ある秋に、泊りがけのバイク旅に出かけたこともあった。
 茨城の大洗の日帰り旅からしばらく経ったある日のことで、その頃は就活がうまくいかずにイライラしていたんだ。
 それだけじゃない。卒業論文もあと少しと言うところからなかなか筆が進まなくて、陰々滅滅としていた。
 対照的に、隣の君は就活もとっくに終えていて、卒論も順調に進めていた。
 そんな中、君は俺の様子をうかがいに来たんだ。
「進んでる?」
「全然ダメだ。データは集まってるけど、そこから先、どうやってまとめて結論に持って行くか、それがなかなか決まらないんだ」
「そうなんだ」
 卒論の条件はワードで30ページ以上。そんなに長い論文など、当時の俺は書いたことなど無かったし、そもそも作文が苦手だ。起承転結なんじゃそりゃ?奇想天外、四捨五入のことか?出前迅速なんちゃらかんちゃ~ら~、なんて歌いたくなってしまう。
 あやうくネコ型ロボットの名前をうたいそうになった時に、急に君が言った。
「気分転換に、どこかに出かけない?」

 秋と言えば・・・。そう訊ねると、君はすぐに「フルーツ!」と返した。
 そうしたら、行き先はあそこしかない。山梨だ。
 俺たちのいる埼玉から山梨へは、国道で1本で行ける。ただ、道中山道がある。
 となると、日帰りは無理だ。とてもじゃないけど、日帰りは体が持たない。二人乗りのバイクとなると、かなりきつい。
 てことは、泊りがけだ。どこかいいところが無いかと、バイク仲間の友人に訊くと、石和温泉に行くと必ず立ち寄るホテルがあるということで、そこを教えてもらった。ちなみに、奴はバイク旅に際して、泊りがけで出かけたことは一度もない。常に日帰りを意識している。理由は簡単で、金が無いから。宿泊費用が無いからだ。例外としては、伊勢と出雲に二泊三日で出かけたことだ。ただその時は、途中までバイクでの強行軍を考えてたけど、伊豆高原に出かけた時にこけて、その後秩父の日帰りの時でさえもこけて、バイクで伊勢と出雲の二泊三日をやったら死ぬかも知れないと思ったということで、電車にシフトしたのだ。その時はかなり金を使っていたが、以降そこまで金を掛ける旅行には出たことが無い。
 一方俺は、そこまで金が無いわけじゃない。大学3年以降は時間もあって、少しばかりバイトもしていた。就活費用もそこから捻出していたけど、最近は就活もうまくいかず、バイト代もあまり手を付けていなかった。一泊二日なら何とかなる。

 山道を走るにはあのバイクだと不安があるけど、ちょっと無理をすれば上れないということは無いだろう。それに、大洗の時は日帰りと考えてたけど、今度は泊りがけだ。体力面では大丈夫だろう。
「山梨、行く?」
 その質問に二つ返事でOKした君は嬉しそうだった。

 すぐに出発と言うわけにはいかなかった。何しろ、秋はフルーツ王国の山梨への旅行客が増える。教えてもらったホテルに予約を入れようにも、ここ1週間以内は満室続きだった。結局、予約ができるのは2週間後の平日だった。
 うまい具合に、二人とも大学の授業とは重ならなかった。日程を教えたところ、即答でOKが出て、予約を確定させた。