春分の日の時ならぬ春の雪の名残がそこかしこに見受けられた23日の朝。

 

北国にも春の訪れの近いことを思わせる暖かい陽射しが降り注ぐ中

 

私は塩尻8時46分発特急「しなの4号」の車中にいた。

 

この日は、およそ半世紀続いた『中日劇場』が25日に幕を閉じることを受け、

 

舟木一夫さん「中日劇場」さよならコンサートが行われた日。

 

雪の影響による電車の運休を危惧したものの、春の雪融けは早く

 

杞憂に終わったことに安堵しての名古屋までの2時間余りの旅であった。

 

 

45年前、犬山の中学校に赴任した時、まだこの特急列車はなく

 

夜行で6時間かけて名古屋駅まで行ったことを思い出す。

 

『中日劇場』のこけら落としは昭和41年というから、

 

犬山に住んでいた折りも、様々な公演が行われていたのだろうけれど

 

舟木さんの公演が無かったゆえか犬山にいる間にここに行った記憶はない。

 

むしろ、4月1日に新装なる御園座には何度か足を運んだものだった。

 

ここで行われた舟木さんのコンサートや歌舞伎のパンフレットが手元に残っている。

 

舟木さんもおっしゃっていたように「野口雨情物語ー雨降りお月さん」

 

復帰公演をなさった時から、この劇場との縁が始まったように思われる。

 

私は残念ながら、まだ子育て中でこの公演を見ることはできなかったけれど。

 

 

 

舟木さんにとっても愛知県は生まれ故郷。

 

舟木さん(上田成幸)作詞作曲『ROCK'N ROLLふるさと』にも

 

♪俺のふるさと愛知県

 

一ノ宮からのりかえて

 

単線電車で十二、三分

 

その名も萩原町♪

 

と歌われているように、

 

一宮市萩原町串作り1015(せんじゅうご)

 

と何度もご自分の生まれた場所の住所をおっしゃっていたけれど

 

現実の「生まれ故郷」への想いだけでなく、今回は私達の世代なら

 

誰もが持っているであろう昭和という時代への郷愁漂う曲で構成された

 

心地よい想いに包まれた3時間あまりのコンサートであった。

 

 

あくまでも「第2部がメイン」と舟木さんはおっしゃっていたけれど

 

第1部のご自分の持ち歌で構成された”ヒットパレード”の曲も

 

昭和という時代の香り漂う曲ばかり。

 

その時代のヒット曲なのだから当たり前と言ってしまえばそれまでではあるが…。

 

最初の曲は『東京は恋する』

 

ジャズ風のピアノの間奏が入って、当時より曲調は新しくなったけれど

 

高層ビルが立ち並ぶどこか異次元世界を思わせる現在の東京とは少し趣の違う、

 

まだあちこちに自然が残っていた昭和40年代の東京の様子が目の前に浮かぶ。

 

 

 

ちらしにはなかった『たそがれの人』のイントロが流れた時は心躍った。

 

映画『高原のお嬢さん』の挿入歌でもある『たそがれの人』は殊の外好きな曲。

 

 

余談になるが”たそがれ”の語源は「誰そ彼(たそかれ)」で、

 

夕暮れ時に遠くにいる人の顔を判別できなくて「あれはだれ?」と

 

聞いたことから来た言葉とも言われる。

 

これに対して明け方は「かわたれ時」で、これは「彼は誰(かはたれ)」が語源。

 

人の顔が判別できないということから「逢魔が時(おうまがとき)」という

 

おどろおどろしい言葉もあれば「雀色時(すずめいろどき)」という言葉もある。

 

でもこの「たそがれ」は薄暗くなる少し前を思わせる「黄昏」が相応しい。

 

太陽が山の端に沈んだ直後、まだその光がそこかしこに残っている瞬間。

 

ふと人恋しくなる時間を彷彿とさせる詩であり、メロディでもある。

 

続けて歌われた『高原のお嬢さん』のストーリーに彩りを添える曲であった。

 

これを聞くと、否が応でも我が故郷諏訪の高原の風景が懐かしく思い出される。

 

 

『哀愁の夜』はやはり高度成長期の東京の、まさに昭和そのものを想起させる曲。

 

 

 

スタンディングの『銭形平次』は舟木さん曰く「外せない曲」

 

ブギという、戦後の一時期を席巻したリズム感に彩られたこの曲も

 

昭和のお茶の間には欠かせない時代劇の主題歌であった。

 

 

そして舟木さんの真骨頂でもある抒情歌から「選ぶとしたらこれ。」

 

と歌われたのは『絶唱』

 

個人的には『夕笛』の方が好みで、我が故郷ゆかりの『初恋』も聞きたかったけれど、

 

1曲にしぼるのであれば、やはりこれだろうなと納得してしまう。

 

 

『高校三年生』

 

『学園広場』

 

この二曲は、何といっても舟木さんと私達ファンとの出会いの原点の曲。

 

そして、多くの人が故郷で過ごしたであろう青春時代が一瞬で蘇る曲でもある。

 

 

全曲、1番から3番までフルコーラス歌われたこの日、

 

これだけでも十分満足できる第1部のヒットパレードの構成であった。