「…………!?」


皆は宰の笑顔を見た途端、一瞬記憶が過ぎったのかはっとする。


なんとも複雑な思いをしている様子で、お互いに顔を見合わせる。


曖昧なのを思い出そうと頑張っていた。


「皆にはまだ言ってなかったね…宰はね、異世界を巡って悪魔を退治する救世主なんだよ。たった一人で悪魔から世界を救ってるんだ~」


「一人であんなのと戦ってんのか!?」


「凄いですね…それにしても何故記憶が……」


「えっとそれは………宰?」


宰の方を見ると、さっきの笑顔は消え、俯いていた。


微かに震えている。


そして菜奈の肩に倒れ込むように顔を埋めた。


「どうしたの…?」


「………良かった………無事で………」


「……何で私達が吸い込まれたこと…分かったの?」


宰は黙ったまま嗚咽を零した。


そしてとある名前を呟いた。


聞き覚えがある名前だ。


聞くだけで重く冷酷に感じる。


「………リューク………」


「えっ……!?」


「!?」


狩猟の森で会った悪魔を思い出す。


「……奴を…知ってるの?」


「…あいつが暴れている…全ての世界が消えてしまう……その前に止めなきゃ……なのに……」


宰はわっとその場に泣き崩れた。


泣きながら今までの経緯を話始めた。


自分の使命。


世界のこと…悪魔のこと……


そして…「アテム」のこと。


苦しい沈黙。


皆は衝撃で動揺していた。


「……酷い……」


「私は救わなきゃいけない…時間がないの…あいつを止めなきゃ……」


「あいつは一体…何が狙いなの?」


「分からない……今水乃ちゃんが調べてくれているの…」


水乃のことが頭に浮かぶ。


宰によれば水乃達の様子を見るついで何かしら手伝ったらしい。


もし調べていくと色々と分かるかも知れない。


悪魔のことや世界のこと…


今一体何が起こっているのだろう。


異様に嫌な予感と恐怖がする。


水乃達の無事を知り、さっきの緊張感が少し解けた。


「ごめんね皆……疲れたよね……ゆっくり休んで」


「でもこうしちゃいられないよ!」


「休憩は大切ですよ~」


「だな~」


今思えばこんなに連続に戦ったのは久々だ。


どっと一斉に座り込む。


体が鉛のように重い。


いくら治癒で体力を回復させるにせよ限界がある。


自然に良くなるまで休むのが一番だ。


宰は落ち着いたようで改めて皆の顔を見て嬉しそうだった。


「あれ?吉良は?」


「?さっきまでいたのに…」


吉良の姿が見えない。


姿を隠しているのだろうか。


名前を呼ぶも返事が聞こえない。


代わりに微かに聞こえてきたのは…


確かに吉良の声だ。


しかしいつもの様子とは確実に違っていた。


「あ…あぁ……ッ……」


「大丈夫……大丈夫だから……」


吉良の啜り泣く嗚咽とパルの宥める声。


姿は見えないが少し離れたところにいるのだろうか。


「吉良…?パル……?」


「あ……あぁ……悪い……」


声をかけるとパルが姿を顕した。


吉良は姿は見えないが、パルの後ろにしがみついているように感じた。


嗚咽が聞こえてくる。


「吉良どうしたんだーっ!?」


『何かあったの?』


「いや……なんでもない……」


「……ねぇ吉良……ちょっと聞いていいかな……?」


宰が躊躇いがちに口を開く。


「貴方…リュークのこと……何か知っているでしょう…?」


「…………」


しばらく沈黙と奇妙な緊張が走る。


吉良とリュークに何かあるのだろうか。


そう言えば初めてリュークにあった時、何故か異様に怯えていた。


「……言って……いいのか……?」


吉良が姿を顕す。


相変わらずフードを深く被っている。


その隙間から見えた顔は涙で濡れていた。


何かに怯えるような絶望に似た表情。


初めて見た表情だった。


「……吉良……」


「……あいつ……私の……知ってた……お父さんの…名前……呼んだ……」


震えながらしかしはっきりと


振り絞るようにそう言った。