『風が吹くとき(When the Wind Blows)』はイギリスの作家レイモンド・ブリッグズが1982年に発表した漫画。1986年にアニメ化され、主題歌をデヴィッド・ボウイ(David Bowie)が歌い、音楽を元ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズ(Roger Waters)が担当した。
主人公の現役を引退した無邪気な老夫婦・ジムとヒルダはイギリスの田舎で年金生活を送り、お互いを慈しんでいた。しかし世界情勢は悪化し、戦争が勃発したことを知った2人は政府が発行した手引書(イギリス政府が実際に刊行した『Protect and Survive(防衛と生存』)に従い、保存食の準備やシェルターの作製をする。ラジオから核ミサイルからの避難指示を告げられ、必死でシェルターに逃げ込み爆発の被害は逃れたが、放射能に体を蝕まれて次第に衰弱し、老夫婦はお互いに励ましあうが2人の幸せは核により無残に打ち砕かれ、暗鬱な気分になる。
主題歌の表題歌を歌うデヴィッド・ボウイ(David Bowie)はもともとシャイで別人格を演じることで表現者となっていったそうだ。自らがダイアモンドの犬(Diamond Dog)という半人半獣の姿で退廃した未来を予言した彼は1987年に、東西ベルリンの壁の前で野外ライブを行った。彼はなんとスピーカーの4分の1を会場の聴衆に向けず、後ろ側、つまり壁の向こう側の東ベルリン側に向けた。東ベルリンの聴衆に聴かせるためだ。壁の反対側でボウイの声を聴こうと集まった東ドイツの若者たちは、5千人に膨れあがっていた。立ち去ることを命じる警察と衝突し、逮捕者まで出た事件となり、そして1999年には自由を求める人々のエネルギーが壁を突き崩しドイツは再統一された。ボウイの死後、ドイツ外務省が、「グッド・バイ、デヴィッド・ボウイ。壁の崩壊に力を貸してくれてありがとう」と異例のツイートをした。彼が存命していたならば反戦・反核を唱え続け、ウクライナ・ロシア問題にも立ち上がってくれたことだろう。
6曲目のTHE RUSSIAN MISSILEから15曲目のFOLDED FLAGSまでは、元ピンク・フロイドのロジャー・ウォーターズのRoger Waters and the Bleedlng Heart Bandで、後期のピンク・フロイドやロジャーのソロに通じる。さらに助っ人としてシンプルな楽曲にキング・クリムゾンで知られるメル・コリンズ(Mel Collins)のサックスが唸りまくる。
ロジャー・ウォーターズの父は1944年のはじめ、英国陸軍第8歩兵隊の一員としてイタリアのアンツィーオの戦場でナチスと戦い、そこでわずか31歳で戦死した。母親は熱烈な反核運動家の英国労働党支持者で、より人の道に適した世界を創るため生涯を捧げた。
ロジャー・ウォーターズ自身も唯我独尊的なのは玉に傷だが反戦的な平和主義者で、2006年にイスラエルのネーヴェ・シャローム(Neve Shalom:アラブ人とイスラエル人が共同で暮らす平和な村)でコンサートをした後、イスラエルと占領地を分断する防護壁を訪れ、壁(wall)に彼の“Another Brick in the Wall”の一節「We Don’t need no thought control(洗脳教育はいらない)」とスプレーでペイントした。
また、彼はバリバリの米民主党員である。1977年に『アニマルズ animals』が発表された以降、ピンク・フロイドおよびロジャー・ウォーターズのコンサートでの定番のパフォーマンスの小道具の1つに「空飛ぶ豚の気球」があるが、2006~2007年のライブツアーでは豚の気球の横腹に「Kafka Rules OK!」、「Impeach Bush Now(ブッシュを弾劾せよ)」、「Free at Last」と書かれていた。さらに2017年のコンサートではトランプ元米大統領を批判し、豚の気球の横腹にトランプ元米大統領の顔のイラストを描き、赤ん坊姿のトランプ元大統領がロシアのプーチン大統領に「高い高い」をしてあやしてもらいロシアの言いなりになっていると揶揄した。さらに「ニューヨークは寒く、雪が降っている。地球温暖化が必要だ」、「僕の美しい点はとても金持ちということだ」などトランプ元大統領の発言もテロップで紹介し、テロップに「トランプは豚だ」と現れると会場は沸いた。また、ある意味プロテスト・ソングの“ザ・ウォール the Wall”に合わせ多くの子供たちが壇上に現れ、「抵抗せよ」と書かれたTシャツを着て拳を突き上げ、ライブの最後には一枚一枚に「抵抗せよ」と書かれた紙吹雪が会場全体に舞った。2018年のツアーのモスクワ公演の際ですら、プーチンをほぼ独裁者よばわりした。



