになった。

確認だけど、ここは今まで居たエクセとは別のエクセだ。北口と南口にひとつずつあり、北口エクセ→南口エクセに移動しただけだった。本当に今日は奇妙な夜だ。


さすがにもう何を頼んだかは覚えていないけれど、お互い一品ずつ軽めのものを頼んで席についた。時間は2110分回ったくらいか。食べながらたわいも無い話をしていた。いつの間にか笑い話をし合える仲になっていた。僕はすっかり緊張感がなくなっていた。

会話の合間にある少しの沈黙の後、次の話題を探そうとして僕は,何を思ったのか本名を名乗った。

「僕、本名は○○って言います。あと実は彼女がいます。こういうことして何だかごめんなさい。」

別に自分に彼女が居るかどうかはどうでもよかった。今後会うこともないだろうって思ってたし。でもSは、

「言っといてくれてよかったです。あたしも昔浮気されていやなことがあったし。」

“浮気”って言葉が出たっていうことは、出会い系がそういう遊びなんだって彼女が認識していたと分かった瞬間だった。少し僕は惜しい気がした。Sは続けた。

Mさん(僕の本名)、駄目ですよ彼女いるのにこんなことしちゃ。」

出会い系やっとるお前が言うな。


エクセを出て、駅のホームに向かう。彼女は下りで僕は上りだ。逆方向なのは気持ち的に少し助かる。僕は彼女と一緒に、下り方面のホームに向かった。電車はすでに発車待ちの状態。発車ギリギリまで彼女は電車に乗らず、僕と話をしていた。

「今日はありがとうございました。少し気が楽になりました。」

「こちらこそありがとう。楽しかったです。」

僕は返した。もうだいぶ打ち解けていた二人は、口には出さなくても、やっぱり、お互いにまた会おうかどうか迷っていた。でもSは僕に彼女がいるのがやはり引っかかるみたいだ。そして別れ際にSは、

「また会いたいけど・・・」

僕も、

「うん俺も・・・」

口が滑った。でも僕は、Sになんだか惹かれるものを感じてしまっていた。単に18歳の女の子と会えなくなるのが惜しいと感じていただけなのかも知れないけれど。


その場はなんとかごまかして、僕たちは別れる間際に握手をした。

彼女は最後に、本アドでメールを送りますねって言ってくれた。今までは、どっかのサイト経由のサブアドレスでやり取りをしていた。正直、本アドでメールが来るのに期待と不安が入り混じっていた。でも単純に嬉しかった。今日の僕とのやり取りに満足してくれたような気がしたから。

そうしてその日、Sと僕は別れた。



帰りの電車、Sから本当にメールが来た。ドメインを見る限り本物の携帯アドだ。

「今日はありがとうございました。彼女さんを大事にしてあげてくださいね!」って書いてた。ぐぅの根も出ない。

「こちらこそありがとう。彼女がいる件、騙したみたいでごめんなさい。」

そんなやり取りと、改めてお互いの本名を名乗った。

僕は帰りの電車、とっても疲れて今日のことを振り返った。すごく奇妙な夜だった。ってか体が動かない。もうすごく満足したので、出会い系サイトのブックマークを消した。間違えてブックマークすべてを消した。もう頭が働いてないみたいだ。

Sは、帰りの電車の中で少し落ち着いたようだった。改めて今日の、出会い系で知り合って、即日会う異質な行為に手を出したことを少し反省しているような面持ちで、メールを送ってきた。

「あたしも色々辛いことがあって疲れてて、どうかしてました。こういう出会い系で犯罪とかよくありますもんね。もしMさんじゃなければ殺されてたかもしれないですよね・・・もうあのサイトとは縁切ります。でもたくさんお話聞いてくれて嬉しかったです。会ったのがMさんで良かったー。」



・・・なんか違う。そういう短絡的な話では無い。僕の言ったことがちゃんと伝わっていたのか少し怪しく感じた。でもどうやら、彼女が本当に人間関係で悩んでいたって事と、出会い系でホイホイ会うことがおかしなことだって事は分かってくれたようだ。まぁ自分も当事者なんだけど。でも今日はこれで良かったと思った。改めて僕はこういうナンパなのは向いてないんだなってことが分かったし。


とにかく疲れた。あと、帰ったあとに彼女が言った情報を元に、彼女がどこの大学に通っているのかネットで調べてみた。まったく苦労することも無く見つけられた。A大だ。昔、バイト先で仲良くなったA大の女の子のことをなぜか思い出した。つまりそれくらい僕には近いと感じるところに通っていた。日本はせまいね、ほんとーに。

その日はとてもよく眠れた。