【今日の1枚】Pentacle/La Cléf Des Songes(夢想への鍵) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Pentacle/La clef des songes
パンタクル/夢想への鍵
1975年リリース

メランコリックな幻想感が漂う
フレンチシンフォニックの傑作

 そのナイーヴな感性と歌心にあふれ、ピュアな世界観を描いたフランスのシンフォニックロックグループ、パンタクルの唯一作。そのサウンドはオルガンやムーグ、ストリングシンセサイザーによる多彩なキーボードワークと泣きのギター、そしてヴォーカルはシアトリカル系ではなくストレートな語り口となっており、メランコリックな幻想感が漂う優れたシンフォニックロックとなっている。プロデューサーはアンジュのクリスチャン・デカンが務めており、本作のみで終わったことが惜しまれるフランスらしいロマンと陰りが詰まった逸品である。

 パンタクルは元々、フランスの東にあるベルフォールという都市でジェラール・リューズ(ギター)とミッシェル・ロイ(ドラムス)が中心となって、1960年代に結成したオクトパスというグループが母体となっている。ミッシェル・ロイはザ・ウルフズというグループでクラブで演奏しており、そのグループには後のアンジュのメンバーとなるベーシストやギタリストも在籍していたという。この頃から同じベルフォール出身のアンジュの人脈とかなり近接していたと言えよう。後にミッシェル・ロイはジェラール・リューズと共にオクトパスを結成して活動を開始し、地元で行われたローカルなグループによるコンテストに出場して優勝を果たしている。これがきっかけとなってパリに出ることになり、一時はプロのマネジメントを受けるよう然るべきオファーもあったという。しかし、メンバー全員が仕事を持っており、アマチュアのままでいたいという考えから全てのオファーを断っている。結局、オクトパスは地元のベルフォールに戻ってしばらく活動し、1971年に解散することになる。その後、メンバーは様々なグループで活動を続けたが、再度、ジェラール・リューズとミッシェル・ロイが顔を合わせ、クロード・メネトリエ(キーボード)、リチャード・トレイバー(ベース)を加えた新たなグループを結成する。彼らは明確にプログレッシヴロックのオリジナル曲を演奏するグループを目指そうと意思統一を図り、1974年6月に正式にパンタクルというグループ名で活動を開始する。彼らは1974年11月29日にベルフォートにあるカルティエ・レジデンス内のユースセンターでステージデビューを果たしており、その場にはすでにフランスのトップグループとして君臨していたアンジュのメンバーであるクリスチャン・デカンと最初期のドラマーであるジェラール・ジュルシュが訪れていたという。アンジュのいくつかのメンバーはパンタクルのメンバーと顔見知りであり、ジェラール・ジュルシュにドラムを教えたのはミッシェル・ロイと言われている。彼らは同ライヴステージの数日後にはアンジュのマネージャであるジャン・クロード・ポニャンの肝入りで、フランスのレコードレーベルであるアーケインと契約。また、フランスのワーナー系からのデビューが決定することになる。プロとなった彼らは1975年2月にフランス東部の都市ブサンソンにあるスタジオに入り、プロデューサーにはアンジュのクリスチャン・デカンが担当。こうして1975年5月にデビューアルバムである『夢想への鍵』がリリースされる。そのアルバムは初期のキング・クリムゾンやザ・ムーディー・ブルースを思い起こさせる情感的なシンフォニックロックとなっており、奥ゆかしくメランコリックな幻想感が漂ったフレンチロックらしい逸品となっている。

★曲目★
01.La Cléf Des Songes(夢想への鍵)
02.Naufrage(難破船)
03.L'Âme Du Guerrier(兵士の魂)
04.Les Pauvres(貧しき民)
05.Complot(陰謀)
06.Le Raconteur(語り部)
★ボーナストラック★
07.Complot ~Live~(陰謀~ライヴ~)
08.Le Raconteur ~Live~(語り部~ライヴ~)
09.La Cléf Des Songes ~Live~(夢想への鍵~ライヴ~)

 アルバムの1曲目の『夢想への鍵』は、キーボード奏者のクロード・メネトリエが作曲した楽曲で、リューズの美しいリードギターとメネトリエのオルガンとストリングシンセサイザーが響き渡った内容になっている。繊細なヴォーカルや中盤のギターソロなど、非常にドラマティックな展開となっており、メロウなコントラストを描いた逸品である。2曲目の『難破船』は、風が吹く中でかすかなギターの音色が響き、その後、かき鳴らされたギターと繊細なヴォーカルとなる楽曲。寂しそうなキーボードに乗せ、憂いを帯びたヴォーカル、そして抒情的なエレクトリックギターによる美しい展開を魅せ、最後はスピーディーで激しい演奏で終えている。3曲目の『兵士の魂』は、繊細なアコースティックギターとストリングスシンセサイザーに乗せたヴォーカルが印象的だが、後半は華やかなオルガンとギターによる競演が素晴らしい楽曲。1曲の中に様々なテーマが渦巻いており、聴き手をうならせる展開が随所にある。4曲目の『貧しき民』は、アコースティックギターのアルペジオをベースにしたフォーキーな楽曲。どこか郷愁を誘う音色の中でピアノやハードなギターソロがあり、より一層物寂しい雰囲気を創り上げている。5曲目の『陰謀』は、壮大なオルガンの音色から始まり、力強いシンセサイザーやギターをバックにした優しいヴォーカルが印象的な楽曲。中盤の哀愁のギターソロや美しいシンセサイザーソロが素晴らしく、重苦しい中でもメロディアスさを失っていない。6曲目の『語り部』は、10分を越える大曲。シンセサイザーとオルガンがリードし、アコースティックギターを交えた叙情的な演奏がいつしか昂揚し、ギターとムーグが交互にソロを取りつつ盛り上がってゆく楽曲。多くのフレージングを極めたギターとシンセサイザーの繊細さと丹念なアンサンブルは非常にジェネシス的であり、穏やかさとアグレッシヴさの中にひと際光ったセンスを魅せつけた名曲である。ボーナストラックはムゼア盤のCDから収録されたライヴ曲。ベルフォールの青少年センター「Des Résidences」で録音されたものである。レコード盤と比べて曲が長くなっており、収録時に短縮アレンジを要求されたことが分かる。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ストリングシンセサイザーとハードロック調のギター、そして虚ろで物憂げなヴォーカルが作りだした正統なシンフォニックロックといえる。単にメランコリックな旋律が続くだけではなく、追いたてるような展開やソロパートが充実しており、フランス特有の何とも言えないロマンを感じる傑作である。

 本アルバムはデビュー間もない新人グループながらアンジュのクリスチャン・デカンがプロデュースしたこともあって注目を集め、初回プレスの3,000枚のレコードはすぐに売り切れ、ワーナー系のカナダ盤は5,000枚が売れたという。彼らはアルバムリリース後、積極的にライヴを行い、アンジュのクリスチャン・デカンが飛び入り参加したり、アンジュのツアーサポートに抜擢されたりするなど順風満帆だったが、メンバーに不幸が襲いかかる。ギタリストのジェラール・リューズが破傷風に感染してしまい、とある大きなステージをキャンセル。代打となったグループがハードロック指向だったため、興行にダメージを与えてしまったという。元々、メンバーはディストリビューションやマネジメントに不満を持っており、ライヴではステージクルーを付けてもらえず、セッティングから撤収まで自分たちで行っていたらしい。また、レコーディングでは曲の長さをいじられたり、乏しい機材による短期間の録音を強いられたりと我慢をしていたが、リューズの破傷風による感染でライヴすらまともにできなくなってしまったことで意気消沈。その後もマネジメントからのカナダへのライヴオファーを断る事態にまで陥り、1976年に解散することになる。メンバーのその後は地元で仕事を兼任しながらセッションミュージシャンとして活躍するが、ドラマーのミッシェル・ロイは作曲家兼ドラマーとして、2000年代まで多くのフランスのアーティストとコラボレーションを行っている。本アルバムは評価が高かったにも関わらず、その後も再販は行われないまま廃盤となっていたが、20年後の1995年にフランスのプログレッシヴロックの歴史に残る重要な作品を発掘するムゼアからCDとしてリリースを果たしている。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はストリングシンセサイザーによるメランコリックでピュアな世界観を描いたフランスのシンフォニックロックグループ、パンタクルの唯一のアルバムを紹介しました。Pentacleと検索するとオランダのデスメタルのグループがひっかかりますが無論別グループです。彼らのサウンドは同時代のグループにあるシアトリカルさや複雑さを避け、ナイーヴな感性によるシンフォニックロックとなっていて、寂しげな旋律とフランス語独特の虚ろで物憂げな響きのあるヴォーカルが特徴となっています。ジャケットのイラストはドラマーのミッシェル・ロイの職場の同僚だったアマチュアのイラストレーターが描いたもので、パンタクルというグループ名も彼が名付けたそうです。彼らは地元志向というかアマチュア志向が強かったそうで、ベルフォールで仕事に就きながらグループ活動をしていたらしく、アンジュのサポートという破格の待遇を得たにも関わらず、一貫して変わらなかったと言われています。中でもレコードレーベルのアーケインのスタッフであったアラン・ジャキノは、彼らの音楽を気に入り自らマネージャーを買って出て多くのライヴをブッキングしたといいます。しかし、彼らは地元の仕事を優先して週末のエントリーにしか応えず、いくつものステージをキャンセルしたそうです。アルバムがリリースされた後も実はカナダのフランス語圏であるケベック州で評価が高まり、マネジメントからケベックツアーを打診されたのですが、これも地元から出たくない理由で断っています。ここまで地元愛というか地元志向が強いグループというのも珍しいですが、レーベルやマネジメントの意向に沿った音楽活動に居心地の悪さを感じていたのかもしれません。

 さて、アルバムですが、物憂げなフランス語のヴォーカルとその歌を盛り立てる力強くも穏やかな演奏が特徴のシンフォニックロックとなっています。ストリングスシンセサイザーやムーヴ、オルガンを活用したキーボードがリードしますが、メロディアスで泣きを魅せるハードロック調のギターがポイントとなっていて、全体的にほの暗い色で覆われた楽曲に勇ましさや力強さを与えています。どこか寂しく暗い旋律の中でも空を仰ぐような光にも似た華やかさがあり、ロマンティックな幻想美を感じさせた秀逸なアルバムだと思っています。個人的には華やかなオルガンとギターによる競演がある3曲目の『兵士の魂』やジェネシス的な多くのフレージングを極めたギターとシンセサイザーが素晴らしい大曲である6曲目の『語り部』がオススメですが、どの曲も単調で終わらないプログレッシヴな感性が息づいた聴き応えのある楽曲ばかりになっています。

 本アルバムはフランスの多くのプログレッシヴロックの中でも隠れた愛好家が多い作品としても有名です。その繊細なアンサンブルで奥ゆかしいほどの幻想を描いた彼らの唯一作をぜひ聴いてみてください。

それではまたっ!