地下鉄
そしてこれは、実に大傑作でありました。
「飯田家は、都内の何処かに在る平凡な住宅。家長たる父親が亡くなったので、残された兄弟(長男&妻、次男、末っ子の長女、なお母親は先に他界している)の間で土地家屋を換金し、遺産分配する談と為る話。この兄弟、平素の交流は互いに皆無に近い。長男夫婦は福岡(九州)に住んでおり、東京へ将来は戻りたいとも考えているが、その可能性が当面は無さそうである(なお、長男の妻は子供の出来ない体であり、将来的にも子供を授かることは無い)。次男は肥満体の典型的オタク、現在ではアキバは使命を終え、焦点は中野ブロード・ウェイだと言い張り、彼自身も中野へ引っ越している。末の妹は頼りない不器量で小柄な女の子。サラ金に手を出し借金まみれのチーマー崩れみたいな若い男と付き合っており、彼と同棲している様子で、彼の子供を妊娠したことが後で本人の口から語られます。長男夫婦が兄弟召集を掛け、選任した弁護士も招いて遺産分配の話し合いを夕食を取りながら行う段取りですが、妹は同棲中の先述の若い借金まみれチーマー風の男を同伴し、最初から不穏な空気ありありです。弁護士が飯田家に現れるも、彼は女子高生風(制服を着用)の若い女の子を同伴する。何と、父親が生前に何処かの女に産ませた4番目の兄弟であり、DNA鑑定の結果、家族である確立99%(と、弁護士が説明する)。荒れ始めた空気の中、皆で“常夜(じょうや)鍋”を取り分けながら、徐々に落ち着きを取り戻そうと食卓の場は進む。現金で残された父親の貯金を4等分し、兄弟4人で弁護士が同席する場で分配(初めて存在自体が発覚した異母妹にも、等分の現金を長兄が渡す)。長女と同伴した男は、取り分の現金を奪い取るようにして、この場を去る。
後は土地(家屋)を売払い、その換金を分配するのが共通の目的と為るが、弁護士は万札を4番目の妹(女子高生)へ渡し、“何か”を買って来るよう、謎のメッセージを委ねる(スーパーへ行けば分かると、無責任に依頼する)。飯田家の最後(最期)の晩餐だと弁護士は言い出す(この人、酔うのも覚めるのも、実に早い切替えの人)。豚肉とほうれん草から成る常夜鍋がほとんど終了の頃、妹(女子高生)が買物から戻って来る。彼女は多めの豚肉をスーパーで購入し、空になりかけた鍋へ豚肉を一気に足す。そして、いままでの口調とは全く異なる力強さで、常夜鍋(毎晩でも飽きない中味のお鍋との意味で、“常夜鍋”)は決して終わってはいけないのと力説し出す。私はここ(飯田家)へどんなに来たかったか、私はお父さんには会うことすらなかった。どんなに兄弟達に会いたかったか。私には常夜鍋の憩い団欒は全く無かった、と彼女は力説し続ける。彼女の産みのお母さんは別の男と所帯を持って子供をもうけたので、彼女の居場所はこの世の何処にもなく、千葉(船橋)に一人住まいしている(彼女の母親が微少な仕送りをしているらしい)。
飯田家の場を皆で守り、維持する話がまとまった段にて舞台場面は展開、長兄夫妻が福岡へ戻ることとなり、新たな家族である4番目(真の末っ子)の妹が飯田家を一人で守ることとなる(そこに住んで高校へ通う)。家を出る間際、兄夫婦から何かが新しい妹へ手渡される。長兄達を見送った後、飯田家の食卓で包みを開けると、中には真新しいお箸が一膳。新しい家族のために用意されたお箸が、当の包装から出て来た・・・ 」
以上、舞台の梗概ですが、お分かりでしょうが、4番目の妹を演ずるのがMちゃん。
ラスト、新たな家族である4番目の妹が女性用のお箸を嬉しそうに右手にする場面、正直に涙が出て参りました・・。
旧くからの日本映画の叙情性に通ずる、佳作舞台でした。
最初とラストに使用される曲が、「早く家へ帰りたい」(サイモン&ガーファンクルの代表作の一つ)。
行く場所があるから帰る場所があるのではなく、帰る場所があるから行く場所もあるのと私は思いました。
当夜はMちゃんからの携帯メールが度々と入り、度々と目覚めて私も返信した・・・・。