天皇陛下の「お言葉」全文
に触れて
今上天皇には、一人の国民としてことのほか思いがあるのです。
ご即位なさって初めて伊勢神宮をご参拝になられる日、私はそのことを知らずに、偶然仕事で愛知におりました。
午前中に仕事を片付けて、名古屋駅で昼食を摂ろうと駅に着き、大きな荷物を預けたくてコインロッカーへ向かいました。
しかし、どこを探してもコインロッカーはすべて使用禁止。
駅のごみ箱もすべて蓋がされ、一切使用できなくなっていたのです。
この大荷物をもって食事は摂れないと諦め、新幹線に乗って大阪へ帰ろうと改札へ。
しかし改札も入場を禁止しており、何があったのかと途方に暮れた時、駅員に「陛下がもうすぐここをお通りになられるので、それが終わるまで入場できない」と告げられたのです。
改札の前で入場が許されるまで待とうと決め、ただそこでじっと立っていました。
ほどなくして、大きな筒のように丸められたレッドカーペットを抱えた人が改札を通って中へ入り、それからしばらくしてガタンガタンとホームに新幹線が入線してくる音が響きました。
ホームへ続く階段の上から、おびただしい量のフラッシュが光りながら降りてきます。
その中心におられたのが天皇陛下と、皇后陛下でした。私から両陛下までの距離約15m。
このまま駅の中を通って近鉄電車へ向かわれると後ろから声がして、ああそうなんだなと思ったその時、本来歩く道から左向け左をして、改札の前に立っている私も含めた人々の前に歩いてこられました。
私の前約5mまで両陛下が近づかれ、微笑みを湛えて手を振るお姿を正面に見ました。
このことは誰に話しても信じてもらえないのだけど、その時確かに、陛下の背中に光がさしているように見えたのです。
「後光がさす」
という光景を生れてはじめて目にしました。
当時まだ20歳そこそこでしたが、そのお姿を見ただけで、激烈な尊敬の念を抱いたのでした。
あれから28年。
これまで、陛下はいつも、「国民とともにある」ということがどういうことか、どうあるべきかを模索しながら、この国の象徴としての姿を国民に示し続けてこられた。
陛下が心にもたれている「象徴としての在り方」が、ご自分にとってゆるぎない姿であるからこそ、今回、お気持ちを表されることに至ったのだと思います。
これを受けたすべての国民は、陛下のご意向に添うべく、現制度の足らずを補うように動くべきだと思います。
これ以上、陛下にご無理を強いてはいけない。
今まで、その存在で、言葉で、笑顔で我々を護ってくださってきたのです。
陛下がお元気なうちに、可能な限り楽にして差し上げるべきだと思います。
そして、一日でも長く、あの笑顔を我々に見せていただけるように、今度は我々国民が全力を尽くすべきだと思います。
これまで、どんな時にも天皇陛下と皇后陛下は我々に寄り添ってくださった。
今度は、我々国民のほうから、両陛下に全身全霊で寄り添うべきだと、強く思います。