朝起きて、何気に携帯を見ると
昨日久々に再会した田部(仮名)からメールあり。
「墓参りに行くから来るべし」
時間の指定も無いので、ぶらりと石川町の駅で下車。
事務所前で田部が赤いコンパクトな車から顔を出した。
「おう、こっち」
助手席に乗り込むと車は動き出した。
磯子の外れ---かつてプリンスホテルがあった場所を通り過ぎて、住宅地の隙間にお寺があった。
お寺の横に並ぶお墓の立集した場所に入り、
てくてく歩くと、田部が立ち止まる。
ここか。

誰の墓かは、道なりに聞いていた。
中学時代の同級生の墓だ。
バイク事故で死んだらしい。
最後に会ったのは高校に入ってから、通学電車の中でだった。
と思う。
相手も学校へいく途中で、眠たい目で「かったりい」しか言ってなかった。
夜、新しい仲間たちとバイクで「馴らしている」ということだ。
高校卒業後に自動車整備士の専門学校に行き、在学中事故で他界した。
詳しい内容はわからない。

「葬式、高校の同級生がいっぱい来ていて、ようわからんかったわ。
中学の奴らも結構来ていたぜ。
お前の連絡先はわからなかったなー。
ほれ、マナブ連れて来たぜ」
僕と田部は近くのコンビニで買った線香に火をつけた。鬼殺し(酒)も置いた。
静かに手を合わせて、黙祷した。
すまん、知らなかった。死んでるなら、ちっとは夢に出てこいよ。俺、幽霊とか全然怖くないから。

車は中華街の飲み屋近くで停車した。
昼から酒を飲んだ。
田部は葬式の時に久し振りにあった友達の話ばかりしていた。
僕は友達が死んだことを知らないでいた自分の
「今まで」が、なんだか、うまく言えないけど、間違っている、とか損をしている気がした。

申し訳無い気がした。
2年前に自衛隊にいる上官から連絡があり、
知っている人間が2名も自殺していたことを知らされたのと同じ気持ちだ。

中華街から元町まで歩いた。田部は車で実家に帰った。
昨日の、店先にダックスフンドの写真が飾ってある店で、ふと立ち止まった。
この犬が死んでいたことも、全く知らなかったな---。
僕は酔っ払った頭で山手の外人墓地に行った。
いろんな形の墓地がある。
昨今では誰の墓地かわからない、子孫が不明な墓が多いそうだ。
老朽化する墓は、どんどん削れてなくなっていく。

「おれがお金持ちなら、寄付するのにナー」
こういう発想は無責任だろうか?

山手の一番上、と思われる場所まで歩いた。
普通の住宅が並んでいる。
横浜を見下ろす。
俺は色々な友人を置いてきた。
高校一年生の時に、引っ越した。
そのとき、中学の連中には連絡先を教えなかった。忘れていた。
高校卒業後は、宇都宮に。
そして群馬に。
横須賀に。
新潟に。
フランスに。
アメリカに。
九段下に。
秋葉原に。
そして今、新子安に。
色々置いてきた。
大事にしなかった。いや、そこまで仲良くなかったか?

何かを始めるとき、ゼロにする傾向がある。
洋服や、本や、何もかも、売るか捨てる。

今週の土日だけで、またゼロにしたい気持ちになった。
昔の友達に会いに行こう。
新しい土地にも行こう。
そうやって、今年のゴールデンにウィークは過ごそう。

そう思った。
横浜の街並みは、絶対昔、同じ場所で見たはずなのに、
まったく新しい風景だった。
振り返ると後悔が多すぎるから、前を向こう、
死んだ仲間に頭を下げた。
誰も見ていないし、なぜ頭を下げているのかわからないけど、
それですっきりした。
簡単な男だと思った。