さて、『忠臣蔵』の私の観劇は12月2日の初日のみ。

 

前日と当日、友人宅にお世話になり、舞台の素晴らしさに興奮覚めやらず

 

夜中まで語り合い、至福の時を過ごさせて頂いた。

 

次の日に帰宅し、余韻に浸りつつ、日々の雑事に紛れながら、

 

あまりにも見事だった舞台の様子をどう記したらよいのかと考えあぐねるうち

 

早くもあれから二週間になんなんとしている。

 

都会に住む方々のように、公演中何回も劇場に足を運ぶことはままならず

 

一回のみの観劇が私の身の丈にあっていると決めているが故か

 

一期一会の舞台は日が経ってもなお、否、時が経つにつれ

 

より自分の中で熟成されて記憶の底に定着するようにも思う。

 

今回は芝居の内容が常以上に心に響いたために、咀嚼するのにいつもより時間がかかり、

 

後半『雪の巻』を記そうとしている今日は奇しくも討ち入りの日。

 

里に雪は無く、良く晴れているけれど、

 

54年前、大河ドラマ『赤穂浪士』矢頭右衛門七を演じた舟木さんが歌われた

 

『右衛門七討ち入り』(西沢爽作詞・遠藤実作曲)

 

 

♪ふりつむ雪を 血に染めて 四十七士の鬨の声

矢頭右衛門七 散りゆく花か 恋も知らない若い身で♪

 

が、しらずしらずのうちに口をついて出てくる。

 

今回、コンサートで歌われるかなという淡い期待はかなわなかったけれど

 

熱演をものともしない芝居の後のコンサートにも酔いしれた。

 

泊めて頂いた友は、幸いにもサイン入りボールをゲットし

 

長屋をデザインした手ぬぐいを手にされた。

 

あまりサインやグッズに執着のない私だけれど、自分のことのように嬉しいものだ。

 

 

 

そして、休憩を経て、夜の部『雪の巻』の幕が開いた。

 

両側の板の絵も雪の結晶と雪輪が描かれ、上部には揃いの火消装束の

 

袖にデザインされたあの逆鱗の▽の模様に代わっている。

 

大河ドラマの『赤穂浪士』の主題曲を彷彿とさせるバックミュージックが流れ

 

いよいよ見どころの討ち入り!への期待を高めるに十分。

 

今回も舞台音楽は、秀逸だ。

 

 

江戸に上る途中、箱根の関所の前の宿で、名を騙った本物の立花左近との遭遇。

 

詰め寄る林啓二さん演ずる立花左近に袱紗に包んだ血判状を差し出す内蔵助。

 

その袱紗に染められた違い鷹の羽の紋を見て、相手の真の姿と決意を悟る左近。

 

緊張感漂い、武士の意気地が通い合うこの場も、思わず目頭が熱くなる名場面だ。

 

夜の部は2階からの鑑賞だったけれど、内蔵助の落ち着きと覚悟、

 

すべてを飲み込み立ち去る左近の気持ちがひしひしと伝わってくるようだった。

 

 

そして江戸。

 

 

吉良邸では、松坂町に住まいを移された吉良と、討ち入りの噂に

 

父を案ずる田村亮さん演ずる上杉綱憲と、内蔵助とは山鹿流軍学の友である

 

家老の千坂兵部が、上野介に苦言を呈する。

 

しかしお上のやり方に不満を持つ上野介は二人の言に耳を貸さない。

 

 

一方、浪士達は吉良邸を改築した大工の清兵衛から、絵図面を得ることに成功する。

 

赤穂浪士に肩入れする大工を演ずるのは高田次郎さん。

 

「あかんたれ」などで敵役を演じて絶妙だった高田さんであるが

 

好好爺然とした、職人気質の大工役が良く似合っていらした。

 

様々に情報が錯綜する中、立花左近からも14日が吉良邸の茶会の知らせを受け

 

いよいよ討ち入りの日を決定する浪士達。

 

別れのために南部坂のあぐり邸を訪れながら、間者に気付き

 

心ならずも真意を告げること無く去る内蔵助。

 

あぐりの側に仕える戸田の局役は、あぐり役の長谷川かずきさんのお母様で

 

これも舟木さんとの競演の多い長谷川希世さん。

 

言わずと知れた長谷川一夫さんのお嬢様である。

 

かつてお父上が演じられた大河ドラマ『赤穂浪士』での大石内蔵助を

 

時を経て舟木さんが演じられている舞台に出られているというのは

 

人の世の縁の不思議さの奥深さを感ずる。

 

 

あぐり邸を出る内蔵助を待ち受けるのは学友の千坂兵部

 

千坂兵部を演ずるのは里見浩太朗さん。

 

かつて民放で放映された『赤穂浪士』に舟木さんが清水一学役で出演された折り

 

千坂兵部を演じられていたのも里見さんだったように記憶している。

 

『薄桜記』では千坂は討ち入り前に病死し、吉良の助っ人になることを

 

断る機会を逸してしまう典膳が、心ならずも堀部安兵衛と敵味方になるけれど

 

ここでは千坂は、討ち入りを何とか阻止しようと学友に訴えかけるが

 

内蔵助の決死の覚悟が固いことを悟り、雪の中、心を残しつつ別れていくという設定。

 

冷静沈着、知恵者であったという千坂役は、里見さんにぴったりで

 

二人の静かなやりとりの場面は、熱い友情を抱きながらも

 

敵味方としての如何ともしがたい立場の違いが覆せないことへの

 

互いの決意が哀しみを醸し出す、これもまた圧巻の場面であった。

 

 

そして討ち入り。

 

吉良を探して屋敷の中を走り回る浪士達。

 

その中で堀部弥兵衛役の曾我廼家文童さんのコミカルな立ち回りが

 

笑いを誘い、緊張を和らげる。

 

文童さんも『宵待草』以来、舟木さんの舞台での競演が多く

 

ファンにとっても、その出演が嬉しい役者さんだ。

 

 

『右衛門七討ち入り』の2番に歌われている

 

♪討たれるものも 討つものも ともにこの世は夢の夢

赤穂浪士の誉れにかけて ゆけととどろく 陣太鼓

 

今回は立ち回りは少なかったものの、山鹿流陣太鼓を打つ内蔵助が見せ場の一つ。

 

すっぽんからせりあがり、陣太鼓を掲げた内蔵助が打つ陣太鼓が響き渡る。

 

コンサートでの舟木さんの言

 

「打つのはいいんだけれど、太鼓が重いから持ちあげるのが大変。」とか。

 

しかし、さすがの堂々たる姿であった。

 

<演舞場『忠臣蔵』ちらしから>

 

敵を討つという念願を果たし、各々大名家にお預けになり、細川家に預けられ

 

切腹の時を待つ内蔵助に語りかけるのは、家臣村井源兵衛役の青山良彦さん。

 

この方も明治座公演の時競演されていたように記憶しているのだけれど定かではない。

 

その時が訪れ、内匠頭に「殿、これで良かったのですか。」と語りかける内蔵助。

 

回想の中の内匠頭と切腹の場の内蔵助。

 

二人の白装束が幻想的でさえある幕切れであった。

 

 

 

討ち入りの日の今日、より円熟味を増した舞台がかかっているのではないかと

 

初日を思い出しつつ、遠く信州から思いを馳せている。

 

 

余談であるけれど、

 

右衛門七の写真を探して、久しぶりに開いた写真集『Papyrus』

 

 

 

 

ページを繰っていると、作家の川口松太郎氏の『舟木君に望む』という寄稿文に目が行った。

 

 

まるで今の舟木さんの活躍を予知していたような内容ではないか!!

 

と感動で心が震えた愛情あふれる文章であった。