北京オリンピック開催まであと3週間足らずと迫り、この夏こそ様々なる勝者が称えられるひと夏になりそうで、真夏の祭典でまさしく“勝夏”ですね。1964(昭和39)年の東京五輪は10月10日が開会式でしたから、こちらは秋の祭典でありました。

「東京オリンピック」と、その題名のまま公開された記録映画(市川崑監督作品)は、公式記録映画としては一部から不評の声が上がり、肝心な競技の記録映像より芸術性へ走り過ぎているとのコメントが公開往時には出ておりましたが、後年に於いては傑作邦画と評価されるに異論ない名作こそ、当の記録映画「東京オリンピック」の真骨頂と私も思いますところです。

勝者も敗者も紙一重であり、一瞬の勝利でもまた敗北でもない次元に備わる普遍な人間性にこそ照射を向けた市川崑(故人)の手腕は実に見事なるものでありました。後々に制作されます各国にて開催されたオリンピックを記録する幾多の外国映画は、市川監督の手法また視点の延長線上に在ると申しても過言にあらずと考えます。ヒットラーが撮らせた「民族の祭典」(注・戦時下のベルリン・オリンピック記録モノクロ映画)がお手本と為っている具合には思えません。

変わり行く東京市街の変遷ぶりを捉えたり、アフリカ小国からたった一人で参加した五輪男性選手の滞在中の行動そのものを追ったり、女子水泳の16歳少女二名の語り草となった一騎打ち、勝者のアメリカ人女子選手が金メダル表彰台で泣きじゃくるのを、下から称える二位のクリスティーナ・キャロン選手(フランス)の微笑みが、私は最も好きなシーンです。

泣くじゃくる勝者と、それを称えん敗者(と申すより結果が二位となったライバル選手)の清々しい、或いは神々しいまでの微笑み。通り過ぎ行くような間合い又は行間に、結果は出ておりますものです。ただ当の結果とて、瞬く間にまた通り行くもの。

夏それ自体が人間の勝敗を分け隔てる季節ではないですが、何かしら結果へ向うまでに培うべき人間性を養うのには、まさしく貴重かつ唯一なる好機の到来と私は踏まえます。

勝夏に関して何か書いたらと言われましたので、珍しく御用向きにお応え致します。

「勝ったら笑いなさい、泣くのは敗れた者の特権だ・・」

と、上記みたいなこんな言葉も、実は密かに私は好きなのであります・・・。