【今日の1枚】Gnidrolog/Lady Lake(ニドロログ/レディ・レイク) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Gnidrolog/Lady Lake
ニドロログ/レディ・レイク
1972年リリース

ダークな質感と英国的叙情性を
合わせ持ったヘヴィプログレの名盤

 「Gnidrolog」という奇妙なグループ名でデビューした英国プログレッシヴロックグループ、ニドロログのセカンドアルバム。そのアルバムはフルートやサックスを取り入れたジャズロックをベースに、キング・クリムゾンやヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターなどに近似したダーク系プログレとなっており、英国的叙情性を帯びた繊細なパートと緊迫感あふれるヘヴィなパートを備えた傑作となっている。2枚のアルバムを残してグループは解散してしまうが、その美しいジャケットアートも相まってプログレッシヴロックの愛好家のあいだでは今なお絶大な人気を誇る1枚でもある。

 ニドロログは1969年に双子の兄弟であるコリン・ゴールドリング(リードヴォーカル、ギター、リコーダー、サックス)とスチュワート・ゴールドリング(リードギター、ヴォーカル)によって、英国のウェールズで結成されたグループである。この若き兄弟に集まったメンバーは、元R&Bグループのシンジケートのメンバーだったピーター・カウリング(ベース、チェロ)、ユーライア・ヒープの前身グループとして知られる元スパイスのナイジェル・ジョン・ペグラム(ドラムス、フルート、オーボエ、ピアノ)が加入している。当初は兄弟の名であるゴールドリングをグループ名として考えていたが、1933年からイギリスを本拠に置く世界的なオーディオメーカーであるゴールドリングという会社名とかぶるため、ゴールドリングのスペルをアナグラム化したニドロログとしている。4人編成で活動を開始した彼らは主にギターを中心としたR&Bを演奏していたが、ソフト・マシーンやヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターといったアートロック、そしてキング・クリムゾンのプログレッシヴロックがセンセーショナルになるにつれ、サウンドの形態を変えて行ったという。やがてロンドンの多くのクラブでギグを行った彼らは、レコード会社であるRCAと契約を結ぶことに成功している。プロデューサーにジョン・シュローターを迎えてレコーディングされ、1972年5月にデビューアルバム『...In Spite of Harry's Toenail』をリリース。そのアルバムは独特のダークさと荒々しさのあるジャズロック色なアンサンブルを発揮したダイナミックなサウンドになっており、キング・クリムゾンやヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターに影響されたと思われる内容になっている。彼らはデビューアルバムリリースの同月である1972年5月に、スキン・アレイやバッジー、ウォーホース、ジョン・マーティンといった新進気鋭のアーティストと共にグレート・ウェスタン・エクスプレス・リンカーン・フェスティバルに出演している。その後、元ナイン・デイズ・ワンダーに参加したことのあるジョン・アール(サックス、フルート)が加入し、10月になるとセカンドアルバムのレコーディングをするためにロンドンのモーガン・スタジオに入っている。彼らは曲ごとにコンセプトを設け、集大成的な曲構成とアレンジを加えた作品にするためにプロデュースはディック・パーキンソンとグループが行ったという。また、レコーディングにはゲストにシャーロット・フェンドリッヒ(ピアノ)が参加している。こうして1972年12月に本セカンドアルバム『レディ・レイク』がリリースされる。そのアルバムはギターと洗練された管楽器によるダークな不協和音を基本とし、そこに英国的な叙情性と精緻さを備えたダイナミックな展開が秀逸な傑作となっている。
 
★曲目★
01.I Could Never Be A Soldier(アイ・クッド・ネヴァー・ビー・ア・ソルジャー)
02.Ship(シップ)
03.A Dog With No Collar(ア・ドッグ・ウィズ・ノー・カラー)
04.Lady Lake(レディ・レイク)
05.Same Dreams(セイム・ドリームス)
06.Social Embarrassment(ソーシャル・エンバラスメント)

 アルバムの1曲目の『アイ・クッド・ネヴァー・ビー・ア・ソルジャー』は、11分を越える楽曲となっており、ギターとヴォーカルによるフォーク調にフルートを加えた繊細なイントロから、ジャジーなリズムをベースにフルートが支配していく。ジェスロ・タルのような激しいフルートの音色にピーター・ハミルを思わせる情感的なヴォーカルが交差し、当時のキング・クリムゾンの『I Talk to The Wind』を思わせる。最後はブルージーなギターソロを経てホーンセクションを交えたジャズロックが展開される。歌詞は暴力的な紛争が不公平な世界を生み出す厳しい現実を描いた反戦叙事詩となっている。2曲目の『シップ』は、巡礼をテーマとした楽曲となっており、独特のジャズのリズムを持つホーンセクションと繊細なアコースティックギターによる美しいヴォーカル曲。1960年代のブルースとフォーク、ジャズを程よくミックスさせた内容になっているが、全く古さを感じさせないアレンジの妙がある。3曲目の『ア・ドッグ・ウィズ・ノー・カラー』は、美しくも短いアコースティックバラード曲。首輪の無い犬が彷徨う様子を描いた歌詞をベースに、オーボエの響きがより一層悲哀さを表現しているようである。4曲目の『レディ・レイク』は、力強いベースとホーンセクションによるイントロからキング・クリムゾンの『ポセイドンのめざめ』を思わせるジャズテイストの強い楽曲。ヴォーカルを経てギターとフルートによる美しいサウンドスケープから、6分辺りからサックスのインタープレイは混沌としており、ホーンセクションを加えたダークな不協和音が支配する。最後のサックスの悲鳴に近い音は湖の白鳥が鳴いているようである。5曲目の『セイム・ドリームス』は、ゲストのシャーロット・フェンドリッヒによる華麗なピアノをメインにフィーチャーしたクラシカルなラヴバラード曲。リズムセクションが少ない割に豊かなサウンドを創生している。6曲目の『ソーシャル・エンバラスメント』は、ジョン・アールがヴォーカルを務めるダークでパワフルな楽曲。ジェントル・ジャイアント風のコーラスとハイテンションなホーンセクションによるユニークな内容になっており、やや攻撃的なサックスの響きと後半のギターリフが印象的である。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ホーンセクションを加えた初期のキング・クリムゾンとヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイター、さらにはマグマやジェントル・ジャイアント的と言っても良いほど、繊細さと大胆さが練り込まれたサウンドになっている。場合によっては凶悪で荒々しいともとれるが、巧みな管と弦の交わりは深い抒情性と妙な緊張感を生みだしており、思わず気品すら感じる不思議な感覚に陥ってしまう。

 本アルバムは様々なコンセプトを持ったアルバムだったが、商業的な成功には結びつかず、年内にグループは解散している。彼らは短いキャリアの中でデヴィッド・ボウイやコロシアム、キング・クリムゾン、ジェントル・ジャイアント、ウィッシュボーン・アッシュ、ソフト・マシーン、マグマといったアーティストとギグを行ったものの、常に無名のままだったという。解散後、ゴールドリング兄弟は1976年にパンクロックグループであるポーク・デュークスを結成。その後は様々なメンバーとセッション活動を続けたという。ナイジェル・ジョン・ペグラムはスティーライ・スパンに加入し、17年間のあいだドラマーとして活躍することになる。ピーター・カウリングはフライング・ハット・バンドを経て1975年にパット・トラヴァースを結成している。1982年までに8枚のアルバムに貢献し、米国のAORグループであるジプシー・クイーンに参加。多くのアーティストと共演するなど精力的な活動を続けていたが、2008年3月20日に白血病で亡くなっている。ジョン・アールはニドロログを含むアルバムを販売するレコード梱包会社に就職し、様々なオーディションやジャムセッションに参加。その後、ロンドン郊外のイズリントンのホープ・アンド・アンカーで偶然イアン・デューリーと出会い、それがきっかけで彼のバックバンドであるキルバーン・アンド・ザ・ハイ・ローズのメンバーとなっている。1976年にはシン・リジィのサポートやザ・クラッシュのアルバム『ロンドン・コーリング』の参加、グラハム・パーカーとの共演などでサックスを披露。その後はアイルランドに戻り、タム・ホワイトやベン・プレボなどといった地元のブルース&ジャズミュージシャンと頻繁に共演する生活を送っていたが、2008年5月7日に63歳で死去している。なお、ニドロログは27年間の休止期間を経て、ゴールドリング兄弟とナイジェル・ペグラムを中心に新たなメンバーで1999年に再結成し、2000年に3枚目のアルバムとなる『グノーシス』のリリースを果たしている。

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はキング・クリムゾン的なダークさを持ち味に叙情性と精緻さを備えた隠れ名盤と誉れ高い、ニドロログのセカンドアルバム『レディ・レイク』を紹介しました。キング・クリムゾンやヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターといったサウンドに似ていることから年々評価が高まり、現在では人気の高いアルバムとなっています。1972年といえばプログレッシヴロックが全盛の時期であり、これだけクオリティの高い作品ですら埋もれてしまうという怒涛の時代でもありました。私は1991年にリイシューされたザ・グローリー・オブ・ブリティッシュロックシリーズのCDを中古で手に入れたのですが、その良さを理解するまでにしばらく時間がかかり、何度も聴いてようやくこの作品がどれほどユニークで優れたアルバムであるかを理解したものです。今ではこのアルバムはマイナーな作品として扱うのが悔やまれるほど魅力的なサウンドだと思います。

 さて、タイトルの『レディ・レイク』は、『Lady of the lake=湖上の美人』という、アーサー王伝説にも出てくるスコットランドのカトリン湖を舞台にエレン姫をめぐる恋と武勇とを描いた物語とされています。ジャケットアートには破壊された古城下に広がる湖で優雅に泳ぐ白鳥に、今にも掴みかかろうとする巨大な手が描かれています。穏やかな湖が一気に荒々しくなる様子は、繊細なパートと緊迫感あふれるヘヴィなパートを備えた本アルバムをまさにイメージしたものになっていると思います。ちなみにジャケットを描いたのは、イギリスのSFやファンタジー小説のイラストを手掛けているブルース・ペニントンというイラストレーターです。当時のアルバムジャケットの中でもトップクラスの美しさを持った1枚と言われています。

 

 一聴するとジャズをベースにしたブリティッシュロックのようなイメージを受けますが、ジャケットが物語るように、聴いているうちにホーンセクションやフルート、サックスによる不協和音があり、キング・クリムゾンが持つダークな質感が漂うようになります。また、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレイターのようなアレンジと展開もあり、当時の名グループの影響が感じらるサウンドが随所に感じられます。その中でも特に際立っているのがフルートやサックスといった管楽器です。フルートやサックスは聴き手に優雅さを与える音色ですが、一方で悲鳴に近い破壊的な音を作り出すことができるということを如実に表した作品だと思います。これを特異とするのかユニークとするのか、美学とするのか、かなり聴き手に委ねられます。それでもプログレの偉大なアーティストの影響を受けているにも関わらず、洗練されているだけでなく、優れたアレンジが施された、非常に上品なプログレッシヴロックを披露しています。そんなプログレッシヴロックとアートロック、またはジャズロックの世界を行き来したようなサウンドは、聴くたびにいろいろと発見があります。

それではまたっ!