「もうやめて…っ」



私は必死に壁を叩くもびくともしない。



良く見てみると、さっきより薄れているのが分かった。



アテの力が弱まっている…



アテは少しリュークから離れ、距離を取った。



ロッドを強く握る。



光の渦がロッドに集まってくる。



『アテム!やめなさい!!そいつは貴方がかなう相手じゃないわ!!』



「ハピナス…様……」



『貴方の力はもう限界よ!!それ以上戦ったら駄目よ!!早く今すぐ…』



「…………嫌です」



私には分からないが、アテは誰かと話している様子だった。



アテは静かに、はっきりと呟いた。



『気持ちは分かるけれどこれ以上は危険よ!!』



「すみません……でもボクは…こいつだけは許せない…大切な人を傷つけた奴は絶対に倒すっ!!」



『アテム…ッ』



光の矢が無数に放たれる。



リュークが避ける方へ次々と飛ばされる。



同時に光の帯がリュークを締め上げ身動きを取れなくする。



リュークは闇の霧と化し逃れる。



アテはその霧ごと光に包み込ませ、爆発させる。



すると爆発したところから一筋の黒い稲妻が走った。



空中に光と闇が迸る。



漆黒の雷がアテへと急降下する。



リュークが姿を現したと思うと、カマが一気にアテの身体を引き裂いた。



「がはっ!」



倒れ込むアテを無理矢理起こすと、その首を掴み持ち上げる。



「うっ……」



アテはぐったりとしていて、息も既に弱り果てていた。



リュークは黙ったまま、手に力を加える。



「くぅ……ッ」



「さーて……どうすっかな……ククク…このままやるのはもったいねぇ……」



リュークの身体からはあの触手が蠢いている。



アテはただリュークを睨み付けている。



「………」



「クク…その眼…最高だな……!!」



リュークはアテを思いきり投げ飛ばし、地面に叩きつけた。



倒れているアテは苦しく喘いでいる。



「もうやめてえぇぇっ!!」



私はずっと狂ったように壁を叩いていた。



頭の中は何も考えれなかった。



叩きすぎて手も身体も赤くなって血が滲んでいた。



その痛みすら全く感じられないくらい無我夢中で叩いていた。



弱くて何も出来ないで、自分が悔しくて情けなくて…



こんな自分のためにそんなボロボロになって…



「アテム…っ!!」



こんなの全然良くないよ…



あんなに無理して傷ついて…



もう見たくない…もうやめて…



『………ごめんね………』



微かにアテの声が響いた。



アテの方を見ると、ロッドをついて震えながら立ち上がる姿があった。



足はふらつき、まともに立てていない。



「足掻くだけ足掻くってか?所詮無駄な抵抗だな…」



眼は虚ろだが、変わらず何か強い思いがこもっていた。



それはさっきよりもずっと強く、どこか違う感じがした。



口元には何故か笑みを浮かべている。



そしてロッドを両手で持つと、突然身体を光らせ始めた。



「くっ…うおぉぉ…ッ」



何が起ころうとしているのだろうか。



アテの身体から強い力が発せられている。



リュークも怪訝な顔をしていた。



「てめぇ…頭狂ったか?」



「……!?」



発せられている力はロッドの方へと吸い込まれている。



アテの輝きが徐々に弱まっていく。



自身の力をロッドに移しているのだろうか。



そんなことしたら身体の方が力尽きてしまう。



ほぼ自殺行為だ…



アテは構わず力を振り絞っている。



「アテ…何やって……!?」



『こんな形でしかキミを救えないけれど……やっぱり駄目だな…ボク……』



ロッドはアテの全ての力を取り込むと、美しく輝く。



アテはそのロッドを強く握りしめた。