【今日の1枚】Iron Duke/First Salvo | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Iron Duke/First Salvo
アイアン・デューク/ファースト・サルボ
1974年リリース

クラシックをモチーフに躍動する
気品あふれるキーボードロックの名作

 第一次世界大戦時のイギリス海軍の戦艦の名を採ったデンマークのプログレッシヴロックグループ、アイアン・デュークのデビューアルバム。そのアルバムは華やかなトーンで広がるハモンドオルガンとクラシカルなリードを奏でるムーグシンセサイザーを中心に、アグレッシヴなリズムセクション、そしてメロディアスなギターをフィーチャーした気品あふれるシンフォニックロックとなっている。エドヴァルド・グリーグによる組曲『ペール・ギュント』をモチーフにした15分を超える大曲もあり、エマーソン・レイク&パーマーやエクセプションのようなクラシカルなキーボードロックが堪能できる名作でもある。

 アイアン・デュークは1970年代初頭にデンマークのホーセンスで結成されたグループである。メンバーはイェンス・オルセン(ピアノ、ハモンドオルガン、モーグ)、ハンス・レーセン(ベース、フルート、アコースティックギター、モーグ、ヴォーカル)、元マーメイドというグループに所属していたクラウス・サラップ(ドラムス)のトリオ編成であったが、1974年にトミー・ハンセン(ギター、モーグ、ヴォーカル)が加入して4人編成となっている。トミー・ハンセンは1967年の15歳の時に、デンマークのプログレッシヴロックの先駆的グループと言われたオールドマン・アンド・ザ・シーのメンバーとして活躍していたミュージシャンである。オールドマン・アンド・ザ・シーはベニー・スタンレー(ギター)、クヌート・リンドハルト(ベース)、トミー・ハンセン(オルガン、キーボード)、ラース・ティゲセン(ドラムス)、ロバート・ハウスチャイルド(ヴォーカル)の5人編成のグループである。トミー・ハンセンの華麗なオルガンプレイとベニー・スタンレーのメロディアスなギターが印象的なグループであり、1972年にソネットレコードから1枚のアルバムを残している。しかし、オールドマン・アンド・ザ・シーは結成当初からメンバーチェンジが多く、オリジナルメンバーはトミー・ハンセン1人だけになってしまったという。彼はアルバムリリース後、イエスのアルバム『Close to the Edge』に多大な影響を受け、よりクラシカルでシンフォニックな音楽性を求めて、新たなメンバーを加えて2枚目のアルバムのための新曲を作り始めている。しかし、レコード会社はそのスタイルの音楽に興味がなく、他のレコード会社のCBSデンマークにもアプローチしたが何の成果も得られず、最終的に1975年に解散することになる。そんなグループとして立ち行かなくなってしまったトミー・ハンセンに、ギタリスト兼キーボード奏者として声をかけたのがアイアン・デュークである。アイアン・デュークはモーグシンセサイザーが弾けるキーボード奏者が2人おり、トミー・ハンセンの理想とするシンフォニックロックの音楽性がよく表れたグループでもある。また、メンバーそれぞれがクラシックに精通しており、ヘンデル作曲のオラトリオ『ジューダス・マッカベウス』からの抜粋曲やエドヴァルド・グリーグの組曲『ペール・ギュント』をモチーフにしているなど、オリジナル曲よりもクラシック曲をロックテイストにアレンジしたものが多い。彼らは1974年の9月と10月に、デンマークのホーヴェにあるTocano Studiosでレコーディングを開始し、プロデューサーにはパー・スタンを迎えている。また、デンマークのスキーベにある2track studioで、6曲目の『Psalm(詩篇)』を録音している。こうして大手ポリドールと契約をした彼らは、1974年にデビューアルバムとなる『ファースト・サルボ』をリリースすることになる。そのアルバムはタイトルに『ファースト・サルボ=最初の一斉射撃』と銘打っているものの、華やかなトーンで広がるハモンドオルガンとクラシカルなリードを奏でるムーグシンセサイザーを中心とした気品あふれるシンフォニックロックとなっており、クラシックをロックに落とし込んだような親しみやすい内容になっている。

★曲目★
01.Happy Band(ハッピー・バンド)
02.Iron Duke(アイアン・デューク)
03.The Blacksmith & The Baker(鍛冶屋とパン屋)
04.Beast Of Prey(ビースト・オブ・プレイ)
05.See The Conqu'ring Hero Comes(征服の英雄がやってくる)
06.Psalm(詩篇)
07.Rockin' Edward(ロッキン・エドワード)

 アルバムの1曲目の『ハッピー・バンド』は、トミー・ハンセンとハンス・レーセンが作成した曲。ギターとシンセサイザー、そしてフルートが掛け合うクラシカルなインストゥメンタル曲となっているが、アタックの強いリズムセクションや勇ましいモーグ音に鼓笛隊のようなフルートが妙にマッチしている。2曲目の『アイアン・デューク』は、グループ名であり、第一次世界大戦時のイギリス海軍の戦艦の名でもある楽曲。荘厳なチャーチ風のオルガンから始まり、典雅なシンセサイザーとメロディアスなギターをバックにしたヴォーカル曲。クラシックの持ち込み方はフループに通じるところもあるが、オルガンはオランダのフォーカスのようであり、メタリックなモーグシンセサイザーはエマーソン・レイク&パーマーのようである。3曲目の『鍛冶屋とパン屋』は、エマーソン・レイク&パーマーの『ザ・シェリフ』のようなドラミングから始まり、ホンキートンク風のピアノをフィーチャーした楽曲。全体的にコミカルなイメージを演出しており、モーグシンセサイザーを最大限に活かした内容になっている。4曲目の『ビースト・オブ・プレイ』は、イエスの『サードアルバム』の1曲目の『ユアズ・イズ・ノー・ディスグレイス』に寄せた楽曲。ベースラインを強調してエッジさのあるイエスと比べて、こちらはシンセサイザーをフューチャーしたことで、よりクラシカルな優雅さがある。5曲目の『征服の英雄がやってくる』は、ヘンデル作曲のオラトリオ『ジューダス・マッカベウス』からの抜粋曲をロック調にアレンジしたもの。いわゆる表彰式などで流れる楽曲だが、オルガンとギターをメインにダイナミックにアレンジしている。6曲目の『詩篇』は、シンセサイザーのみを活用した賛美歌風のインストゥメンタル曲。作曲にイェンス・オルセンとあるので、彼自身が弾いている可能性が高い。7曲目の『ロッキン・エドワード』は15分を越える大曲。エドヴァルド・グリーグの組曲『ペールギュント』をベースにした楽曲となっており、踊るようなハモンドオルガンとシンセサイザーによるクラシカルなロックチューンになっている。クラシック曲から引用しているが、独自のセンスでシャープかつスタイリッシュに創り上げたプログレッシヴな曲であり、キーボードロックとしても秀逸な逸品である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、エマーソン・レイク&パーマーやイエスといった英国のプログレの影響が強く感じられるが、北欧らしい端正な音作りと気品のある美しいメロディを極めており、テクニカルかつ聡明さを湛えたサウンドになっている。3人がモーグシンセサイザーを使用していることから、全体的にモーグにあふれており、クラシカルな雰囲気の中にメタリックやコミカル、スペイシーな要素が加味されたキーボードロックとしてのツボもしっかり押さえている。

 アルバムリリース後、トミー・ハンセンはオールドマン・アンド・ザ・シーの活動を続けるべくグループから離れている。しかし、レコード会社との契約を結ぶことができず、1975年に正式に解散している。解散後、トミー・ハンセンはジェイルハウスというスタジオを作り、スタジオエンジニアとして主にメタル系を中心にロックやジャズ、クラシック、ブルースなど幅広い音楽を手掛けていくことになる。彼が手掛けたアルバムの中ではハロウィンの初期作品やTNT、プリティ・メイズ、ヘヴンズ・ゲイトが有名である。一方、アイアン・デュークは、キーボード奏者のイェンス・オルセンが脱退。代わりのキーボード奏者にソレン・グルドベリが加入し、さらにオルガン奏者としてヘニング・ペダーセンも加入している。メンバーのハンス・レーセンは、デンマークのフォークソングや聖歌といった伝統曲をロックテイストにアレンジした楽曲をメインに作成し、1977年にセカンドアルバム『Gammel Dansk』をリリース。その後の活動は停滞していたが、1983年にグリーンピースの慈善用アルバム『Greenpeace Sange Med』のために1曲『En korsvej』を録音している。その後、グループは解散し、ハンス・レーセンとヘニング・ペダーセン、ソレン・グルドベリの3人は、作曲家兼プロデュース業で活躍。中でも3人が曲を提供したジミ&ルネというデンマークの兄弟デュオが大ブレイクし、1992年には当時14歳と12歳のジミ&ルネがリリースしたアルバムは、史上最年少でプラチナ認定を受けたアーティストとなっている。本アルバムはデンマークの国外に出ることも無く廃盤となってしまったが、約40年後の2016年にドイツのペイズリー・プレスから初CD化を果たし、エマーソン・レイク&パーマーやエクセプションのようなクラシカルなキーボードロックが堪能できる逸品として陽の目を見ることになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はクラシカルなツインキーボードやフルート、メロディアスなギターを効果的に活用したデンマークのプログレッシヴロックグループ、アイアン・デュークのデビューアルバム『ファースト・サルボ』を紹介しました。ほとんど情報も無く無名に近いグループだったのですが、唯一、後にプリティ・メイズやクローミング・ローズ、ハロウィンの初期作品、ガンマ・レイ、ヘヴンズ・ゲイトといったメタル系グループのアルバムを手掛ける名スタジオエンジニアのトミー・ハンセンが所属していたグループであると分かり、1990年代以降にオールドマン・アンド・ザ・シーと共に名前が浮上することになります。元々、アイアン・デュークは古楽や伝統曲、クラシック曲をベースにアレンジすることを得意としていたロックグループだったらしく、それが如実に表れるのが、1977年のセカンドアルバム『Gammel Dansk』となります。彼らが無名に近いグループだった理由は、オリジナル曲がほとんど無く、メンバーのほとんどが解散後に作曲家やプロデューサーといった裏方に回ってしまったからだと思います。

 さて、本アルバムはタイトルに『ファースト・サルボ=最初の一斉射撃』とありますが、明るく華やかなトーンで広がるハモンドオルガンとクラシカルなリードを奏でるモーグシンセサイザーを中心に、クラシックのモチーフを軸に展開するシンフォニックロックになっています。そこにフルートやギター、そして意外とアグレッシヴなリズムセクションを加味しており、さらにエマーソン・レイク&パーマーとほぼ同じくらいの強烈なキーボードパターンもあります。クラシックをモチーフにした曲、ひいてはイエスの『ユアズ・イズ・ノー・ディスグレイス』に寄せたアレンジ曲があるものの、穏やかで心地よく、さらには技巧的で聡明さを湛えたキーボードロックとして秀逸な作品です。個人的にはエドヴァルド・グリーグの組曲『ペール・ギュント』をモチーフにした15分を越える大曲は、アレンジのセンスの高さだけではなくプログレッシヴロックとしても聴き応えがあります。もっと冒険心があれば、飛躍的に知名度のあるグループになった可能性もあり、少しもったいないな~と思います。ぜひ、北欧らしいメロディと心躍るサウンドを聴いてみてください。

それではまたっ!