ところで学校はというと、ますます忙しさが増していた。まぁ僕も修士2年だし、投稿する学会だって近くに2個も抱えている。先生はまだまだ若手だから、学会に投稿して名を上げようと頑張っている。僕はその期待に答えたいと思ったし、なにより修論がコンスタントに進むのはうれしい。
でも僕は工学部の学生で、中でも機械系だ。結果が求められる。しかも目で見て分かりやすいような。だから一抹の不安はずっと抱えているし、ストレスもたまる。そんなときは研究室のみんなと酒を飲みに行くのがデフォだったけど、僕は新しい遊びを覚えてしまった。
タバコを吸う僕は、学校で研究に励む合間に、2時間おきくらいに喫煙所に向かう。ボーっとひとりで考え事ができる貴重な時間だ。研究のアイデアが浮かぶこともままある。
そんな落ち着ける大事な時間はもっぱら例のサイトをチェックする時間に変わっていた。
まぁ投稿内容は相変わらず援交や業者だらけだ。なんとか回避したいと思いながらも、空爆を続けていたから迷惑メールも僕の携帯にはしょっちゅう着信がある。すごくうざい。
でも僕は懲りずにサイトのチェックと気になる投稿にメールを送り続けていた。
友人が喫煙所に来て携帯に集中できなくなったら、僕はすごくバツが悪そうに携帯をしまって、ごまかしていた。まぁこんなこと人には言えない。出会い系をやってるなんて結構恥ずかしいことだ。
しかも僕に長年付き合っている彼女がいるってのは周知の事実だ。人に知れたらきっと軽蔑のまなざしで見られるだろう。
でもきっと友人の中にも多かれ少なかれ出会い系に手を出した人もいるんじゃないかって思う。
たいていの雑誌には広告が貼られているし、ネットをしていても何かと目に付く。
普段は気にならなくても、僕みたいに心が弱っていたり、時間をつぶそうと必死になっているときは、好奇心で覗いてみたりするんじゃないだろうか。だから架空請求なんてのが存在し、まかり通っているんだと思う。
空爆は続けていたけれどいかんせん返信はない。どうやら以前に一週間もメールが続いたなんて奇跡だったみたいだ。出会い系スレの住民も同じようだ。中には面接(実際に会うこと)をたくさんこなす猛者もいるみたいだけれど、まぁ僕にはそこまで武器になるルックスが無い。いろんな角度から自分撮りを試すけれど、その行為自体、自分でもすごく気持ち悪く思う。一重のせいで写真写りが悪くて、撮られるのはすごく苦手だし。
あと、女性の振りをして投稿して、「19歳の専門学校生です(絵文字の笑顔)遊べる友達ほしーい」みたいなことをやってみたんだ。そしたらまぁメールがじゃんじゃん来る。添付されている写メは、僕とは住む世界が違うような派手な人ばかり。こりゃ僕の写メじゃあ返信こないなって悟ったよ。
やっぱり返信が来ないとサイトにも飽き飽きしてくる。広告には「絶対会える!!」なんて無責任なことが書いていて、フザケンナ!って何度思ったことか。段々サイトにアクセスする頻度が減ってくるようになった。きっとこうしてみんな出会い系をやめていくんだろうな。メール帰ってこなきゃアホらしくてしょうがない。僕もつまらないなぁとは思いつつも、あの以前の女子高生とのメールのやり取りをもう一度やりたいなぁって考えて、たまにサイトを覗いていた。
ほんとこういうところはパチンコに似ているよね。あの快感が忘れられなくなる。男はエロと金にはめっぽう弱い。男性誌の最後のほうの広告に、出会い系サイトかパチンコ必勝法ぐらいしかない理由が分かった。
ある日。だいぶやりなれた様子で僕は喫煙所でタバコを吸いながら投稿をチェックしていたとき、ひとつの投稿に目が留まった。「M市の大学に通う一年です。近くの学生のヒトで仲良くなれる人いませんか??」みたいな内容だったと思う。M市は僕の住む町の隣だ。
僕はこの投稿に対して、「○○(仮名)って言います。K市に住む大学院生です。なんちゃらかんちゃら~。よかったらメールしませんか?」って送った。写メも添付して。
このメールの文面は出会い系スレを参考にして、自分なりに返信がきやすいようにがんばって考えた文章だ。本アドだけれど名前は仮名だ。まぁ今まで全然返信がなかったから、女性の心の琴線にはまったく触れていなかったのだろうけど。
そして僕は、どうせ返ってこないだろうなって思いながら喫煙所をあとにして、研究室に戻った。
自分の机に戻り、いすに座ったとき、携帯が鳴った。また業者だろって思いながらメールを見ると、それはどうやらさっき自分がメールした女の子からだった。
「メールありがとぉございます。どこの大学なんですかぁ?」って。
見たこともないようないわゆるギャル文字でメールは書かれていた。再現できない。僕はすこしドキっとした。