コロナ感染疑惑から1ヶ月。

コロナとの戦いも3年目を迎えようとしていた。

真面目で従順な日本人とはいえ徐々にコロナに疲弊しつつあった。世の中はコロナウイルスとの共存に舵を切ろうとしている。

この片田舎の県でも日々1000人超の感染者を出していた。中国に端を発するこの流行り病も何度かの流行期を経てヒタヒタと足音を忍ばせながらも確実に迫っていた。

『お゛あ゛よ゛う゛』

「どしたん?その声 笑」

『わ゛がら゛ん゛。のどがい゛だい゛』

「えーマジで?熱は?」

『な゛い゛』

「え?」

『だーがーら゛ね゛つはだい゛っ!』

「あ~了解了解 笑」

朝から妻の体調が悪そうだった。普段は風邪一つひかない彼女にしては珍しいトラブルだ。

体調悪そうな妻に後ろ髪を引かれてつつも、会社に行くために支度を済ませ家を出た。

「まさか」という気持ちが無いでは無かったが、

先日のコロナ疑惑以降、我が家は外出も極力控え人混みから逃げるように買い物を済ませ、必ず消毒し…と感染坊止には人並みに気をつけてきた。

だから「まぁ大丈夫だろう」という楽観論が私の心を支配していた。

会社に着くとすぐにパソコンの電源を入れメールをチェックして今日の予定を確認する。さらに書類に目を通しながら、コーヒーを流し込む。

始業時間前なのだからゆっくりすればいいのだが、せっかちな性格は歳を経るにつれ更に酷くなっている。仕事を把握していないと落ち着かないのだ。

『おはよう』同僚が出勤してきた。ワタシは書類に落としていた目線を少し上げ彼を見てすぐに書類に目を戻したまま、

「おはよう」と呟く。

「なんか、うちの嫁が朝から調子悪いみたいで…」

『そうなんだ』

もう日常茶飯事になっていた。我が社でも今まで何度も体調不良者が出ていたが結果は幸いにも全て陰性だった。コロナ関連の報告は完全にオオカミ少年のお話のような扱いで形骸化していた。

流行当初はかなり大袈裟ともとれる感染マニュアルを作らされたりしたものだった…今や存在すら忘れられている。それだけ、コロナは日常に食い込んできていた。


ピリリリピリリリ


スマホが鳴る。画面は妻からの着信を知らせていた。若干の胸騒ぎを感じつつ電話に出る。

「もしもし、どうした?」

『やっぱ熱あるみたい。38.6℃喉も痛くて』

「マジ?」

『帰って来れない?』

「わかった帰れたら帰るよ」

『お願い』

胸騒ぎが収まらないまま、電話を切った。

「おれ、今日ちょっと帰るわ」

『どうした?』

「嫁さん熱あるって」

『マジ?』

話しながら荷物をまとめる。もしコロナだったらいけないので、社用パソコンも持ち帰る。

「悪いけどあとは頼む。また連絡する」

『わかった。お大事に』

仕事の引継ぎを手早く済ませ足早に退社する。妻がもしコロナ陽性なら私は間違いなく濃厚接触者。そうなると十中八九私も陽性だろう。職場に感染を拡めるのはマズイ。

帰りながら妻に発熱外来に電話するようにLINEする。

車に乗り込むと今走ってきたばかりの道を引き返していく。

そうだ!確か抗原検査キットを買ってたな。

車のダッシュボードを探ると、あった!抗原検査キット。

家に帰るまで待ちきれない。車内で検査しようと、車を路肩にとめる。

ガサガサとキットを取り出し、説明書を読む。斜め読みで方法を確認し、綿棒を口蓋扁桃辺りを乱暴にグリグリする。綿棒を液の入った容器に入れ綿棒の先を折ってシェイク。

カサカサカサ。

それで〜えっと、スポイトで液を吸って…ここに3滴ね。ポタっポタっポタっ

ジワジワと試験紙上を液が浸透していく。妊娠検査みたいだなと下らないことを考えながら結果を待つ。

線は………1本だけだ。陰性。

安堵してふぅーーと深いため息をつく。



よく考えれば予防接種も3回受けたし、そう簡単に罹るわけないか。と急に強気な気分になる。

ま、とりあえず帰るか。

少し落ち着いた気持ちでハンドルを握り家路についた。