乃ディは、やんちゃ!!

春到来を告げる直ぐ手前の都内の降雪が上がった直後、2月12日(土曜)に都内ライブ・ハウスにて、川奈栞のソロ初となるライブが開催された。

全6曲入りとなる、ソロ・デビューのCDミニ・アルバム「合言葉/川奈栞」の発売を記念するイベントに参加し、CDを聴き返しながらライブを思い起こしつつ、全6曲に関して私感を述べたく記します(なお、全曲の作詞は川奈栞、作曲・編曲 ムラカミ・ジン、同データはCD盤の記載に因ります)



【全6曲の解説】

(1曲目) A型彼氏

今回のCD中、音楽的完成度が最も高いナンバーである。モータウン・サウンドなイントロから入り、そのまま60年代のモータウンを彷彿させる和製ポップスと仕上がっている。アメリカのチャートではシュープリームス等が流行り、ブリティッシュ・インベイションの大きな波に見舞われた当時のサウンドを、現代風に洗練させたような曲調であり、日本ならピチカート・ファイブ的な響きもあって、旧くて懐かしいような、ちょっと前のスノッブな音のような、不思議な折衷を醸すサウンドとビートが一貫する。イギリスで70年代末に新たな解釈によるモータウン・サウンドが一例としてジャムによってコピーされ、80年代にはアメリカのガールズ・バンドが60年代のリバプール・サウンドやアメリカのモータウン・サウンドを独自に演奏し、新しいようで懐かしい響きに思えたものですが、そのような新解釈をさらに自己流に洗練させたのが日本のピチカート・ファイブとでも考えるなら、「A型彼氏」は21世紀の解釈による60年代モータウン・サウンドの潮流となる。

「A型の彼氏」とのタイトルであるが、歌詞から見ると、彼のイニシャルが「A」とも解釈できましょうが、血液型ならば次回は「O」、「B」、「AB」も歌にして欲しいとの声が、各々の血液型諸氏から挙がるのは必至。しかし、「A型彼氏」は独立した一個の楽曲であり、同曲の世界観を共有して納得したいものと、B型の私(筆者)は思うものです。CDの冒頭からして大変に完成度の高いナンバーで驚かされましたが、そう率直に思うのは筆者だけでないでしょう。



(2曲目) Adventure

ウィンドサーフィン大会の公式テーマ曲との由。タイアップ曲なのでCDにも2曲目に入ったのやも知れないと思われるも、今回のCDのトータル・コンセプトに唯一合っていないナンバーとして感じられ、皮肉な結果を筆者は憂う。この曲と、今回のCD発売前に先行配信されたナンバー「命中Want You バレンタイン」(注・このCDでは5曲目に収録)は、二曲をカップリングしたシングルとして発売した方が良かったと考えられるが、諸般の事情が伴うのであろう。特にAdventureは、アニメ主題歌みたいに聞こえ、川奈栞さんらしさよりも、メジャーの音みたいな印象が残されます。印象の薄い楽曲なので、栞さんの歌い手としての存在感にてプッシュするしか使途のないナンバーと思い、タイアップ曲としての使命を果たして戴きたく、それのみを筆者も願うものです。



(3曲目) 西部My Friend

タイトルどおり、西部つまりウェスタン調のナンバー。キワモノ的なコミック・ソングとでも解釈されかねない位置の楽曲を、栞さんの存在感がカバーしている。イタリア生まれのネズミ「トッポジージョ」が主人公となる人形劇でも歌われた「さすらいのトッポジージョ」という歌を筆者は思い出した。昭和四十年代の初頭から、トッポジージョの日本語吹替えは山崎唯が担当し、歌っていたのも同氏である。哀愁を帯びたウェスタン調にトッポジージョの曲では聞こえたが、栞さんのオリジナルは一貫して明るい。これぞ川奈栞のキャラ、即ち個性が光る点と思う。哀愁とかを感じさせず、明るさを貫くことで、逆にキワモノと思えなくなるのである。

川奈栞ブログに登場するシオリン(栞さんの愛称)の名相棒である、“(馬の)まーくん”とライブでは共演()するナンバーであり、今後ともライブでは必ずや人気を博すものと思う。ライブ直後の声では実際に好評な楽曲であったが、川奈栞らしい曲との意味合いでも、同曲が支持される所以は大いに理解できる。この手の歌なら、栞さんの右に出る歌い手はザラにいないのは間違いない。代役を考えてみても、直ちに思い浮かばない。

なお、参考までに、タイトルは「Save My Friend」に引っかけているとの説明がライブ時にありました。



(4曲目) ハートの住人

おニャン子クラブ初期の隠れ人気作「いじわるねDarlin'」、あるいは森山加代子「月影のナポリ」みたいな曲調かと思えば、なかなか凝った展開の佳作。栞さん自身はライブのMCで「ロック調」と同曲を表現していたが、これは本格的なシンガーがカバーしても相応しいと思えるまで、楽曲としての完成度が高い。1曲目「A型彼氏」と並び、今回のCDでは高く完成されたナンバーだが、川奈栞らしさが感じられるのは「A型彼氏」の方で、「ハートの住人」は他の女性シンガーに提供してみるのも面白いと思う。



(5曲目) 命中 Want You バレンタイン

CD発売前から、先行配信された唯一のナンバーであり、聞きやすいアップ・テンポな曲調が心地よい。さわり部分が覚えやすいが、後半に栞さんがファルセットで歌う英語詞のパートが個人的に気に入っております。ライブでは、トップとアンコールが同曲であったが、CDコンセプトとは特に関係がないナンバーと思う。むしろ、収録2曲目となる「Adventure」と共に、CDから独立した曲と考えても差し支えないのではないだろうか?ただ、「Adventure」はメジャーな音の曲であり、バレンタインはインディーズの雰囲気がむんむんの楽曲となる。そう考えるとすれば、川奈栞らしさは、バレンタインに宿っている。



(6曲目) 寄り道大魔王

CDの最後を飾る不思議なる佳曲。ライブでも最終曲として披露されたが(その後に、アンコール曲としてバレンタインを再び歌唱した)、川奈栞さん自身の個性と合わせ、余韻がいつまでも残るナンバーである。見ず知らずの間柄が記憶を共有することはないが、懐かしさとの概念は共有されるものである。ご近所の商店街を夕方にそぞろ歩きする愉しさを歌ったナンバーだが、牧歌的な曲調を、栞さんが難なく調理し仕上げている。歌い手としての川奈栞の真骨頂が自然体に感じられる曲として、これは何度聞いても飽きないし、聞くごとに新たな発見がまた見出される名曲と思う。似た曲調を探すなら、ビートルズ「オクトパス・ガーデン」(リンゴが歌った曲で、不思議と人気が高い曲)に、どこかしら通じているようにも思える。

“夕焼け”という言葉が実にマッチする曲調であり、誰もが保有するであろう、懐かしい夕焼けの記憶が甦る、そんな愛おしい名曲と筆者は評価する。今回のCDの、最高の秀作なのではないだろうか?この曲がラストに入っていて、CDを買って、聴いて、得した気分に浸る。そしてまた、最初から聴き直したりしている。

当分はこのCDを、座右から離せそうにない。


CD「合言葉/川奈栞」(イノセント・ミュージック)