『…どうした。』
次の日の、夜。
また、シンさんの部屋にいて、
ベッドのヘッドボードに背中を預けて座りながら。
ぼんやり、していたら。
不意に、ジャケットにブラシを掛けていた、シンさんの声がした。
『あ…いえ。』
…ホントは、ぼんやりしてたなんて嘘。
カラダに残る、シンさんの腕の感触。
優しく、カラダをなぞった掌の感触。
耳に残る、シンさんの声。
…熱くて。
…切なく、て。
…何度も、私の中で蘇る。
“…ジュリア。”
って…、声。
…誰…だろう。
…女のヒト…だよね。
…あんな風に、優しく。
…そのヒトを、抱き締めてるんだ…?
…今日一日。
気になって、気になって、気になって。
仕方なかったのにでも、聞けなくて。
…大体、シンさん、覚えてないと思う。
朝、起きたら。
…もう、ベッドに居なかったし。
『…大人しいな。』
フン、と鼻で笑いながら、ジャケットをハンガーに掛ける。
『…熱でもあるんじゃないのか?』
何も言えずに、ポヤンとした私を、訝しそうに見て。
私が座ったベッドの横に、腰を降ろして座ると、
ピタッとオデコに手を、当てる。
…ひんやりした、冷たい手が。
キモチ良くて…目を閉じた。
『…っ!お前、熱上がって…!』
シンさんが、驚いたように叫んだ。
『来い!』
…あ、熱があるんだ…。
来い、と引き寄せられ、あれ?と思った時には。
シンさんが、私を抱え上げてる。
ドアを足で蹴っ飛ばして開けると、
いちばん端っこの医務室へ連れて行ってくれた。
ベッドに私を降ろすと、ドクターを呼んで来る、と、部屋を後にする。
すぐ、ソウシさんがやって来て、それからシンさんも。
『…ああ、○○ちゃん、もう大丈夫だよ。安心して?』
ソウシさんが穏やかな笑顔で言うと、診察をしてくれた。
脈を取ったり、舌を観察したり。
それから。
『…あのね。
言いにくいんだけどね?
カラダに…発疹が無いか確認したいんだけど…。』
首の後ろに手を当てて、ソウシさんが申し訳なさそうに言う。
『あ…それは…大丈夫…です。
お願い…します。』
『…ありがとう。
…聞こえた?
シン。
…ちょっと、カーテン閉めるね?』
シャーッと、シンさんがいる方と、ベッドの方が、
間仕切りのカーテンで仕切られる。
プツ…プツ…と、ブラウスのボタンを外して…、
スルリと脱いで、胸の前で抱き込んだ。
『…背中だけでいいから。
…いい?』
律儀に私に背を向けるソウシさんに、ハイ、と返事をして。
…背中に、ソウシさんの視線を感じていた。
柔らかいトコに、出るからね。
…そう言いながら、私の肘を軽く持ち上げたり、髪をすくって、首筋を出したり…して。
…冷たい、指。
『…大分、熱があるね。
…でも、発疹はないから、大丈夫。
いいよ、服を着て?
…横になってていいからね?』
優しく、私の頭を撫でながら、横になった私に、シーツを掛けてくれた。
カーテンを開けると、入口の隣の壁にもたれて。
腕組みをして、立っているシンさん。
『…ドクター。
…何なんです?』
心なしか不機嫌そうなシンさんの声。
『…そんな顔しないの、診察なんだから。』
ふふ、とソウシさんが優しく諌める。
『…もともとこんな顔ですよ。
…コイツ、大丈夫なんですか?』
『…そう?
怒られてるのかと思っちゃった。
…○○ちゃんは、心配無いよ、伝染病とかじゃない。
…急激な環境の変化に、カラダが先に参ってしまったんだと思う。
過労だよ。』
『…そうですか。』
『とにかく、ゆっくりカラダを休ませる事がいちばんの薬だね。
ちょっと、ナギに言って氷枕とか貰って来るから、シン、ついててあげて?
…慣れない環境で体調まで崩したんじゃ、とても不安だろうから。』
そう言い残して、医務室を後にしたソウシさん。
ベッドに横たわったまま、シンさんに視線だけを向けると。
…はぁ、と軽くため息をついて、でも。
ベッドの枕元まで、来てくれた。
側にある椅子を引き寄せると、どっかりと腰を降ろして、脚を組んで…座る。
『…あの…すみません…。』
『…何がだ?』
『…熱なんか、出しちゃって…。』
『それは…お前のせいじゃないだろう。』
『そうですけど、…でも…シンさんのお仕事のお手伝いが…。』
私がそう言うと、シンさんは…
何か信じられないモノでも見るような顔をして…言う。
『…お前がいなくて、俺の仕事が滞るとでも…思ってるのか…?』
『…え…?』
ヒドイ言われように、傷ついて…。
シンさんを見上げると。
口の端だけを上げる、あの笑みを浮かべていた。
『…ひど…っ!』
軽く、涙目になりながら、シンさんを睨む。
すると、ふと。
立ち上がって、私を見下ろすようにして…言った。
『…ゆっくり休め。
何も、気にしなくていい。
…安心していろ。』
…いつものシンさんからは、ちょっと想像もつかないその言葉に、
ドクン、と、確かに胸が鼓動を打った。
そっと、シンさんの手が、私の頬を包むように…触れる。
指先が、…耳の後ろまで届いて。
さらに鼓動は、高まった。
『お前がいないと、少しは、困る。』
私を見下ろしたまま言ったその表情は、真剣で…。
『からかって、こんなに反応が面白い奴は、いないからな。』
また、ニヤリと、笑った。
…ああ…って。
思った。
…私、シンさんに、必要とされたいって、思ってるんだって、今。
自覚した。
…そして何より、側にいたい、って。
想ってる。
でも、それは…。
この、熱のせいならいいのに。
熱にうかされて、私、おかしいんだ。
だって。
あんなに、熱く想うヒトがいる、シンさんを。
…好きになっても、苦しいだけだって。
もう、解ってるじゃない…。