【今日の1枚】Atlantide/Atlantide(幻の大陸アトランティス) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Atlantide/Atlantide
アトランティーデ/幻の大陸アトランティス
1976年リリース

フレンチロック界の仕掛人によって集められた
腕利きのミュージシャンによる幻のアルバム

 サウンドエンジニアやソングライター、セッションミュージシャンの手配を含む多才な音楽プロデューサーとして、多くのロックグループに貢献したフレンチロック界の仕掛人、ジャン=ピエール・マシエラが手掛けたプロジェクトアルバム。そのアルバムは彼によって集められた凄腕ミュージシャンたちによるテクニカルなシンフォニックロックとなっており、英国のイエスやジェネシスを思わせる演奏を繰り広げた作品になっている。1974年にリリースされたプロジェクトアルバム、Visitorsも彼が手掛けた作品だが、本作同様にほとんど宣伝を行わなかったため幻とされたアルバムである。

 本アルバムのプロデューサー兼エンジニア、そしてソングライターを務めたジャン=ピエール・マシエラは、フランスのニース出身で幼少の頃にアルゼンチンのコルトバやブエノスアイレスで育っている。独学でギターを学び、10代でフランスに戻ると1960年頃にローカル・カヴァーグループであるレ・ミローズを結成してプロデビューを果たし、ギタリストとして2枚のシングルをリリースしている。その後、1964年にはレ・モネガスクという名前で新しいグループを結成して、ポップシンガーであるジェラール・ブレントのレコーディングに参加している。この時にサウンドエンジニアとしてスタジオ技術を学び、1966年には自身の8トラックススタジオを設立し、ジャズドラマーとして有名なアンドレ・チェカレリや女性シンガーのジェシー・ジョイスなどがレコーディングを行っている。1968年に彼はLes Maledictus Soundのクレジットによるアルバム、アーテンションの作曲とプロデュースを行い、メンバーには後にPFM(プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ)のベーシストとなるパトリック・ジヴァスが参加していたという。1968年にスタジオを売却し、カナダやアルゼンチン、イタリアなどでエンジニアとして腕を磨き、翌年の1969年にフランスに戻ると、異母兄弟のバーナード・トレッリの支援を受けて、16トラックの最新機器を備えたアンティーヴ・スタジオ16(アズールヴィル・スタジオ)を設立している。このスタジオにはジョン・マクラフリンやビル・ワイマンといった多数のミュージシャンが使用することになる。彼は当時興隆しつつあったフレンチポップシーンに貢献する一方、自らがプロデュース兼エンジニアを担当し、後にVisitorsのメンバーとなるアンドレ・ギリヨン(ドラムス)、ジェラール・ブラン(ギター、ヴォーカル)などが参加したセッショングループ、レ・チャッツ・ルネッサンスを結成し、プロジェクトアルバムをリリースしている。

 1970年代に入ると彼は国内で英国のイエスやピンク・フロイド、エマーソン・レイク&パーマーといったプログレッシヴロックの人気の高まりを感じ始めている。彼はフランスでアンジュやマグマといったプログレッシヴグループが知れ渡るようになったことを機に、レ・チャッツ・ルネッサンスのメンバーを中心に、ベルナール・トレッリ(ギター)、パトリック・アタリ(ヴォーカル)を加えた新たなセッショングループ、Visitorsを結成する。ジャン=ピエールもプロデュース兼エンジニアだけではなくヴォーカルとしても参加した同名のアルバムを1974年にリリースすることになる。このアルバムには後にマグマで演奏するディディエ・ロックウッド(ヴァイオリン)も参加している。しかし、アルバムはシングルカットもされたにも関わらず、大きな成功には至らなかったという。彼は後にモナ・リザやタンジェリン・ドリームといったグループが自身のスタジオで録音されたことをきっかけに、1975年にアンジュのマネージャーで、クリプトレーベルの音楽監督であるジャン=クロード・ポニャンと会っている。その時、ポニャンはプログレッシヴレーベルのためのアイデアや材料を考えていたらしく、ジャン・ピエールは古くからの友人であるジャン=クロード・ペルアンが描いたアトランティス人の絵を元にしたコンセプトアルバムを提案している。この提案がポニャンに認められ、ジャン=ピエールは自らギターでテーマや歌詞を作り、レコーディングのためのミュージシャンを集めている。メンバーは元オリオン、カルプ・ディアンのジャン=マルク・タランのグループに所属していたジャン=マルク・ムータン(ドラム)、Visitorsにも参加したジャン=ピエールとは兄弟関係にあるベルナール・トレッリ(ギター)、同じくVisitorsに参加していたパトリック・アタリ(ドラム、ヴォーカル)を起用。さらに、かつて自身のグループであるHのメンバーであったアルド・イアコメッリ(ベース)、その友人であるジャン=リュック・クレマ(パーカッション)が加わり、キーボードレスという特異な編成によるラインナップとなる。ジャン=ピエールが音楽的な方向性とメロディのアイデアを出し、メンバーが肉付けを行う形で約5週間のレコーディングが行われ、1976年にアルバムがリリースされることになる。そのアルバムはソリッドなギター、エキゾチックなパーカッション、荘厳なメロトロンによるソフト&ハードな展開が交差する、テクニカルなシンフォニックロックとなっている。

★曲目★
01.Atlantide(幻の大陸アトランティス)
02.Le Regard Des Dieux(神々の眼差し)
03.Images(イマージュ)
04.Soleil Noir(黒い太陽)
05.Reverie(夢想)
★ボーナストラック★
06.Egg(エッグ)
07.The Lonely Man(孤独な男)
08.Rainbows All Around(レインボウズ・オール・アラウンド)
09.Delusion(妄想)

 アルバムの1曲目の『幻の大陸アトランティス』は、スティーヴ・ハウのようなソリッドなギターによる疾走感あふれるオープニングから、エキゾチックなアコースティックギターとパーカッションをバックにした楽曲。全体的にイエスを彷彿とさせた内容だが、パトリック・アタリを中心としたヴォーカルとハーモニーが美しく、キーボードの代わりとなったベルナール・トレッリのエフェクトをかけたヘヴィなギターが聴きどころとなっている。2曲目の『神々の眼差し』は、メロトロンを起用しており、アコースティックギターをベースにした美しいヴォーカルハーモニーとなったバラード曲。破滅したアトランティスの世界を見た主人公が、自分の運命と人生について思いを馳せる歌詞となっている。3曲目の『イマージュ』は、ベルナール・トレッリのリリカルなアコーステックギターによるインストゥメンタル曲。モチーフとしてイエスの『ザ・アンシェント』で弾くスティーヴ・ハウのギターソロが引用されている。4曲目の『黒い太陽』は、12分に及ぶ大曲となっており、美しいエレクトリック&アコースティックギターのアンサンブルから始まり、多重録音されたストリングスが使用されている。ヴォーカルが入ると一気に哀愁の雰囲気に包まれ、5分過ぎになるとヘヴィなギターによるハードロック調の展開になっていく。シンセサイザーを使用していたり、ドラムやベースのソロもあったりするなど、セッション色の強いサウンドになっている。5曲目の『夢想』は、前曲のヘヴィなサウンドから一転して哀愁漂うアコースティックギターの弾き語りとなった楽曲。エフェクトを活用した泣きのギターやパーカッションが再びエキゾチックなアトランティスの世界を描いている。ボーナストラックは4曲収録されており、ベルナール・トレッリとジャン=リュック・クレマを中心としたセッショングループ、ヒューマン・エッグが1978年にリリースしたアルバムの曲。『エッグ』は1分ほどのファンキーなインストゥメンタル曲となっており、多少パトリック・モラーツを彷彿とさせる。『孤独な男』は、ヴォーカルにトニー・ボンフィス、キーボーディストにミシェル・グべを起用したバラード色の強いポップナンバー。『レインボウズ・オール・アラウンド』は、パトリック・アタリのハイトーンヴォイスが素晴らしいロマンティックなポップ曲。後半には美しいストリングスによって盛り上げている。『妄想』は、スネアドラムとストリングス、そして抒情的なギターによる哀愁感のあるインストゥメンタル曲になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、ジャン=ピエール・マシエラの作る曲の構想には、明らかに英国のイエスやジェネシスをモチーフにしており、そこにフランスらしいロマンティックなアコースティックギターやストリングスを加味したアルバムになっていると思える。メンバーが腕利きのセッションミュージシャンだけあって演奏力は高く、単にプロジェクトとして終わるには惜しい作品である。

 アルバムのライセンスはクリプトレーベルに委ねたものの、全くと言うほどプロモーションは行われず、また、セッショングループということでツアーやライヴなども行われなかったという。そのため、アルバムは広く知れ渡ることなく、歴史の中へと埋没していくことになる。ジャン=ピエールは、その後、同年に彼の最も注目すべきアルバムの1つである『L'Etrange Mr. Whinster』を作曲およびプロデュースし、アフリカのリズムやクトゥルフ神話、『悪の歌』で有名なフランスの詩人、コント・ド・ロートレアモンの作品を抜粋しており話題となったという。1977年以降は兄弟であるベルナール・トレッリと共同で作業することが多くなり、2人の名を冠にしたアルバム『ターン・レイディオ・オン』をリリースしている。2人はフォークロックグループであるヴァレリー・ブティッシュやパンクロックグループのリトル・ボブ・ストーリーのアルバムリリースを企画し、ミシェル・ルグランの『レ・ムーラン・ド・モン・クール』のポップバージョンを制作している。1978年以降はディスコアルバムを手掛けるようになり、歌手であるスパークル・トゥーランをフィーチャーしたフレンズによる『トランザム・ダンシング』をプロデュースするなど、フランスの音楽界の裏方として大きな役割を担うことになる。1980年代半ばにパリを離れ、フランスの南東部の沿岸にあるル・バー・シュル・ルーに新たなスタジオを作り、1992年にはコロンブス生誕500周年を記念したインディアン・ネイションのアルバム『レッド・パワー』、1995年にも同じテーマのアルバム『レッド・ソウル』をプロデュースしている。2000年代に入っても様々なミュージシャンのプロデュースやエンジニアを続けてきたが、78歳となった2019年12月28日に残念ながら亡くなっている。彼の葬式にはフランスの多くのミュージシャンが参列して哀悼を捧げたという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回はフランスの音楽界だけではなく、フランスの多くのプログレッシヴロックにも貢献したジャン=ピエール・マシエラがプロデュースした『アトランティーデ』を紹介しました。このアルバムは前にも紹介したアメリカのグループ、アトランティス・ハーモニック『幻の大陸を求めて』と同時に購入していて、偶然にも両方ともアトランティス大陸をテーマにした作品だったことを覚えています。良く見たらほぼ同時期に紙ジャケ化されていて、新品状態で中古ショップに流れてきたみたいですね。プロジェクトアルバムは過去にいくつもありますが、アトランティーデという名は聴いたことなかったので喜んで買っていったものです。アルバムを聴いてみたら1曲目はイエスの『こわれもの』に収録されている『ハート・オブ・ザ・サンシャイン』とそっくりでびっくりしました。通して聴いてみるとアコースティック部分も含めて、英国のイエスに影響を受けたグループなんだなとつくづく思いました。ハードな側面もありますが、そこにフランスならではの哀愁漂う弾き語りやストリングスを多用してロマンティックな雰囲気を作り上げています。全編フランス語で歌ったパトリック・アタリのヴォーカルを中心としたハーモニーも絶妙で、比較的エキゾチックな雰囲気のある楽曲に合っている気がします。強いて言うならば、5曲で32分というアルバムとしては短い内容になっているためか、少しだけ物足りない感じがします。

 本アルバムは幻のアトランティス大陸をモチーフに、ハードとソフトの展開が交差するテクニカルなシンフォニックロックとなっています。ジャン=ピエール・マシエラという多才なプロデューサーの下、フレンチロックの腕利きのミュージシャンが織りなす楽曲をぜひ堪能してほしいです。

 

 ちなみに同アルバムを調べると、同じ1976年にアルバムをリリースしたAtlantide(アトランティーデ)というイタリアのグループが存在します。なぜかイタリアからドイツに渡って唯一のアルバムを出したという謎の多いグループですが、こちらは軽快なプログレッシヴハードになっています。ややこしや~(笑)

それではまたっ!