『…姫!
○○姫どうか、部屋からお出でになって下さい!』
コンコンと、ひっきりなしにノックの音がする。
…心底心配そうな、リュートの声。
『…あぁ姫!
一体どうされたのですか!
…もう3日も、何もお召し上がりになっては無いではありませんか!
お身体を壊してしまいます、…姫!』
大袈裟でなく、悲痛なその声を聞いていると、胸が痛むのだけど。
…ごめんなさい、リュート。
…今は。
今まだ、上手に作り笑いが、出来そうに無いの…。
『…姫。』
今度は低い。
ガイアさんの声。
『…パレードなど、参加されずとも良いのです。
姫が意にそぐわないのであれば、
前夜祭、後夜祭の式典も全て、お出にならずとも良い。
…ですが。
部屋からは、出て来ては下さいませんか?
…国王陛下…いえ、お父上もご心痛で、
伏せってしまいそうな勢いなのですよ?』
…ガイアさんにそう言われると。
さすがに、良心が痛む。
…けど。
『おい!
いつまでそうやって閉じ籠もっている気だよ全く!
さっさと出て来いよ、○○!』
『なっ!
姫に対して、なんという言葉使いをするんだ、ケン!』
『いいんだよ、お前が必要以上に姫扱いしてんだから。
…○○!
…○○っ!
…ったく、テメェも何とか言えよ!
…この原因は、お前なんだろーが。
シオンっ!』
苛ついたケンの叫び声がした。
ドアの向こうの気配に、全神経が集中する。
『なんだよ、…面倒くさいなぁ。
本人が出て来たくない、つってんだからいーんじゃない、別に。
子供じゃないんだからさー。
それより、もっと他にやることあるんじゃねーの?
こんな幼稚なワガママに、付き合ってる場合?』
…ワザと聞こえるように言ってるとしか思えない、シオンの声。
…傷口は、さらにえぐられて血を流す。
…やがて。
諦めたのか、ドアの前は。
静かになって、陽が落ちた。
…お腹空いたなー…。
ベッドの上に、横たわって。
バルコニーへと続く窓の縁から見える、満月を見上げていた。
いつまでも、こんなコトしてられない、って、解ってる。
私はもう、ただの村娘ではなくなってしまったのだから。
私という存在が、この国で果たさなければならない役目。
『王女』で在るという事から逃げないと、私も私に、誓ったのだから。
…独りじゃない。
騎士団の皆がいて…。
そして。
…シオンが、いたから…。
『…シオン…。』
ふと呟いた名前。
切なくて、ぎゅ、とクッションを抱き締めた。
名前を呼ぶだけで、胸が掻き乱されて。
…こんな時でも、真っ先に感じるのは。
…シオンに対する、愛しさだった。
…王女、…失格ね…。
だって…私。
…シオンが望むなら、この国すら…、。
そんな事を考えていた時だった。
バルコニーの窓辺に、ゆらりと映る人影。
いとも容易く、窓の鍵を外すと。
カーテンを揺らして、私を見下ろす。
背中越しに照らす満月で、影になったシルエット。
…でも。
怖くはない。
『…これだから、面倒なんだ。
王女なんて…。』
『…シオン!』
慌ててベッドの上に身を起こす。
怒っていたコトも、忘れてしまう程。
あなたの姿を見て、歓喜で胸が震えた。
『…こんなのバレたらオレ、軽く首が飛ぶんだぜ?
解ってないだろ、アンタ。』
恨みがましい台詞だけど。
その声音は、諦めと自嘲に満ちていて。
胸が詰まって何も、言えないでいる、…私。
『…だから、嫌だったんだ。
こうなるコトくらい、簡単に予測出来てた。
…だから。
…アンタにだけは、惚れたく無かったのに…。』
ギシ…と、柔らかなベッドが軋む。
声にならない声で、名前を叫ぶ胸の中。
『…泣くなよ…。
…頼むから。
…俺の為に泣いてんだって。
考えただけで、おかしくなりそうなんだよ。』
『…シオ…っ!』
緩やかな力で、抱き締められる。
その身体を、温もりを。
離したくないから、私も強く、抱き返した。
『ただの騎士の分際で、王女であるアンタに惚れちまうなんて…。
馬鹿意外の、何モンでもないだろ。
だけど…○○。
とっくに、覚悟なんて出来てる。
アンタに忠誠を誓った、あの日から。
…アンタは、オレのモノだから。
誰にも渡さない。
…それを、解らせに来たんだ。』
泣きながら、その口づけを受け入れた。
…甘く、優しく。
私という果実を、味わうように繰り返される。
…シオンのキス。
口移しで伝えられる想いに。
溶かされようとしていた。
【全てで、真実 ④ へ続く】