何かに気づいたように笑みを浮かべていた。



身体に闇を纏っている。



アテは相手の様子を伺って構えている。



沈黙が緊張をよけい引き立てる。



「なるほどな……」



リュークがそう小さく呟いた気がした。



アテは黙ってリュークを睨んでいる。



目の真剣さが増す。



お互い静かに見合わせている。



どちらが先に動くか分からない。



時が止まっているようだ。



シンとした音さえ聞こえない。



と、突如リュークの方が手を挙げた。



体にまとわりついていた闇が渦を巻く。



高く舞い上がり竜巻状態になる。



形が崩れたかと思うと、それが黒い羽根へと変化した。



アテに向かって一気に飛んできた。



羽根は鋭く刃のように尖っている。



それが何千羽も合わさって集結している。



当たったらひと溜まりもない。



アテは避けつつ光の帯を広げ消していく。



黒い羽根はさらに勢いを増す。



避けても全て避けきれないだろう。



羽根は黒い竜巻となり、闇の嵐が吹き始める。



風が強く、立つのも困難だ。



「わっ……ッ」



風が強くなるにつれて羽根の威力も強くなる。



次々とアテを切り裂く。



ギリギリのところで避け、掠める。



アテも負けじと光の矢を放つ。



「くっ……」



「効かねぇな……」



相手の数が圧倒的に多い。



アテの矢が押されては消える。



そのうちに広がった闇がアテの体に巻き付く。



「わあっ…!!」



「アテ!!」



光を発しようとするも、闇が手に体にまとわりつく。



アテの身体がほぼ闇に包み込まれる。



顔も半分黒く染まっている。



「うわ…ぁっ!」



アテの身体は完全に闇に隠れて見えなくなった。



声も途切れて聞こえない。



嫌だ…



そんな…



「アテムーっ!!」



「クク…邪魔者は後回しだ……」



リュークが指を鳴らず。



すると黒い羽根の一部が飛び出す。



そしてまた高く舞い上がった。



空中で風車のように回り、巨大な竜巻が出来る。



リュークが手を広げた途端急降下する。



行く先は私…



竜巻と共に鋭い羽根が身体を切り裂く。



突風が吹き荒れる。



「きゃああぁぁっ!!」



「っ宰…ちゃん…っ!!」



高く空を舞う。



身体中に鋭い痛みが走る。



強風にあおられ、遠くに飛ばされたお陰で少しは凌いだ。



しかし掠れたところはズタズタで血が出ている。



能力は奪われ、身体的にかなり危険な状態だ。



でもアテの治癒が体力を回復させてくれた。



さっきよりは動ける。



「っ………」



「逃げても無駄だぜ?……さっきの続きだ……」



リュークはまた指を鳴らす。



すると今度は頭上に竜巻が現れた。



後ろからも竜巻が迫っている。



右に走ると、また新たな竜巻が立ち往生する。



完璧に囲まれている。



挟み撃ち…というわけか…



「……ッ」



「逃げても無駄だ…フフフ…安心しろ…てめぇのお仲間さん達も一緒だ……ククク……」



菜奈…



皆…



脳裏に懐かしい仲間の姿が写る。



本当に…リュークの言っていた通り……



でもきっと大丈夫だ…



あの子達は絶対に大丈夫。



だから例え今、終わるとしても…



それでも…私は…



私は最後まで諦めない。



私は力を振り絞る。



少しはまだほんの少しだけど…微かに残っている。



「くっ!!」



「馬鹿だな…お前の能力はもう尽きた…まぁ最期の足掻きには良いか…」



時間は一瞬歪む。



やはり足りなさすぎる。



最期なんて関係無い。



「さっさと消えろ…」



竜巻が目の前に迫る。



嵐が吹く。



立つのがやっとだ。



上左右後ろの竜巻の音が凄い。



目を瞑り、最後まで意識を集中させる。



後もう数秒後…



何故か怖くない。



竜巻は私を取り込もうとした。



その時だった。



目の前寸前だった。



何故かそこから動かない。



音も途絶える。



一瞬自分の能力だと思ったが違う。



違う誰かの力を感じる。



物凄い力だ。



リューク同様…それ以上かもしれない。



「………!?」



突然竜巻の気配が消えた。



辺りの闇の力も薄れた。



消えた…!?



ゆっくりと目を開ける。



それと同時に身体が浮く感覚。



誰かに抱えられている温もりがする。



「え?」



知っている感覚。



でも何かが違う。



「アテ?」



姿を見ようと横を向いた。



しかし視界に入ったのは、大きな白いもの。



純白の巨大な翼だった。



アテじゃ…ない…!?



「え…!?」



「チッ……何だよ……やっと正体現したってか…?」



私は恐る恐る顔を上げた。



「っ!?」



「…この子に手出しするな……お前の相手はこのボクだ……」



アテの声が響く。



いつもとはまるで違う雰囲気。



これまで以上の強さを放っている。






そこにいたのはアテ…



でもいつものアテの姿ではなかった…



そこにいたのは……



美しく輝く純白の翼の生えた…青年の天使だった。