夏の勝利に限るのではなく、その独自の輝き、崇高なる眩さと瞬き、巷間の喧騒を隔てた夢想の空間に於いて繰広げられた小ドラマと、独自の詩情に満つた創造の世界観を描き続けた天才ことCMクリエイター「杉山登志(すぎやま・とし)」氏は、1973(昭和48)年12月に37歳の若さで急逝されました(自裁による他界)。私自身、中学生~現役高校生だった時分、特に夏休みのTV-CMなら資生堂の一連シリーズに夢中になりましたものです。それ程までTVコマーシャルからの影響力が甚大であったし、未だエアコン(クーラー)が一般に普及してもいなかった世相下、別世界へと誘われる映像に音楽が貴重なる涼感でもありましたものです。
「♪夏は、早起き~、早起きしましょ~・・・」
早朝の無人のビーチで撮影されたCMのバックに流れたちょっと眠たそうな女声のCMソングとか、
「♪パッショナブッ~ル~・・、夏~・・・」
と、この季節の勢いを描いた映像群にコピー等は、私の記憶に現在なお鮮明です。
わが家の夏休み、午前8時半からお昼まで学習が変わらぬ日課でした。昼食時にTVを点ければ、杉山氏が手掛けた資生堂CMが頻繁に流され、これを見れば“夏”を意識出来ましたもので、いつかはこんな“夏”を実際に体感したいものと願いました。
杉山登志氏の手腕に頼った“夏”の映像は、1973(昭和48)年版が最後となりましたが、同年12月に氏は自ら命を絶ちました。CM制作の仕事を継続する上での諸問題からの疲弊が主な要因だったのでしょうが、あれ以来のこと何だか“夏”の時計がちょっと止まってしまった様にも感じております。輝きが満つていません。
杉山氏は、キャンベル缶スープの「トマト・スープ」が好物で、自宅マンションには買い置きが切れなかったとか伝わります。濃厚なるトマト・ジュースを熱くしたようなスープなのですが、私も好きな味です。重厚さと淡白さとが一緒くたになったような、アメリカンな味覚(?)。
さて、勝ちを描く難しさは、その裏腹をも描く必然が備わるからと思います。そうでないと、虚構ばかりを表現するに陥ってしまうもの。「勝ち」は虚ではないのですが、そこへ至る足場とか裏付けこそが尊いものです。結果のドラマばかりを撮り続けた歳月の果てに、杉山登志氏は裏腹の虚を見てしまったのかも知れないとも思う。
ここのところは、ひと夏を先ず走り抜いて、次の夏には異なった気分にてまた向えば良いのか?
「勝ち」の意味合が変化を続けてゆくのであれば、幸い目標を見失わずに済むとも言えるもので、これだから夏場の早起きは、特に推奨されるのと申せるよう思いました。
今朝だって変わらず、この私ゃ早起きです・・・。