メキシコで髪を切ろう 3 | 添乗員のゆく地球の旅!

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メキシコ滞在とひとり旅とツアー添乗中に起こった体験話&
 首のくびれた保護犬・黒豆柴まるちゃんとの愉快な日常

「ローランの話、また長くなるの?(`ε´)」と思われた方もいらっしゃることでしょうが、今回はこれで終わりです(^_^A まあ、確かに書き始めのときは一回で終わらせるつもりだったのですが……

前回は→ コチラ

いくらメキシコの美容院がいい加減とは言っても、まさかまだまだ見習いの人に普通にカットを任せるだなんて。しかも英語がまったく分からないのにスペイン語力ゼロのお客の担当とは。

ちなみにこの女の子スタッフは、おそらくほぼ初心者に近い美容師だろうと途中から確信していました。日本で言う美容師初心者とか見習いとかとは意味合いが違って、この美容院で初めて修業している身であり、美容師の学校などはもちろん出ていないということです。どうして確信を持ってそう思ったかというのは忘れてしまったのですが、日本の下手な美容師のレベルではなかったことは間違いありません。

しかし、こちらも日本で几帳面に暮らしている訳ではないので、多少の失敗はもともと覚悟して行きました。だから途中からはただひたすら諦めの心境のまま、早く終わると良いのにと念じていました。

隣でリコちゃんとリコちゃんの担当スタッフが、時には笑い声を上げるなどしながら楽しそうに英語で会話をしているのですが、私と女の子スタッフは会話が成り立たないのでひたすら無言のまま、気まずい空気の中に居ました。かろうじて私の髪を切る音のみが存在をアピールしているといった感じ。

私は伸びすぎて不揃いになり、また日焼けで茶色く傷んでしまった自分の髪を肩の辺りまでばっさりと切り、その後は再び綺麗に伸ばしたいと考えていました。ストレートでそのまま伸ばすのであれば、危険を冒してメキシコの美容院に何度も通わずに済むと思ったからです。

そんなことを考えながらぼんやりしていた時、ふいに見習い女の子スタッフが

「コルト?」

と訊いてきました。

「コルトって?」

スペイン語の分からない私は少し焦りながらも、彼女が何を言っているのかを頭の中で推理しようとしました。

「『コルト』は『コルタール(切る)』に似ているし、いかにも一人称現在形の『私は切る』という派生形のような感じがする……つまり、『切るか』と訊いているのではないかな?」

ちょうど肩くらいの長さまで髪は切られていましたが、左右の長さが違うというのは鏡を見れば一目瞭然でした。この女の子スタッフは左側と比べて少し長めになっている右側の髪を触りながら「コルト?」と訊いてきましたので、切り口が揃わずに左右がアンバランスになっているのを解消するために少し右側をカットしても良いかと尋ねているのだろうと私は確信しました。

「シィ(OK)」

私は彼女の問いに対して肯定しました。

すると、彼女は笑顔で私に頷き、次の瞬間、思ったよりも大胆にジャキッと右側をカットしました。何とそのために先ほどまで長かった右側が左よりもさらに短くなってしまいました。鏡で一部始終を見ながらあっけにとられる私の気持ちに彼女は気付かないのか、なぜかさらに左側にも鋏を入れてジャキッと。

肩のラインで揃えるように注文したはずが、すでに顎のラインに近くなってしまっているのはなぜ? しかも左右が相変わらず不揃いですし。頭の中が混乱していたときに、彼女はさらに訊いてきました。

「コルト? マス・コルト?」

こんなに不揃いでは確かに困るので、揃えてほしいという意味合いで、シィ、シィと肯定の返事をしつつ、少し背筋が寒くなるのを感じました。

「どうしてこんなに意思の疎通ができないのだろう!?」

私は言葉が堪能でないだけでなく人見知りでしたので、唯一分かっているスペイン語のつもりで「コルト?(髪の長さを揃える?)」と訊かれる度に「シィ(はい)」と応えていると信じ続けた結果、気が付くと左右の長さは耳の下のラインほどになっていました。

「あれ!? 肩のラインでカットしてもらって、その後伸ばしたいって言ってなかったっけ?」

私に注意を向けていなかったリコちゃんがふいに気付いた時には、私はショートカットになっていました。そこまで切られたところで通訳してもらうと、「コルト?」というのは本当は「マス・コルト?(もっと短く?)」という意味で尋ねていたそうで、「左右の長さを揃える?」と訊かれていると勘違いしていた私は自ら「どんどん短くしてちょうだい」と言っていたようなもので、つまり必然的にショートカットにならざるを得なかったのでした。

初心者の女の子スタッフの腕も悪かったのは事実ですが、私の適当な言語力&性格が、なぜか私を望まぬショートカットにさせたというお話でした。

その後、二度とメキシコでは美容院に行かなかったのですが、それは逆恨みというものかもしれません。