第一章
-1- とある少女のユウウツ





穏やかな天気。


朝の冷たい風が吹く。


少し肌寒い日。


そんないつもと変わらないとある街。


出勤前のサラリーマンや開店する店主達。


学校に通う学生達が歩いている。


そんな穏やかな人々の中に


必死に走る一人の少女がいた。


「あーもう!!しつこいなぁっ!」


颯爽と街の中を走り抜ける。


学生でもまだ遅刻ではない時間帯だ。


妙に慌てた様子で駆け抜ける。


まるで見えない何かに追いかけられているようだ。


「来ないでー!!」


必死に走る少女、菜奈。


傍から見るとただ少女が走っているようにしか見えない。


彼女はただ走っている訳ではない。


追いかけられているのだ。


菜奈は人目を避けつつ、出来るだけ人がいない場所を探した。


今は街のど真ん中。


都合の良い裏路地に駆け込む。


長い裏路地を抜ける。


すると今度はひっそりとした住宅路に出た。

                           
こんなところで「ヤツ」を暴れさせるわけにはいかない…


住宅路を抜け、次の角を右に曲がり、そして次の角を左に曲がると…


目の前には大きな壁が立ちはだかった。


「嘘っ!?行き止まりー!?」


高くそびえ立つ壁に、太刀打ちできず立ち尽くす。


前には壁、後ろには敵。


まさに絶体絶命というべき状況。


もう諦めるしかなさそうだ。


覚悟を決めて後ろを振り向く。


そして追いかけてくるその敵を強く睨みつけた。


そこには「ヤツ」…


謎の巨大な、漆黒の影が立っていた。