イチロー選手が“3,000本安打”を達成し、節目を刻んだ試合でもう一本ヒットを放ち、日米通算の安打数を「3,001本」と伸ばしました。試合後に日本の記者連から特別なるコメントを求められたイチローは答えて、

「今日の出来事は過去のこと、また次の目標に向けて明日から頑張ります・・」

とだけ、手短に語ったそうです。

彼のクールさを快く思わない寡少派もある様子ながら、逐一と感傷的(おセンチ)に走らない、見せない、そんなイチロー選手の姿勢を私は以前より支持するものです。

「当たり前なことを私はしただけ、同じ状況になれば、また同じことを私はするでしょう・・・」

称賛を仮に得れば、このような具合に私自身とて惚(とぼ)けるのと思うし、ヒーローとは大勢の意が編み出した偶像なのとも考えますが、寓意の象徴たるヒーローが最高レベルの野球試合で三千ものヒットを残さば、立派に余りある業績を満場の総意として称えられて然るべきです。

ヒーローとは“シルエット”だけでも判別が可能なのと何かの折に読んだことがあります。著名な例題として、ミッキー・マウスやアトムはシルエット像のみで十二分に何だか分かる。オバQこと「オバケのQ太郎」には頭のてっぺんに毛が3本あるため、これもシルエットだけで容易に分かってしまうのですが、玩具とかキャラ商品化するに際し、トレード・マークの“毛が3本”こそが製作者に難題を加味する事由となります。その反動なのか、後発のドラエモンは頭上に何も無い、主題歌でも知られるてかてか頭となっています。

実際の人間では、イチロー選手の打撃フォームはシルエットだけでもすぐ分かるほど個性的であり、メジャーで成功した先駆者の野茂英雄投手は先ごろ惜しまれつ引退を引退しましたものの、やはり投球フォームはシルエットで見ても誰だかたちどころに分かるくらい、実にユニークなものでした。後者が元気に投球する姿とか、いずれまた見てみたいものの、それは幻影のように遠のいた虚像といまや転じたかです。

「本来のピッチングが出来るのは今年が最後・・」

そう述べて、かつての僚友である清原選手に打撃練習の投手を務めたのは、やはり先日に引退した桑田真澄投手。新たな明日へとまた歩み出す現役ヒーロー像とは反して、去りゆく過去のヒーローは異人のごとき幻影と変わります。

偶然なこと、昨夜は身近なる異人にお会い致しました。思いのほか達者たるご様子に、ただ正直に私は嬉しかった。真夏の幻影ではなかったのであろうが、彼の笑みは不意に懐かしくさえありました。

灼夏はいずれ暮れゆくも、異人達はどうか幻影とならないで戴きたい。変わらぬ笑顔と聞き慣れた声に触れ、暦の立秋が近づくのを何故か実感する私でありました・・・。

イチロー選手は、3,002本目を、どうぞまた頑張ってください・・!