俺は今、終電で息を止めている。
座席にすわっている禿げた人の頭部が、絶妙な角度で俺に差し出されているからだ。
差し出されているように見える。

呼吸をするとハゲエキスを吸い込みそうで、怖い。

そんなエキスなど発生していないことは百も承知だが、「どうぞ召し上がれ」的にこちらに差し出された頭部には何らかの気配を感じる。

そんなわけで、呼吸は今、細く浅い。

こんなことで努力する自分が憎い。