第二章

-1- 次元をメグる少年少女




「結局あまり調べれなかったな…」



菜奈は大欠伸を連発する。



なんせ徹夜して本やらパソコンやらで調べまくっていたら一瞬で朝に…



つまり全く寝ていない状態。



足はふらつき、寝ぼけなまこでウトウト…



「きゃあああぁぁっ」



突然響く悲鳴。



欠伸は引っ込み、一気に目が覚める。



「っは!?何!?」



菜奈は慌てて悲鳴がした方へ走る。



と、後ろから自分を呼ぶ声がした。



「菜っ奈~!!」



聞き飽きた声。



振り返ると、案の定光一がこちらに向かって来ていた。



相変わらずの笑顔満点な顔で手を振りながら猛スピードで走ってくる。



「きゃあああぁぁっ」



「えぇーっ!?酷っ!!」



菜奈の反応に光一は一転して涙目になる。



「あーごめんごめん…って!そんな事してる場合じゃない!!」



菜奈はしょぼくれた光一を引っ張り、さっきの方へ向かう。



近くの裏路地からだ。



唸り声のようなものも聞こえてくる。



急いでそこへ向かう。



するとそこには、揺らめき蠢く黒い影と一人の少女が倒れていた。



少女は影に立ち向かおうと必死に起き上がろうとしている。



「とっ…とぅるちゃん!?」



この子は水乃ちゃん。



私はとぅるちゃんって呼んでいる。



学園では隣のクラスで、水などの液体を操れる…つまり私と同じ能力者だ。



よく話し合う親友でもある。



「大丈夫!?酷い怪我…」



菜奈は水乃を抱え、怪我を治癒する。



「あっ…菜奈……ありがとう…」



「オラァッ」



水乃に治癒をしている間、コウが黒い影を倒す。



影はコウに目標を変え、一斉に襲ってきた。



コウは掌を振り上げ、数体の影を操る。



身動きが取れなくなった影は、コウの支配下で弄ばれる。



他の影達を巻き込み、次々とドミノのように倒していく。



「私も手伝う!!」



菜奈はレナに変わり、コウの手助けをする。



流石兄妹といった協力プレイだ。



水乃も立ち上がり、手に水を纏う。



「とぅるこは休んどけ!!」



レナが水乃を庇いながら影を倒す。



影はうねり、一瞬怯むも効いてないようだった。



こちらも負けじと隙を突き強い蹴りを入れる。



「ごっごめん…」



危険だと悟った水乃は少し離れる。



ここは強いレナ達に任せて、素直に従った方がいい。



弱い自分は足手まといになるだけだ。



その分声を張り上げる。



「レナ達頑張れー!!」



「ねぇ…水姉~」



水乃が声の方を向くと、空中に浮いた不思議な少年がいた。



水乃の弟的存在であり、守護霊の獣音だ。



いつもの元気な様子ではなく、不安げな顔をしていた。



「獣音どうしたの?」



「何かすごい力を感じるんだ…すごく嫌な予感…」



獣音が体を震わせる。



そう言われてみれば何か胸騒ぎがする。



こう見えて感は強い方だ。



一体何なのだろう。



「水姉も何か感じた?」



「うん…何か嫌な予感…!?」



「うわぁっ!!」



レナの方を見ると、影がレナにまとわりついている。



コウも影に飲み込まれそうになっていた。



流石に数が多すぎるようだ。



むしろ増えている気がする。



「レナ達!!」



「何だこれっ倒しても復活すんのかよ!?」



「クソッ……何っ!?」



突如レナ達が飛んだ。



飛んだ、というより浮き始めたという方が正確だろう。



地面から足が、体が空中へ離れていく。



レナ達は突然の、自身の奇妙な現象に慌てる。



風が強くなる。



どんどん強くなっていく。



何かとてつもなく嫌な予感がする。



その時、獣音の悲鳴がした。



「水姉!!上っ上!!!」



獣音が驚いた様子で上を指差す。



恐る恐る顔を上げる。



何故か悪寒と恐ろしさがこみ上げてくる。



吹き荒れる風。



「何……あれ……!?」



頭上を見上げると、闇に覆われた真っ黒な空…



いや、



漆黒の大きな大きな穴が空いていた。