お昼ご飯を諦めて、すぐに車に乗り込む。

最寄りの警察署には車で10分程。

免許証の更新でしか訪れたことがない。


少し道が渋滞していて15分程かかって到着した。

緊張しながら玄関をくぐる。


入ってすぐの総合受付で捜索願いを出したいと言うと、エレベーターで3階に上がり生活安全課へ行ってくださいと言われた。


言われた通り3階に上がり生活安全課を目指す。

『生活安全課』とプレートが掛かった部屋見つけ恐る恐る部屋の中を覗くと、入口近くにいた女性が気付いてくれて近寄ってきてくれた。


「どうされました?」


「あ、あの…捜索願いを出したいのですが…」


「捜索願いですね。ではあちらの椅子に座って少しお待ち下さい。担当の者がお声掛けします。」


「あ、は、はい。」


廊下に置いてあったパイプ椅子に案内されたので、言われるがままにパイプ椅子に座った。


少しして男性の警察官が部屋から出てきた。


「えっと、捜索願いを出したいとのことで?」


「はい…。」


「じゃあ、こちらでお話を聞きますので。」


廊下の隅にある、机と椅子があるスペースへと案内された。


その警察官は、私と同年代で背が高く、少し強面な印象だった。


ドキドキしながら促されるがままに椅子に座る。


「まず始めに、今は捜索願いではなく行方不明者届と言います。ややこしくなっちゃうので、今後は行方不明者届で言い方統一させてもらいますね。」


「はい。わかりました。」


「では、お話聞いていきますね。今日は誰の行方不明者届を出したいのですか?」


「夫です。」


「ご主人ですね。どういった経緯で?」


ここで、先程会社の部下から聞いた話をそのまま話した。


朝はいつも通り普通に家を出たこと。

社内メールに体調が悪いと連絡が入ったこと。

そのまま連絡が取れなくなったこと。


それ以外にも、会社の方が都内の消防本部にどこかの病院に緊急搬送されていないかも問い合わせせてくれていたけど、それも身内ではないと教えてくれないとのことで、私が問い合わせたけど収獲はなかった。


個人情報の問題で、例え緊急搬送されていたとしても、家族であっても教えることができないらしい。

意識不明の重体だとか、既になくなってしまっている場合を除いて。


私はこの時、夫はどこかで具合が悪くなって動けなくなり、どこかの病院に運び込まれたか、自分の足で病院に行って、そこで意識不明になり、その上何らかの理由で身元が分かるものがなく連絡しようがないのだろうと考えていた。


例えば、倒れているときに財布や鞄が盗まれて身元が分かるものが何もない状態で意識不明に陥ったとか、そういうことだ。


だから、きっとすぐに見付かるはずだと思っていた。

行方不明者届さえ出しておけば、身元が分からない患者がいれば病院から警察の方へ問い合わせたりしてくれて、特徴が一致して私のところへ連絡が来る。

こんなシナリオを頭の中で作り上げていた。


その後、更に詳しい話を聞いてもらい、何枚かの書類を記入して行方不明者届が受理された。


そして、朝夫が出ていった状態の家の中を見せてほしいと言われ、話を聞いてくれた警察官が家に来ることになった。


車で連なって自宅へと向かう。


家、掃除してないんだよなぁ。

ものすごく散らかってるし、飼ってる犬がちょうど換毛期で毛がすごい抜けるから、服に毛がついちゃって申し訳ないな…


と、そんなことを車の中で考えていた。

このときの私は、まだまだ呑気だった。