【今日の1枚】Pell Mell/From The New World(ペル・メル/新世界より) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Pell Mell/From The New World
ペル・メル/新世界より
1973年リリース

ヴァイオリンとキーボードによる格調高い
バロック調クラシカルロックの名盤

 ドイツのクラシカルロックの雄、ペル・メルが1973年にリリースしたセカンドアルバム。そのアルバムはJ・S・バッハの『トッカータとフーガ』やドヴォルザークの『新世界より』をモチーフに、流麗なヴァイオリンと荘厳なキーボード、躍動するリズムセクションによるロックのイディオムでクラシックの作品をアレンジした格調高い傑作になっている。クラシックの楽曲そのものに正面から取り組んだという意味では、かのエマーソン・レイク&パーマーやオランダのエクセプションと並ぶ存在であり、さらにヴァイオリンをフィーチャーしている点が彼らの最大の個性となっている。

 ペル・メルは1971年にドイツのヘッセン州中部にある都市マールブルクの大学街で結成されたグループで、当初はペル・メル LTDという名で活動を開始している。当時のメンバーはトーマス・シュミット(ヴァイオリン、ギター、ヴォーカル)、オットー・プッシュ(オルガン、ピアノ)、ルドルフ・シェーン(ヴォーカル、リコーダー、ギター)、イェルグ・ゲッツフリード(ベース)、コルネリウス・ミッチ・クニースマイヤー(ドラムス)の5人編成である。中心メンバーのトーマス・シュミットは、ドイツ人とイタリア人のメンバーによるプログレッシヴロックグループ、アナロジーの前身グループであるソンズ・オブ・グローブに在籍していたことがあるという。そのグループでのトーマスはヴァイオリン兼ギタリストとして活躍していたが、1970年にグループの活動拠点がイタリアに移ってしまったために脱退している。この当時、トーマスは英国のエマーソン・レイク&パーマーやオランダのリック・ヴァン・ダー・リンデン率いるエクセプションに強い衝撃を受け、自身が学んできたクラシックをモチーフにポップスやジャズ、そしてロックとの融合を目指した新たなグループを作ろうと考え始める。やがてドイツの出身地のマールブルクに戻り、クラシカルなオルガンやピアノを弾くオットー・プッシュと出会う。共にクラブやバーを中心に活動をしつつ、多くのメンバーチェンジを繰り返しながら、上記の5人のメンバーに落ち着くことになる。そして1971年に彼らはデモテープを制作し、多くのクラシックやポップスを輩出するドイツのベラフォン・レーベルとの契約に成功する。契約を認めたプロデューサーのペーター・ハウケによると、ザ・ナイスやエマーソン・レイク&パーマーに通じるクラシックのテーマを借りたスタイルが相当気に入ったことが理由らしい。こうして彼らの出身地である『マールブルク』をタイトルに据えたデビューアルバムが、同年の1971年にリリースされる。デビューアルバムはドイツの音楽メディアから高い評価を受け、特にスメタナの『モルダウ』のカヴァーは絶賛されることになる。この成功を元にグループは1年程かけてクラブやフェスティバルに出演し、多くのコンサートを行っている。その中では様々な学生オーケストラと共演したり、AFNのテレビラジオ放送30周年記念コンサートにも出場したりしている。彼らはその後、次のアルバムのレコーディングに入り、さらにクラシカルなアレンジを求めるため、ゲストにディートリッヒ・T・ノール(キーボード)、アンディ・キルンバーガー(ギター)を参加させている。こうして1973年にフィリップスよりセカンドアルバム『新世界より』を発表。タイトルにあるようにドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』の第4楽章やJ・S・バッハの『トッカータとフーガ』を大胆にアレンジした楽曲が収録されており、そのスケールアップした楽曲は高く評価され、ペル・メルがドイツで人気グループに躍り出た最高傑作となった作品である。

★曲目★
01.From The New World(フロム・ザ・ニュー・ワールド~新世界より~)
02.Toccata(トッカータ)
03.Suite I ~Five Past Four A.M.~(組曲Ⅰ)
04.Suite II ~Deficiency~(組曲Ⅱ)

 アルバムの1曲目の『フロム・ザ・ニュー・ワールド~新世界より~』は、ドヴォルザークの交響曲第9番『新世界より』の第4楽章をモチーフにした楽曲。ダイナミックなキーボードとヴァイオリンによるオープニングからテーマを演奏し、5分後には静寂が訪れるとアコースティックギターやベース、美しいキーボードを伴った美しいヴォーカル&コーラスとなる。その後は緩急のあるスリリングなアンサンブルとなり、コーラスと共に演奏される躍動感のあるベースとキーボードが印象的である。そしてオルガンソロを経て、トーマスの技巧的で気品あふれるヴァイオリンソロが展開されている。最後はジャジーなピアノをメインにしたアンサンブルとなり、再度、パワフルなドラミングを擁した第4楽章のテーマとなって終えている。2曲目の『トッカータ』は、その名の通りJ・S・バッハの『トッカータとフーガ』をアレンジした楽曲。荘厳なオルガンからリズムセクションが加わり、キーボード、ヴァイオリンをフィーチャーした独自のアンサンブルに昇華している。後半のアグレッシヴなキーボードによる演奏は、かのザ・ナイスやエマーソン・レイク&パーマーを彷彿とさせる。3曲目の『組曲Ⅰ』は、キーボードとヴァイオリンを中心とした緻密なクラシックロック。途中からホンキートンク風のリズミカルな演奏となり、その後に今度は抒情的なヴァイオリンソロが展開されているなど、クラシックな側面を魅せつつも多彩なテクニックを駆使しており、緻密なアレンジが利いた内容になっている。4曲目の『組曲Ⅱ』は、ゲストのアンディ・キルンバーガーのギターがフィーチャーされたハードロックの要素のある楽曲。ピアノやオルガンと共に奏でるハードなギター、そしてハイトーンのコーラスが英国のロックを思い出させる。中盤ではピアノの伴奏やストリングスをバックにしたヴォーカルがあり、今度はリリカルなピアノとトーマスのフルートが奏でられる。最後はアメリカのイエッダ・ウルファを彷彿とさせるテクニカルなギターを経て、狂気ともいえるギターとオルガンが絡み合うオルガンロックを披露しながらフェードアウトしている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前作よりも明らかにシンフォニックの体裁が強くなっており、メンバーのテクニカルな演奏とアレンジが利いた内容になっていると思える。アルバムの大半を占めるクラシックな流れに、ジャズ的な要素やギターによるハードロックの要素などを加えたことにより、聴く者に変化を与えており、彼らの音楽的な幅広さとセンスが光った素晴らしいアルバムだといえよう。

 本アルバムは前作に引き続き、ドイツ国内のメディアから高く評価され、シンフォニックロックのトップグループに躍り出る。しかし、このアルバムからトーマス・シュミットのヴァイオリンが多くフィーチャーされた、よりクラシカル色の強いアルバムに変貌し、オルガンを担当していたオットー・プッシュが1974年12月に脱退。彼の代わりには元フレイム、ナイン・デイズ・ワンダーのチェリー・ホッハデルファーが担当することになる。さらに1975年にベーシストのイェルグ・ゲッツフリードが脱退。代わりにゲッツ・ドレーガーが加入し、新たなキーボーディストにラルフ・フリッパー・リップマンも加入させた6人編成となっている。こうしてメンバーチェンジを経てレコーディングが行われ、1975年にサードアルバム『ラプソディ』がヴィーナスレコードよりリリースされることになる。そのアルバムはフランツ・リストがピアノ独奏のために書いた作品集『ハンガリー狂詩曲第ニ番』をモチーフにした組曲をメインに、ロックのイディオムでクラシックの作品をアレンジしたドラマティックな作品となったが、シンセサイザーやクラシックギターを導入した複雑なシンフォニックサウンドとなっている。1976年にWDRの番組「ナハトムジーク」に出演して『モルダウ』を演奏。そして1977年には10日間に及ぶポーランドツアーを慣行した後、4枚目のアルバム『オンリー・ア・スター』をリリースしている。このアルバムでは再度『新世界より』を取り上げており、ルドルフのヴォーカルをフィーチャーしたアップビートな内容に変貌している。しかし、ドイツ国内に押し寄せてきたパンク/ニューウェーヴの台頭により、4枚目のアルバムをリリースした翌年にグループは解散することになる。トーマス・シュミットはスカイライダーというグループを結成し、メロディを重視したポップなロックサウンドを追求していたが、後にグループ名をペル・メルに改名。1981年にカイン・レーベルから『モルダウ』というアルバムをリリースしている。トーマス・シュミットのソロアルバム的な側面のある内容だったが、セールス的には奮わず、かつてのペル・メルの栄光を取り戻すことなく、1981年に再度解散してしまう。後にトーマスは自身のスタジオPM-Studio Marburgを設立し、音響技術者として活躍していくことになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は古典的なクラシックを真正面から取り組んだドイツのプログレッシヴロックグループ、ペル・メルのセカンドアルバム『新世界より』を紹介しました。アルバムのジャケットを見ると上半分にはオーケストラを指揮者の頭上から狙ったショットが配置されていて、上下で二分割された構成がとても面白いですね。先にペル・メルはデビューアルバム『マールブルグ』を紹介しておりまして、そこではスメタナの『モルダウ』をロックアレンジした曲を中心に、その格調高い演奏に惚れ惚れしたものです。本アルバムではタイトルにあるようにドヴォルザークの『新世界より』やJ・S・バッハの『トッカータとフーガ』といったクラシック曲を大胆にアレンジしており、古典的なバロック音楽をうまくスケール感のあるロックのイディオムに落とし込んだ傑作だと思っています。また、オルガンやヴァイオリンらのクラシカルかつジャジーな演奏に、ワイルドなリズムセクションを取り入れているなどプログレッシヴな仕掛けが多く、聴いていて非常にワクワクします。英国のザ・ナイスやエマーソン・レイク&パーマー、オランダのエクセプションなど、クラシック曲のアレンジを標榜とするロックグループは多く存在しますが、ペル・メルの場合、トーマス・シュミットによる本格的なヴァイオリンをフィーチャーしている点が他のロックグループとは一線を画します。ギターやベース、キーボードによるロックというダイナミズムなサウンドに、優雅さや気品さが立ち込めているのはヴァイオリンの成せる業だと思います。

 さて、ペル・メルではヴァイオリニストのトーマス・シュミットが脚光を浴びていますが、本アルバムではオットー・プッシュとディートリッヒ・T・ノールといった2人のキーボーディストの存在も光っています。それぞれプッシュがオルガン、ノールがピアノを担当していて、『トッカータとフーガ』のような荘厳なオルガンは無論、プッシュが弾いていて、流麗ともいえるピアノを弾いているのがノールだと思います。この2人のキーボードとトーマスのヴァイオリンによる格調高いアンサンブルが、アルバムの一番の醍醐味になっています。それでもヴィヴァルディの影響を受けたというトーマスのヴァイオリンは、神がかっているというしかありません。

 本アルバムはペル・メルがクラシック曲に本格的に向き合い、華やかなヴァイオリンやキーボード、ソフトなヴォーカルといったプログレッシヴロックの理念を高い演奏力で実現した傑作です。エマーソン・レイク&パーマーやオランダのエクセプションなどが好きな方には、ぜひとも聴いてほしい1枚です。

それではまたっ!