思えば、長い間会っていなかったとその時に気が付いた。
名乗ってはいたのだが、同姓の別人だと思っていたようである。
まさか、来ると思わなかったのだろう。一瞬、たじろいだ表情が総てを物語っていた。
彼はゲーム業界でメジャーな役割を演じてきたと思っている。しかし、彼が在籍した幾つかの会社は今は別系列になって事実上は無くなっている。小さなと言ってもある程度の規模のゲーム制作会社を経営してる。彼が私もメンバー(大株主)として入っている上場会社にソフト制作の仕事を貰いに来るまで、どこで何をしているのか知らなかった。
しかし、あまりに辻褄のあうタイミングに「ひょっとしたら。」と言う疑念が脳裏を駆け巡っていた。ゲームも併営している上場会社から出る予定だったのだが、私のゲーム企画が保留されてしまった。私のゲーム企画に横槍を入れた人物がいたようで、それも私の事をよく知っている人物だと言うのである。消去法で人物を特定をしていった時にあまりにタイミング良く登場したので「ひょっとしたら。」と思った。
面会の中で昔のゲーム仲間に話が及んだ。著名な作家と言えども、今は昔の栄光もない人達もいる。そんな話の中で、友人と言えども「競合」しているのだと言う。私は机の上にゲーム関係の数枚の自分名の名刺を置いた。売り込む相手も私自身だと聞いて、表情が強張った。久しぶりの面会なのであるが、何から切り出すのかを探り合う展開になった。その件に触れた方が負けだとも思った。この経営環境の変化で彼はかなり苦しくなっていると思った。
お互いの経緯は知っていたはいたのだけれど、もう一度、最後に会った時と、その後の経緯を話すような一見何でもない会話が続いた。「それでは、忙しいだろうから。」と酒席を断って別れを告げた。エレベータまで送ってくれて、そのまま去ったのだが、「貴方もやっぱり学者だとね。」注1.この一言で、今回の訪問意図を彼は認めたと解釈した。

注1;このゲーム企画は学術的な色彩が強く、学者と言う言い方にはこの企画を見たと言う事を言っていると解釈している。

チング(友へ)
http://www.k-plaza.com/movie/en_mov_ta03.html
韓国映画史上最高の動員数だったと言われるこの映画には友情と譲れない男の立場が描かれています。

チェウニ「トウキョウ・ストーリー」