その時オレは六畳ほどの部屋にいた。


部屋にはオレの他に50がらみの女性と、包丁を持った幼い少女。



オレが少女の手に握られている包丁に気をとられてる間、中年の女は懐から何かを取り出しオレにそれを見るよう促した。

女の手から現れたのは手のひら大の大きな蜘蛛。

青黒い身体から生えた、びっしりと体毛に覆われた脚が不気味に蠢く。

毒があるのかどうかはわからないが、たとえ毒がなくてもあまり触れたくはない相手だ。



女は目の前の台に青蜘蛛を乗せると、そいつをつつき始めた。

すると青蜘蛛は前脚をあげてリーンリーンとコオロギのような声を出した。

(これはたしか南米に生息するコオロギモドキグモだ)

オレはすぐに青蜘蛛の事を思い出したが声に出して言うのはやめておいた。

部屋の住人(?)達と会話をしたくなかったからだ。


青蜘蛛は器用に口をすぼめリーンリーンと涼しげな声を出し続ける。


目を瞑って聞くと声はまるで本物のコオロギのようだが違うのはその目的だ。

コオロギは繁殖期にメスを呼び寄せるために羽をこすりあわせて綺麗な音色を奏でるが、この青蜘蛛はコオロギを捕食する生物をおびき寄せてそれを喰らうために鳴く。



しばらくすると女の背後にあったタンスの隙間から何者かが現れた。



手乗りゴリラだった。

この体長15㎝程度の手乗りゴリラはコオロギなどの昆虫を捕食する肉食動物だ。

手乗りゴリラはコオロギを探して青蜘蛛の周りをウロウロし始めた。


すると青蜘蛛は鳴くのを止めて今度はお尻を振り始めた。

青蜘蛛のお尻に気付いた手乗りゴリラはゆっくりとそこに鼻を近付ける。


青蜘蛛はお尻からメスのゴリラのフェロモン物質に似た液を分泌するのだ。


手乗りゴリラは青蜘蛛の罠だと気付かずお尻の匂いを嗅ぎ続ける。


その刹那、青蜘蛛は後ろ脚を蠍の毒針のように振り上げて手乗りゴリラを攻撃し始めた。


その時初めて罠だと気付いた手乗りゴリラが青蜘蛛の尻を力任せに叩いた。

たまらず退散する青蜘蛛。


一方手乗りゴリラも毒針にやられたらしく、自分の尻をさすりながら
「あいたたた…」
と呟いた。



「あはははは!フッ…フヒホ…フヘヘヘへ!」

その様子を見て中年の女がたたましく笑い声を上げる。


オレは世にも珍しい珍獣の対決を目の当たりにして興奮してはいたが、女のあまりに気味の悪い様に思わず目を背けた。


柱に開いた暗い穴に吸い込まれるように逃げ込む青蜘蛛と、痛む尻を撫でながらタンスの陰で待つ群に戻る手乗りゴリラを眺めていたが、やがてどちらの姿も見えなくなった。

もう一人の少女はこの珍獣の対決には興味がなかったらしくすでに小さな寝息をたてていた。

枕元に置かれた包丁にも小さな小さな布団がかけられていた。



…という夢を見ました。

もちろんコオロギの鳴き声を真似する青蜘蛛も手乗りゴリラも(多分)実在せーへん。


あーアルパカ触りたい!