【夢小説】 哀しみは雪の降るように⑪ (斎藤 一) | 恋に落ちた☆妄想女子

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読んでも何の得も無し。


6月。


季節は桜の季節から新緑の季節へと、移ろっていた。


私がこの診療所にお世話になってから、もう1ヶ月が過ぎようとしている。



朝、6時。


カラカラと私の部屋の窓を開け、



空気の入れ換えをするのが毎日の習慣となっていて…。


その日も。


いつもの様に、窓を開けると…。


『…ゆ・雪村殿だぞっ!』


『お早うございますっ、雪村殿っ!!』


『今日も良い天気ですねっ!』


…隣の道場の門下生の方々が、裏庭にいて…。


口々に、話し掛けて来てくれる。


『…お早うございます。


皆様、朝の鍛練、お疲れ様でございます!』


ペコリと頭を下げると、うおぁおおっと、野太い歓声が上がった。


『雪村殿、甘味などはお好きですかっ?

今度俺と一緒に』


言いかけたその人の言葉は、



屋敷の奥から歩いて来た、高刀さんの一喝で吹き飛ばされた。



『まった何をしてるんだ、お前達はっ!!


毎朝毎朝、雪村殿にご迷惑をお掛けするなぁっ!


そして毎日毎日、俺に同じ事を言わせるなぁっ!


何しにココに来ているんだあんたら朝練に来てるんだろうっ!』


竹刀を手に、高刀さんが叫ぶと。


さわらの前に鈴なりだった門下生の方々が、ぴゅ、と逃げ出した。



クスクス…と笑ってその様子を見る。


高刀さんの後ろについて来ていた、斎藤さんも。


穏やかな表情でその様子を見ていた。


…いつ見ても、どんな時も。


斎藤さんを見ると、胸がときめく。


甘い痛みと、激しい痛みが、同時に胸の中でせめぎあう。





…好きだって、…思い知る。




『お早うございます、雪村殿!』


『お早うございます、高刀さん、斎…藤田さんも!』



礼儀正しくこちらに一礼をする斎藤さん。



斎藤さんの穏やかな表情を見るだけで、心のどこかが満たされるのが解る。


…京にいた時も、戦いながら、北上していた時も。


あなたはいつも、思い詰めたカオをしていたから。





私を…抱いている時ですら、時折…。




『あいつら…っ、毎朝毎朝、申し訳ない…!!』


高刀さんが、こちらの庭先ギリギリまで近寄り、頭を下げるから。


私も、草履を突っかけて、庭先に出た。


朝の清々しい空気が、心地良かった。


『…いいえ、賑やかな方が、私も嬉しいんです。


…お話相手が、なかなかいないから…。』


『…そのような事でお悩みか?


なら、ウチの道場にいつでも遊びにいらして下さい!


雪村殿と話をしたがってる奴は、掃いて捨てる程おりますよ!


雪村殿が見えたとなっては、



奴らもいい所を見せようと、士気も揚がるというものです。』



『…まぁ、そんなこと…。』



冗談だと解っていても、そんな事を言われると、頬が熱くなる。


何となく恥ずかしくて俯いた、その時。





『…高刀。』




諌めるような、棘のある。


…斎藤さんの声が、した。


『…ああ、すみません、藤田さん。


私に構わず、先に稽古を始めていて下さい。』


斎藤さんの方を見ずに答えた高刀さん。



『…だが。』




縁側に佇んだまま、斎藤さんがなおも言うのに…。



『…そうだ、雪村殿!

明日、すぐそばの貴無勢(きぶせ)神社で、宵宮がある。


…宜しければ、一緒に行きませんか?』



明るく、溌剌と言う高刀さんに、少しの違和感を感じてしまう。


『…約束ですよ、明日の、6時。


角の地蔵堂の前で、待ち合わせましょう。



…それでは。』



戸惑う私に、全く構わず。



高刀さんは、爽やかな笑顔で言い切ると、斎藤さんの元へ戻って行った。


…何か言葉を挟む隙さえ無かった、今の高刀さん。



何か…ヘンなの…。


やっぱり、少しだけ違和感を感じながら…私は、部屋へ戻った。








診療所のある場所は、割と活気のある商店街と



住宅街が混ざったような所で、どちらかと言えば賑やかな場所だった。


香坂先生は、どうしてこの町で診療所を開いたんだろう。


香坂先生ほどの腕があれば、江戸でも京でも、医学の本場の長崎でだって。


開業出来るのに。



『…ボサッとしてねぇで、手を動かしてくれたら助かるんだが?』



『…っ…、すみませんっ!』


診察が終わった、午後。


いつもは自由な時間なんだけど、



今日は、薬の調合をお手伝いしている。


…手伝いと言ってもただ、



言われたとおりに乳鉢に入った薬草を、すり潰すだけなんだけど…。


…診察が終わった後、香坂先生はなにやら研究をしている事が多いみたい。


私は、掃除やら買い出しやら、洗濯やら、



細々とした家事をして、余った時間で医学書を読む。


香坂先生が、入門書だ、と貸して下さったから。


晩になると、香坂先生は何処かへ出掛ける事が多い。


晩御飯と、お酒を飲む為に。




花街に、馴染みの妓がいるんだよ。



って、患者さんから聞いた事がある。


…何て事を考えてたら。



『…だから、手ぇ動かせっつってんだ!』



と、香坂先生の怒声がした。


笑いを含んで、呆れたような。



『…すみません。』



『どうした?

何か気になる事でもあるのか?』



何かの液体を混ぜ合わせながら、私に問い掛ける。



こんな機会もなかなかないから、聞いてみようかな。



『先生は、どうしてお医者さんに?


なぜ会津で開業したのですか?』



すると。


ふと、顔を上げて、私を見た。



『…俺に興味があるのか?』


ニヤリと笑いながら、臆面も無く自信たっぷりに言う。



…慣れたけど。



『あ、全然ありません。

ただ…どうしてかな?って。』



『………………。』



完璧に軽く聞き流した私に、実に不満げな様子の香坂先生。


『…医者がいねぇ所で、医者をやりたかったんだよ。


江戸や京や長崎には、腐るほどいやがるだろ。



じゃなくて、俺を必要とする場所でな。』



…やだ。


…予想以上に、まともな答えだわ…。



ちょっとびっくりしていると。



『悪かったな、まともな答えでよ!


なんだ、その面ぁ!』



香坂先生が、また怒鳴った。


笑いながら。


『…なっ、何にも言ってないじゃないですかっ!』


『顔に書いてんだよ、ああ、意外とまともなんだなぁ…ってよ!』



『……………本当に。』



『てめぇ…。』


『でも…カッコイイと思います。』


『…知ってらぁ。』


照れもせず、堂々とそう言い切る香坂先生。


『…あ、そうだ。


明日、すぐ側の神社で、宵宮があるそうですが…行って来ますね。』



乳鉢の薬をすり潰しながら、何の気なしに言うと。



香坂先生の書物を繰る手が、ピタリと止まった。




『貴無勢(きぶせ)神社か。



…まぁ、行くなとは言わねぇよ。



…俺も行くしな。』



『えっ?


先生も行かれるんですか?


誰と?』



『女だよ。


最近、構ってやってねぇからな。』


『じゃあ、お会い出来るかも知れませんね!』


『…ああ、見て驚きな。


…吉原の花魁だって、裸足で逃げ出すぜ?』




堂々と自分の愛しいひとを自慢げに話す香坂先生。



ところで、と。


私の目を見て、しばらくしてから、言った。







『お前は、…どっちと行くんだ?』







『………え?』





誰と、と聞かれるとばかり思っていた私の不意を、完全に突く。




『…道場の倅か?



それとも、…あの。




…右差し、か?』




挑むような目をした、香坂先生から目を逸らせない。



驚いて、言葉を失った私に。



『…まぁ、明日会うまでの楽しみにしようぜ。


…お互いにな。』




…と。




また、書物に目を落とす。




そして、それから。




二人とも、何も…。






なんとなく、話すことは、無かった。







【哀しみは雪の降るように⑫ へ続く】







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シンセンジャーの後のコレって・・・・



皆様、お辛くないですか?



ついてこれますか??



『いつハジメブラックになるんだろう。』



とか、思いませんか?




私は、思います。