【今日の1枚】Silesian Blues Band(SBB)/Welcome(ウェルカム) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Silesian Blues Band/Welcome
シレジアン・ブルース・バンド/ウェルカム
1979年リリース

クラシカルで気品に満ちた旋律が躍る
東欧シンフォニックプログレの名盤

 現在でも現役で活動を続けるポーランドが誇るプログレッシヴロックグループ、シレジアン・ブルース・バンド(SBB)の通算9枚目のアルバム。本作はピアノやエレクトリックピアノ、クラヴィネット、メロトロン、オルガンといった多彩なキーボードを操るユゼフ・シュクルゼクを中心に、驚異ともいえる技巧とテンションでこれまで以上にシンフォニック色が強まったSBB後期を代表する1枚となっている。本作は世界進出を目論んだ英語歌詞となっており、東欧にエマーソン・レイク&パーマーの全盛期にも匹敵するグループがいたことを知らしめた名盤である。

 シレジアン・ブルース・バンド(以下SBB)は、1971年にポーランドの上シレジア地方にあるシェミャノヴィツェで結成されたグループである。メンバーはキーボード兼マルチ楽器奏者、作曲家、ヴォーカリストであるユゼフ・シュクルゼク、ギタリストのアポストリス・アンティモス、パーカッショニストのイエジー・ピオトロフスキであり、ベースレスのトリオ編成となっている。ユゼフ・シュクルゼクは1960年代にスクレザニエやアメティスティ、ブレイクアウトといったグループに所属していたマルチ楽器奏者である。彼はキーボードを主体としたプログレッシヴな音楽を目指すために、同郷のジャズ志向のギタリストであるアポストリスとジャズドラマーのイエジーを誘って、出身地のシレジアにちなんでシレジアン・ブルース・バンド(SBB)を結成する。結成当初から1973年までの2年間は、後にジャズフュージョンやエレクトロニックミュージックで活躍するポーランドの偉大なるシンガーソングライター、ニーメン(チェスワフ・ニーメン)のバックバンドとして活動を開始している。詩人であり優れたキーボード奏者でマルチ楽器奏者でもあったニーメンと共演したユゼフ・シュクルゼクは、彼のハモンドオルガンやメロトロン、モーグシンセサイザーを演奏するプログレッシヴな音楽スタイルにかなり影響を受けたという。SBBはニーメンと共に 1972年のミュンヘン夏季オリンピックの「Rock&Jazz Now!」のオープニングショーで、マハヴィシュヌ・オーケストラのジョン・マクラフリン、チャールズ・ミンガスらと共演し、その後はジャック・ブルースのバンドと共にツアーを行っている。ニーメンはCBSから3枚の英語歌詞のアルバムを録音しており、そのうち2枚(ポーランドでさらに3枚)は、SBBとの共演である。1974年になるとSBBはニーメンのバックバンドから独立し、グループ名をポーランド語のSzukaj Burz Buduj(SBB)に変更。同年の4月18日〜19日にワルシャワのKlub Stodołaで行われたコンサートのライヴアルバムを録音し、国営レーベルであるPolskie Nagrania Muzaからライヴアルバム『SBB』をリリースしている。この作品はピアノバラードやダーティなロック、実験性のある即興などが盛り込まれたライヴアルバムだったが、ポーランドで大ヒットして商業的に大きな成功を収めている。1975年にはポーランドのラジオ3のスタジオで最初のスタジオアルバムを録音し、同年に『Nowy horyzont(新地平線)』をリリースしている。そのアルバムはレコードのB面をフル活用した20分に及ぶ大曲を収録しており、クラシカルなキーボードをメインに据えたプログレッシヴなサウンドになっているという。

 SBBはポーランドで一躍人気のグループとなり、アルバムを出す毎に今度は周囲のヨーロッパの国々からも注目される。1977年から1978年初頭にかけて、SBBはポップやファンクジャズ寄りの実験的な試みを行ったアルバムをリリースし、1978年は西ヨーロッパ市場を狙ったアルバム『Follow My Dream』で、新たなプログレッシヴロックの方向性を示している。彼らは1978年までに計8枚のアルバムのレコーディングを行う傍ら、定期的にチェコスロバキアや東ドイツ、西ドイツ、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ハンガリー、オーストリア、スイス、オランダ、ベルギーといった国に赴いて積極的にツアーを行ったという。このSBBの活動に1978年にOIRT(国際ラジオテレビ機構)から「黄金のウミツバメ」を受賞している。SBBはさらにイギリスやアメリカでのアルバムリリースやツアーを行いたいがために、レーベルをポーランドのビデオおよびオーディオ録音会社のWifonに移籍。英語の歌詞にするために雑誌ジャーナリストのパウェウ・ブロドフスキと作詞家のポール・ドラシュを迎え、そしてドイツの偉大なエンジニアであるコニー・プランクの下でレコーディングをしている。こうして1979年にSBBにとって9枚目のアルバムとなる『ウェルカム』がリリースされることになる。そのアルバムはエレクトリックピアノ、クラヴィネット、メロトロンといったヴィンテージ級のキーボードを巧みに使用するユゼフ・シュクルゼクを中心に、全編に渡ってシンフォニックなサウンドが展開されており、躍動感あふれるパートや緊迫感のあるパート、そして東欧らしい透明感のあるパートが織り成した素晴らしい作品になっている。
 
★曲目★
01.Walkin' Around The Stormy Bay(嵐の海岸線)
02.Loneliness(孤独)
03.Why No Peace(ホワイ・ノー・ピース)
04.Welcome Warm Nights And Days(暖かい昼夜にようこそ)
05.Rainbow Man(虹色の男)
06.How Can I Begin(ハウ・キャン・アイ・ビギン)
07.Last Man At The Station(ラスト・マン・アット・ザ・ステーション)

 改めてメンバーの担当楽器を紹介しよう。ユゼフ・シュクルゼク(ピアノ、エレクトリックピアノ、クラヴィネット、メロトロン、オルガン、エレクトリックオルガン、ハーモニカ、チューブラーベル、マリンバ、ヴォーカル)、アポストリス・アンティモス(エレクトリックギター、パーカッション)、イエジー・ピオトロフスキ(パーカッション)である。なお、ベース音はキーボードでカバーしている。1曲目の『嵐の海岸線』は、SBBの代表曲ともいえる名曲であり、ミステリアスでスペイシーなイントロから始まり、ピアノやシンセサイザーとドラムスが加わった壮大なテーマとなる楽曲。途中で煌めくようなピアノとエキゾチックなシンセサイザーが絡み合い、キメの多いテクニカルなリズムが導く緊張感あふれるパートとの静と動の展開が美しい。後半は手数多いドラムで明るく躍動する重厚なアンサンブルとなり、楽曲構成も優れた内容になっている。2曲目の『孤独』はピアノのアルペジオに導かれて始まるメランコリックなバラード曲。ヴォーカルは多重録音によるコーラスになっており、全体的に神秘的な雰囲気が漂う。後半ではうねるようなギターソロを経てストリングシンセサイザーを含めたキーボードによる壮大なシンフォニックロックとなる。3曲目の『ホワイ・ノー・ピース』は、繊細なシンセサイザーによる幻想的なイントロから、ギターを加えたファルセットのスキャットを交えた爽快なヴォーカル曲。美しいエレクトリックピアノを中心としたキーボードの響きとファンキーでありながらヘヴィなギターリフの絡みがどこか新鮮であり、後半はリズミカルなアンサンブルでフェードアウトしている。4曲目の『暖かい昼夜にようこそ』は、ユゼフ・シュクルゼクによるピアノの弾き語りから始まり、コーラスやストリングスが加わって次第に音が重なっていき厚みが増していく楽曲。リズムセクションは登場しないため、ユゼフのソロ曲といっても過言ではないバラード曲である。5曲目の『虹色の男』は、スローテンポの中で即興的なピアノやギターリフ上で歌うジャジーな雰囲気が漂う楽曲。途中からハーモニカを交えたアップテンポな曲調となり、その後は手数の多いハイハットに乗りながら静かに終えている。6曲目の『ハウ・キャン・アイ・ビギン』は、チャーチオルガンとチューブラーベル、そしてアコースティックギターによる荘厳なオープニングから始まり、清浄な空間の中で情感的なヴォーカルが印象的な楽曲。後半になるとその重なり合った声とオルガン共にシンバルやティンパニが加わりながら次第に盛り上がり、最後はチャーチオルガンを中心に神々しい雰囲気に包まれながら終えている。7曲目の『ラスト・マン・アット・ザ・ステーション』は、前衛的でイマジネーション豊かなイントロから、宇宙的で幻想的とも言えるエコーのかかったシンセサイザー音が印象的な楽曲。後にゆったりとリズムの中でエレクトリックピアノとハイハットの音を中心としたバックのヴォーカルとなり、後半はオルガンとギターが絡まったブルージーな曲調でフェードアウトしている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、これまで即興性の高い長尺の曲が多かったが、本作ではヴォーカルを加えたコンパクトな曲を中心としたキャッチーで聴きやすい内容になっている。それでも多彩なキーボードを駆使したSBBらしいスペイシーな広がりのあるインプロヴィゼーションや斬りこむようなドラムス、テクニカルなギターなど、ロックやジャズ、クラシック、ファンク、ブルースといった多種多様なジャンルを巧みなアレンジで演奏しており、1曲の中に凄まじいほどのエネルギーとテンションが垣間見える素晴らしいアルバムと言える。

 アルバムはシンフォニック期のSBBの到達点ともいえる傑作となったが、1970年代末のイギリスをはじめとする西ヨーロッパはパンク/ニューウェーヴが席巻しており、結果として売り上げは芳しくなかったという。そんな折、ポーランドの国内では1981年12月13日に戒厳令が布告され、政府が政治的反対勢力、特に連帯運動に対抗するために憲法に基づかない軍事政権である救国軍事評議会(WRON)が結成される。反対派に対する弾圧により、アメリカのレーガン政権はポーランドと隣国ソ連に対して経済制裁を行い、ポーランドの経済はさらに悪化していったという。SBBはその戒厳令が出される前の1980年11月に解散している。3人のメンバーと技術スタッフは形を変えて活動を続け、ポーランドで戒厳令が布告される11か月前に制作された予言的な映画『宇宙戦争:新世紀』に参加している。戒厳令が布告された後もアポストリスはジャズトランペット奏者のトマシュ・スタンコとギリシャのグループ、ジョージ・ダララスに加わり、イエジーはコンビやヤング・パワー、クルザク、スタニスワフ・ソイカといった様々なグループに参加。ユゼフ・シュクルゼクは主に宗教施設でオルガンを演奏したという。1989年にポーランドで共産主義が崩壊した後、1991年に再度メンバーが顔を合わせ、1993年、1998年に短期間のライヴ活動を行っている。その間にドラマーのイエジー・ピオトロフスキがアメリカに滞在するためにグループから離れてしまうが、新たなドラマーにパット・メセニー・グループのメンバーとして活躍したポール・ワーティコを迎えて、2000年にSBBを正式に再結成している。2002年には20年ぶりとなるスタジオアルバム『ナストロジェ』をリリースし、ポーランドの他にロシアでもライヴツアーを行い、2006年にはメキシコのメヒカリで開催されたBaja Progフェスティバルのハイライトとしても演奏したという。2017年にはイエジー・ピオトロフスキが復帰し、ユゼフ・シュクルゼクとアポストリス・アンティモスと共に2024年の現在でもライヴを中心に活動を続けているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はポーランドの代表的なロックグループであり、東欧のテクニカルシンフォニックロックの傑作としても名高いシレジアン・ブルース・バンド(以下SBB)の9枚目のアルバム『ウェルカム』を紹介しました。SBBは1974年にニーメンのバックバンドから独立した際、グループ名をポーランド語で「探せ、壊せ、築け」を意味するSzukaj Burz Buduj(SBB)に変更していますが、ここでは一般的に知られたSilesian Blues Band(SBB)で統一しています。SBBは現在までにライヴアルバムを含めて20枚以上ありますが、私個人としては初めて聴いたアルバムが本作になります。というより、プログレファンからすればSBBといえば『ウェルカム』というくらい、シンフォニックプログレの名盤とされています。最初に聴いた時、東欧のポーランドでこれだけ技巧とテンションを持ったグループが存在したことにかなり衝撃を受けまして、他に『Nowy Horyzont(新地平線)』や『Pamięć(記憶)』といった初期のアルバムも聴きました。どれも長尺の曲があって即興的で大作指向の強いアルバムですが、プログレらしい技巧性と安定した表現力を持った素晴らしい作品だと思います。そんなテクニカルなインスト主体の作品ばかりを作ってきた彼らが、あえてキャッチーな歌モノにして全般的にコンパクトな曲にしたのが本アルバムとなります。とはいっても、シンセサイザーを重ねたシンフォニック性と手数の多いドラムスによる躍動感などがあって、それはそれは聴きやすく広がりのある音像に圧倒されます。まさにこれまで以上に洗練されたサウンドと言った感じです。

 さて、本アルバムは何と言っても、グループの代表曲にしてシンフォニック期SBBの到達点ともいえる1曲目の『嵐の海岸線』で幕を開けます。重厚なイントロからキメの多いテクニカルなリズムが導く緊張感あふれるパート、中盤で東欧らしい美しいピアノとシンセのパートを経て、後半では手数の多いドラムとシンセの高らかなメロディと共に躍動してフィニッシュするという文句なしの素晴らしい楽曲になっています。2曲目の『孤独』はピアノのアルペジオに導かれて始まるメランコリックなバラードとなっており、ユゼフの多重録音による分厚いコーラス、ストリングシンセを活用したシンフォニックな曲調になっており、このあたりから一気に惹きこまれること間違いなしです。他にもユゼフ・シュクルゼクが操るチェンバロ風シンセやストリングシンセ、ピアノを重ね合わせた幻想的な曲やチャーチオルガンを使用した荘厳な曲もあり、彼らのイマジネーション豊かなイントロから始まる神秘的な音空間には驚かされます。個人的には5曲目のジャジーなピアノと歌が掛け合うファンキーな曲調となった『虹色の男』が印象的で、変化するテンポや手数の多いハイハット、ブレイクなどがあるテクニカルな曲になっていて、彼らが本来キーボードを主体としたジャズロックのグループであることを想い起させてくれます。そんな世界進出を意識してアメリカナイズされた要素を持ちつつも、シンフォニックプログレの要点を押さえた本アルバムは、SBBというプロの音楽集団としての矜持と自分たちがやりたい方向性がうまくマッチした稀有な1枚となっていると思います。

 本アルバムはマレク・コムザというデザイナーが描いた真夜中に翼のような耳を持った首が飛んでいるという、ちょっと悪趣味…もとい、インパクト大のジャケットが目に行ってしまいますが、1970年代を通してその名をヨーロッパに轟かせたSBBによるシンフォニックプログレの到達点であり傑作でもあります。東欧にもこんなに素晴らしいシンフォニック作があることをぜひ知ってほしいです。ちなみにCDのボーナス曲としてライヴ曲が収録されていますが、彼らのライヴはどれも即興性と技巧性に満ちた素晴らしい演奏になっています。

それではまたっ!