【今日の1枚】Amon Düül II/Phallus Dei(アモン・デュールⅡ/神の鞭) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Amon Düül II/Phallus Dei
アモン・デュールⅡ/神の鞭
1969年リリース

学生コミューンの分裂から生まれた
呪術色の強いヘヴィサイケデリックロック

 ドイツ南部のミュンヘンを拠点とする音楽グループ、または大規模な学生コミューン(共同体)でもあるアモン・デュールから分裂して結成されたアモン・デュールⅡのデビューアルバム。ドラッグを浴びながら好き勝手に打楽器を叩くなど、音楽的な教養のない学生のメンバー達と袂を分かち、クリス・カーラー(ギター)とピーター・レオポルト(ドラムス)を中心に新たなグループを立ち上げたのがアモン・デュールⅡである。黒い枯れ木の影を映し出した恐ろしげなジャケットの通り、マーチ風のリズムに乗せてやや呪術的とも言える東洋的で神秘的なヘヴィサイケデリックロックになっており、荒削りながらも生々しい、人間的な力強さに満ちたサウンドになっている。

 アモン・デュールⅡはその名の通り、アモン・デュールを母体として分裂したグループである。元々彼らはドイツ南部のミュンヘンを拠点とする音楽グループであると同時に大規模な学生コミューンでもある。1960年代末には世界各地で若者による社会運動が活発化しており、特にフランスや西ドイツでは学生運動が勢いを増しており、当時のミュンヘンはドイツの中でも特に過激なデモ運動が行われていたという。その中で楽器や歌といった音楽を介して彼ら自身の不満を表現していたのが、アモン・デュールというコミューンである。1967年に結成したアモン・デュールは、当時のサイケデリックな音楽を体現したかようにドラッグに溺れた学生たちによる音楽の教養もないアマチュアグループであった。そんな現状に不満を抱いたコミューンの初期メンバーは、彼らと袂を分かち、より音楽を追求するための新しいグループの創設を決意。それがアモン・デュールⅡである。メンバーはアモン・デュールのメンバーであったクリス・カーラー(ギター)とピーター・レオポルト(ドラムス)のほか、レナーテ・クラウプ(ヴォーカル)、ヨーン・ヴァインツール(ギター、ベース)、ファルク・ログナー(オルガン)、ディーター・ゼルファス(ドラムス)、クリス“シャラト”ティーレ(パーカッション、ヴォーカル)、そして後にホークウインドに参加するイギリス人のデイヴ・アンダーソン(ベース)という8人編成であり、さらに後にジャズロックグループのエンブリオのリーダーとなるクリスチャン・ビュシャール(ビブラフォン)、ポポル・ヴーに参加するホルガー・トルシュ(ターキッシュ・ドラム)が参加している。1969年にはアモン・デュールとアモン・デュールⅡの双方がデビューアルバムのリリースを果たすことになるが、先に録音を行っていたのはオリジナルのアモン・デュールである。彼らはベルリンのコミューンからアルバム録音のオファーがあり、1968年にドラッグにまみれた長時間のスタジオセッションを行なっている。アモン・デュールのデビューアルバム『サイケデリック・アンダーグラウンド』は、執拗に繰り返されるギターリフや正気を失ったようなうめき声、さらに幻覚的なテープ・コラージュを施した混沌なサウンドとなっている。一方、より音楽的理念を追求したアモン・デュールⅡは、ドイツのリバティレコードとの契約を交わし、本格的なライヴ活動を行なった後にデビューアルバムの制作を行っている。ドイツのサックス奏者であるオラフ・キューブラーをプロデューサーに迎えてレコーディングを行い、1969年にデビューアルバムである『神の鞭』をリリースすることになる。そのアルバムは中近東のメロディやサイケデリック、フリーミュージック等が複雑に絡み合う混沌としたサウンドでありながら、それぞれの楽曲の計算されたアレンジの妙が光った、後にクラウトミュージックの王者と言われる傑作になっている。

★曲目★
01.Kanaan(カナーン)
02.Dem Guten, Schönen, Wahren(善なるもの、美しきもの、真なるものへ)
03.Luzifers Ghilom(堕天使ルシフェル)
04.Henriette Krötenschwanz(ヘンリエッテ・ヒキガエルの尻尾)
05.Phallus Dei(神の鞭)
★ボーナストラック★※2009年リマスターCDより。
06.TouchMaPhal(タッチマファール)
07.I Want The Sun To Shine(アイ・ウォント・ザ・サン・トゥ・シャイン)

 アルバムの1曲目の『カナーン』は、インドのシタールとバーチャードのヴァイブで幕を開け、レナーテ・クラウプのオペラのようなスキャットが耳に残る東洋的なエッセンスが散りばめられた楽曲。ひと際光るパーカッションひとつを取ってもあくまで乱打ではなく、明確なビートを刻んだアコースティカルなアンサンブルである。2曲目の『善なるもの、美しきもの、真なるものへ』は、反復的なリフの中で笑いとも呻きともとれるクリス・カーラーの狂気に近いファルセットヴォーカルが響く不条理な楽曲。重いリズムとギターは一種のヘヴィメタルのようであり、時折響くヴァイオリンの演奏は神々しく、グループのイデオロギーを感じる1曲である。3曲目の『堕天使ルシフェル』は、東洋風のホーンからドラムとボンゴによるリズミカルな演奏になり、やや荒れたギターを中心としたアンサンブル。話し声のようなスキャットヴォーカルを起点に退廃的な雰囲気が漂うギターリフが飛び交い、まるで悪魔的で呪術的ともいえる詠唱コーラスが印象的である。4曲目の『ヘンリエッテ・ヒキガエルの尻尾』は、マーチ風の武骨とも言えるリズム上で、レナーテのオペラのようなヴォーカルを湛えた神秘性の高い楽曲。5曲目の『神の鞭』は、20分を越える神秘的、ロック、サイケデリック、呪術的、東洋的な響きを組み合わせた、斬新なスタイルで最も混沌とした楽曲。3分半からドライヴするベースラインの繰り返しから他の楽器も加わりテンポが上がっていき、即興的なジャムセッションとなる。その後、高揚するギター、ヴァイオリン、ツインドラムによる激しいアンサンブルとなり、民族的なボンゴによるリズミカルな演奏とスキャットが飛び交う。最後は退廃的なヴァイオリンとヴァイブで東洋的な響きとなり、1969年最高のサイケデリックロックと呼ばれた楽曲が幕を閉じる。ボーナストラックの『タッチマファール』は、シタールを効果的に使用した神秘性の強い楽曲。レナーテの情感的なヴォーカルがエキゾチックである。『アイ・ウォント・ザ・サン・トゥ・シャイン』は、ボンゴを中心としたパーカッションと東洋的な男女ヴォーカルが祝祭を思わせる楽曲。リズムやメロディラインが明確であり、思った以上に聴きやすいのがポイントだ。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ドロドロとした退廃的なリズムとメロディを持った楽曲が多いが、西洋と東洋の様々な影響が感じられる内容をふんだんに盛り込んだ最も独創的でサイケデリックなアルバムである。それぞれの楽曲は彼らなりの呪術、祝祭をイメージしているのだろう。ポリリズム的なグルーヴ感やキメのアレンジは後のヘヴィメタルに通じており、民族的なビートや詠唱は後のワールドミュージックにも通じているのが、このアルバムの凄みとなっている。

 本アルバム発表後には映画『サン・ドミンゴ』のサウンドトラックを担当し、ドイツ連邦映画賞を受けている。なお、ベーシストのデイヴ・アンダーソンはグループを脱退し、ホークウィンドに加入。また、ビブラフォン奏者のクリスチャン・ビュシャールも自身のグループ、エンブリオを結成して、ワールドミュージックの第一人者となる。アモン・デュールⅡはその後も怒涛のリリースが続き、1970年には『地獄!』、1971年には『野鼠の踊り』、1972年には『カーニヴァル・イン・バビロン』、『ウルフ・シティ』など、立て続けに発表。2作目の『地獄!』はドイツ国外でも注目されるきっかけになった作品である。後にピンク・フロイド的な英国サイケデリックの影響や英国のハードロック、プログレッシヴロックの影響、さらにはトルコやアラブ諸国の移民が多かったドイツならではのエスニックな影響が複雑に絡み合い、アルバム毎にそのサウンドが変遷され、後にクラウトロックの王と呼ばれるようになる。リーダーのクリス・カーラー以外、多くのメンバーが入れ替わったが、1978年までの10年間に12枚のアルバムをリリースしている。1981年に臨界点を迎えてグループは解散してしまうが、その後も不定期に再結集し、ライヴを行ったり、アルバムを発表したりしてファンを喜ばせている。また、1996年には初の来日公演が実現し、阪神淡路大震災の復興を願ったアルバム『Kobe(神戸復興)』のリリースを果たしている。しばらく音沙汰が無かったが、2010年にアルバム『Bee As such』(後にデュリリウムに改名)のリリースで再びカムバックし、グループは2018年まで演奏を続けることになる。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はドイツの学生コミューンであるアモン・デュールから分裂して結成されたアモン・デュールⅡのデビュー作『神の鞭』を紹介しました。過去にエンブリオのアルバム『激昂』を紹介した時も、同じコミューン出身であるアモン・デュールⅡとエンブリオのメンバーとの親しい間柄に触れています。このアモン・デュールという学生コミューンが出来た背景には、1960年代末に起こった若者による社会運動が発端となっています。特にフランスや西ドイツでは学生運動が年々勢いを増していて、当時のミュンヘンはその中心地の1つだったそうです。そんな若者たちが楽器や歌といった音楽を介して彼ら自身の不満を表現していたのが、このアモン・デュールというコミューンとなります。とはいえ、音楽の教養も無ければドラッグで溺れた者たちで作られた音楽はアマチュアそのもので、そんな現状に不満を抱いたのがクリス・カーラーを含めた初期メンバーであり、彼らによって新たなグループを結成したのがアモン・デュールⅡということになります。当時のコミューン出身の彼らの大きな特徴としましては、ロックやジャズグループ同士の交流が盛んに行われていたそうです。メンバーが別のグループでセッションしたり、グループ間を渡り歩いて演奏したり、中にはセッション専門のミュージシャンが多く存在していたそうで、アモン・デュールⅡ以外にも先に紹介した同郷のエンブリオやポポル・ヴーといったグループにも同じ傾向が見られます。このあたりの背景を知っておくと、アルバムの混沌としたサイケデリックな世界やメンバーの入れ替わりが多い理由が何となく分かるかも知れません。

 さて、本アルバムですが、オリジナルのアモン・デュールと決別して、クリス・カーラー曰く「音楽的な完成度を求めた」とされる通り、20分を越える『神の鞭』という大曲を擁した独創的なサイケデリックワールドを構築した作品となっています。邦題でもある『神の鞭』ですが、その表示になった理由が、1969年当時の英語圏向けのアルバムタイトルが『Whiplash Of God』だったことが由来しています。しかし、ドイツ語である“Phallus”という言葉は一般的に男根を指していて、ラテン語で神を意味する“Dei”と合わせると『神の男根』となります。男根というのはアレのことですが、世界では女陰を女神とするなど、豊穣のシンボルとして崇拝や信仰の対象となることが多いです。さらに男根は武器のイメージにされることもあり、タイトルから想像すると破壊神的な暗示もあるのではと感じてしまいます。つまり、混沌とした音楽シーンの中で自分たちの創る音楽を提示していくという彼らの破壊と再生の試みがあり、それがアルバムの呪術的で祝祭的な音楽に繋がっているのでは?と個人的に思っています。

 サイケデリックな音楽は普通ならば聴くに堪えない不安要素が多いものばかりですが、本アルバムは粗削りで混沌としていながらも最後まで飽きることなく聴けてしまう計算されたアレンジがあります。民族的で呪術的な要素はワールドミュージックの先駆けであり、ドラムスに見られるズレや揺らぎを活かしたポリリズムなグルーヴ感、エキゾチックなヴォーカルの要素は、後のヘヴィメタル(デスメタル)にも通じるところがあり、私自身は聴いていて、思った以上に馴染むところがあります。

それではまたっ!