~七夕ということで記念に久々に小説~
*悲劇組曲リューク目線...七夕in魔界
「さーさーのはーさーらさらー♪」
七月七日。
人間界では「七夕」と呼ばれる行事で賑わう。
ベガの織姫、アルタイルの彦星が一年に一度出会う日だという。
そして笹の葉に願いを書いた短冊を吊るす、らしい。
人間のすることはよく分からない。
所詮願っても何の意味もねぇのに。
あぁ馬鹿みて…
「おーほしさーまーきーらきらー♪」
「それはそっちにつけるじょ!」
「もっと上!そこそこーっ」
「りゅーくんも飾ろうよ~」
「……お前ら……」
目の前には短冊を片手にはしゃぐうるせぇガキ共…
連中がいた。
どこから持ってきたのか、大きな笹の葉を掲げている。
背の高いルピネが笹の葉を立て、それをメトリーが手伝う。
一番チビな下僕のクズがさらに小さく見える。
菱形や提灯のような飾りを作っては付けてを繰り返していた。
まるで何か壮大なパーティーの準備をしているかのようだ。
所詮ただの七夕。
そもそも人間じゃないオレらは無関係だ。
人間事に関与すること自体おかしい。
何そんな盛り上がってんだ…
「飾り出来たじょー!!」
子供のように騒ぐアークドは、吸血鬼の威厳もカケラもない。
いつも無口で大人しいアイレクまでどこか楽しそうにしている。
夢魔のナレンが煩いのはいつものことだ。
「天の川見えるかなぁ」
「ここだと見えるでしょ~」
魔界は闇に包まれていて、太陽の光は届かない。
しかし夜には星が見える。
汚れた人間界の夜空よりも明るく綺麗だ。
星がない真っ暗な方がオレは好きだが。
今はまだ夕方。
上の方に少し輝いている。
時が経つにつれ、徐々に星の数が増えていく。
悪魔が七夕を祝う…
良いのか悪いのかというより変な気持ちだ。
興味もないし関係ない。
「ねぇりゅーくんも手伝ってよ~」
「なんでだよ…てかオレらにかんけーねぇだろが…」
「まぁまぁそう言わずに楽しもう!」
「一年に一度の特別デーよ!!」
「ほらりゅーくもりゅーくも!」
一年に一度。
確かに特別な感じはするが…
手を引っ張られ背中を押される。
結局オレまで強制参加になった。
「やめろっ!!」
「別に楽しむことは悪くないでしょ~」
「ここにねー願い事書くんだよー」
逃げ出そうとするオレに短冊とペンを渡す。
皆は黙々と願い事を書いていた。
書く音が響く。
その表情は真剣だった。
「……ったく」
馬鹿みてぇ…かもしれない。
けどそれはそれなりに楽しむのは悪くない。
(まぁ…たまにはいいか…)
手渡された短冊を見る。
いざ願いを書こうとしても思いつかないものだ。
血腥いことをしているオレにはまともな願いがない。
人間を呪い陥れ喰う。それが悪魔なのだから。
皆は書き終わったらしく、見直したり掲げたりしていた。
「お前何書いたんだじょ?」
「せかいせいふく」
「キタソレ…てか言っちゃダメでしょ」
「見ちゃだーめーっ」
「そうよ~願いっていうのはね...」
(『秘密にしておかないと叶わないんだから!』)
その時ふと何かが脳裏に過ぎった。
(『見ちゃだーめーっ』)
(『少しくらい良いじゃねぇかー』)
(『叶ったら教えてあ~げる!』)
「………」
薄れがかった俺の記憶。
そう言えばあの時もそうだった。
それは遠く奥深く閉ざされたまま、いつかは消えてゆく。
(『ね、七夕なんだしとびきりの願い事しちゃお!』)
とびきりの願い事…か…
辺りを見回す。
皆はもう笹の葉に吊るしていた。
相変わらず楽しそうにはしゃぎ、笑っている。
オレはペンを手に取ると、短冊に願いを書いた。
「りゅーくん書けたー?」
「…あぁ」
笹の葉に吊るす。
皆の書いた短冊が揺れている。
それぞれの願いが書かれてある。
飾りがいろんな色や形があって綺麗だ。
笹の葉が風に吹かれて大きく靡いた。
「あーっ!!見てっ!!」
空を指さすその先には、光り輝く星々の帯。
その名の通り天の川が掛かっていた。
真っ黒な闇の中に宝石のような無数の星が瞬く。
誰もが息をのみ、黙って見とれている。
…綺麗だ
思わずほぉっと声が出る。
悪魔でも綺麗だと思えるものだ。
…例え叶わない願いだとしても
…いつか…きっと…
しばらく皆で空を眺めていた。
Thank you for reading...