「吉良!?吉良!!……また逃げたの!?」
ある建物に甲高い女性の声が響く。
ここは殺し屋たるものが集まる悪人のたまり場。
つまり悪の軍団、組織のアジト。
普通の人は絶対に気づかない、人目につかない謎の場所。
そして私はここの一員。
一員といっても私はたったの5才の子供だ。
何もできないし、分からない。
ただ両親に操られる生活。
殺し屋として…育てられる日々。
刃物の扱い方、銃の撃ち方、研究の手伝い、実験台…
毎日がこれの繰り返し。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
痛いよ痛いよ嫌だよ痛いよ辛いよ辛いよ苦しいよ痛いよぉっ…
誰か助けてよ!!
ここから出してよ…!!
……そんな事を言っても、この言葉は誰にも届かない。
届くわけない。はずがない。
何度も何度も逃げ出したいと思った。
何度も何度も助かりたいと思った。
こんな生活から解き放たれたいと何度思っただろう。
幼かった私は無力で、ただ足掻くことしかできなかった。
無力だった…
「吉良!!さっさと出てきなさい!!」
ますます怒り狂いながら、私を呼ぶ女性。
刃乃刹那。組織の中では一番人気で有名な殺し屋。
その美貌と靡くオレンジの髪から、業火の魔女などの異名を持つ……私の母。
「あっちは探したッス!」
「あー!もー!!さっさと探せぇっ!!」
母の剣幕に、組織の全員が慌てて私を探している。
「そ~だなぁ…見つけた奴にはご褒美だっ!!」
母が札束を片手に叫ぶ。
それを聞いた途端、目の色を変えて必死に探す部下達。
私は壁の影に隠れてそんな様子を見ていた。
見つかれば…もう予測は出来ている。
見つからないうちに早くここから逃げなければ…
音を立てないようにこっそり出口に向かう。
出口の扉が見えた。
辺りを伺い、扉に手を伸ばす。
その時、突然視界が真っ暗になった。
恐る恐る上を見ると、私を睨みつける若い男性が立っていた。
黒いコートを羽織っていて、殺気が籠った陰気な雰囲気を発している。
傷と組織の紋章が刻まれている顔がさらに威圧感を増している。
私の父、刃乃鬼利。
私の母と同じ……
「てめぇっ!!」
私を見た瞬間、父の拳が私の頬を打つ。
その衝撃で私は壁に叩きつけられた。
火がついたように泣き叫ぶ私。
こんな苦しみ…実験の時と比べれば優しい方だ。
「さっさと戻りやがれ」
冷酷に言い放ち、私の髪を引っ張る。
私を探す母、刹那の元へと連れて行かれる。
いつものように。
何度これを繰り返しているだろう。
何度繰り返したら…
繰り返しても結果は同じ…
…たすけて…
私は届くはずもない言葉を、心の中で何度も叫び続けた。