僕は待ち合わせ場所に向かった。最初に心配したのはやっぱり見た目だ。やっぱりかわいいほうが良い。でも期待はしてなかった。だって出会い系だもん。かわいい子だったらみんなリア充だろ。これは、ここ最近彼女以外の女の子と話していない、男だらけの工学部の学生の勝手な妄想だ。だから少なくとも期待はしていない。心配はしている。



事前にメールで彼女の服装を聞いていたので、人通りの多いT駅の駅ビルの正面入り口の待ち合わせでも、あの子がSだってすぐ分かった。すごく緊張しながら、その子に声をかけた。

「えっと、メールくれた・・・」

「ハイ。」

こうして僕らは本当に出会い系サイトで知り合い、実際に会ってしまった。自分が何をやっているのか、少し困惑した。

彼女は、本当に普通な感じの子だった。

すごく背が小さくて、僕とは20センチくらい違う。ってか童顔でちょっとかわいい。でも、だからこんな子が出会い系をやってるなんて逆にちょっと怪しんだ。




僕たちはまずお互いの年齢を確認した。彼女が自分で言うには18歳で今年大学に入ったばかりらしい。でもその確証は持てない。証拠が無いから。僕は一応真に受けたふりをした。でも見た目はほんとうに大学に入りたてって感じ。

メールでも伝えていたけど、僕は修士2年で今年24歳だって本当のことを言った。名前は嘘を言っていたけど。でも彼女は“修士”って言葉を知らなかったみたいで、僕のことをいっこ上に思っていたらしい。僕は見た目が老けているから、実際会ったあとでもそうやって勘違いしてくれたことは少し嬉しかった。

でも僕はこの後の、お互いのけん制のし合いに、身構える準備をしていた。もちろんエロの方向も視野に入れて。


そして僕は、エクセルシオールカフェに行こうと誘った。まぁゆっくり話せる、そこそこまともな選択だったんじゃないかと思う。一応彼女は未成年だし、お酒はまずいだろう。なにより一番に、彼女の警戒心を解こうと考えていた。でもきっとこれじゃエロの方向にはいかないよね。勢いをつけるんじゃなくて落ち着こうとしてるんだから。これが一番の失敗だった。落ち着きたいのは僕のほうだったかもしれない。


T駅のすぐそばのエクセに入って、僕はアイスコーヒー、彼女はなんか甘そうなやつを頼んでいた。んで喫煙スペースの方に座ったんだっけな。彼女には少し申し訳なかったけど。


一番最初に、なんで僕に返信してくれたかを聞いた。でもまぁ僕の写メが気に入ったからって様子ではなかった(笑)他に何件か来たけれど、見た目がド派手で嫌だったみたい。僕は実は地味な雰囲気の子から好かれることが,この歳になるまでに何回かあった。どうやら地味な子にとって僕は親近感があるらしい。いや、なめられてるといった方が正しいかも。かといってSはそんな地味な感じの子ではなかったけど。逆にホストとかには嵌らなさそう。だから余計、出会い系サイトをやってる理由が分からなかった。

だから僕は、今までこういう感じで会ったことあるの?って聞いた。そしたらメル友だけの関係なら一回あったけどって答えた。正直うそ臭い。でもそこは別に問題じゃない。今後深く関わる気もなかったし。


メールで聞いていた悩みのことを聞いてみた。

悩みはどうやら本当のことだったみたいで、女の子同士にはよくある話だと聞くけれど、仲が良かったのにある日急に態度が一変して、話をしてくれなくなったようだ。

そういう大人気ない話なんて高校生以来聞いてない。でも現にSはほんの数ヶ月前まで高校生だったからな。彼女の話が本当なら。まだ若い子同士ならこういう不毛な戦いもあるんだろう。

この悩みを聞いて、僕は周りの友人たちに恵まれていると改めて思った。男同士なら、気にいらないことがあれば、案外声に出せるもんだ。それはだめだよって。あとエロい話をすれば大抵一発で仲良くなれる(笑)



僕はなぜか、彼女がどうやったら救われるか必死に考えていた。でも明確な答えは見出せなく、具体的なことは言えなかった。だから僕は、就職活動中に面接官から言われた言葉を思い出し、それを伝えた。

「年を取ると、良い意味で孤独になる。だからきっと、一緒にいる仲間を大事にしなきゃいけないよ。」

これは最近、自分自身でもよく思うことだ。年を取るにつれて、友人たちもバラバラになり、本当に自発的に行動できないといつの間にかすぐに孤独になってしまうんじゃないかって思う。



その話をしても彼女はピンときた様子もなくぼんやりと聞いていた。そりゃそうだ。毎日顔を合わす相手との未来なんてそうそう考えないだろう。でも僕はSがこのまま悩みの種の相手と口を利かなくなる状況を想像すると、それがイヤで、彼女になんとか踏ん張ってもらいたいと真剣に思った。無責任だし余計なお世話だったかも知れないけど。


それから話題はお互いの大学生活になった。僕は一日中研究室に引きこもっているだけと伝えた(笑)彼女は、どうやら一番辛いのがグループワークのようだ。確かに急に口を利いてくれなくなったような人と同じグループになるだなんて毎日が憂鬱すぎる。

あと、お互いどの大学に通っているのかをほのめかした。もちろんこの場で個人情報を言う気は無い。でも彼女はあまりそういう個人情報を気に留めない様子だった。だから僕はそのことについて少し口出しした。

「あのさ、あんまり知らない人にいろいろ自分のことを言わないほうがよくないかい?もし俺が怖い人だったらどうするんだよ。」

2ちゃんねらーなら個人情報が流出する怖さをイヤというほど知っていると思う。僕はなぜか、“涼宮ハルヒの憂鬱”の、みくるの顔出しコスプレ写真をSOS団のサイトに載せようとしているハルヒを、キョンが諭すシーンを思い出していた。ってかキョンが言ったようなことを言った。

僕は彼女の警戒心の無さに少しいらついた。

「もし僕が、君の腕をガッと掴んだら、あそこに交番があるから駆け込むんだよ」って冗談を言った。彼女は笑ってくれたけれど、同時にエロフラグは消えた。僕はちょっぴり複雑だった。でも何よりも彼女を安心させたかった。いや、エロい事は考えてないよってカッコつけたかっただけなのかも。もう自分が何をしたいのか分からない。