【夢小説】 哀しみは雪の降るように⑧ (斎藤 一) | 恋に落ちた☆妄想女子

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読んでも何の得も無し。



『…はい、もう大丈夫ですよ~!』




転んで、膝を大きく擦りむいた男の子に、消毒液を塗りながら微笑む。


香坂先生が診察するほどでもない、ごく軽い怪我なんかは。


私が、処置を任されていた。




…あの、再会の日からもう、何日か過ぎた。


逢ったからと言って、劇的に何かが変わる、なんて無い。


でも、時折。


私の部屋から見える、向かいの道場の中。


門下生を指導する、斎藤さんの姿を見かける…それだけでも。


死んだと思って暮らしていた日々を思えば、



比べものにならないくらい、幸せだった。


うじうじと悩んでいるヒマなんて無いくらいに、診療所が忙しいのが救い。


『千鶴、この薬を、町の外れの梵能寺のもうろく住職へ届けてくれ。』


そう言って香坂先生がくれた薬を受け取る。


『日が明るいウチに行けよ、町の外れは柄の悪い連中もいるからな。』


『ハイ。』


今は、診察も終わった、午後2時。


日暮れには、まだ早い。


全然大丈夫!


『それでは、行って参ります。』


私は、薬を届ける為に、診療所を後にした。





春の昼下がり。


会津は、本当に過ごしやすい気候で。


いたる所で満開を迎えているこの桜の下を歩くだけで、気分も華やぐ。


…辛い事ばかりじゃない。


私は、元気で。


助けてくれる人もいて、仕事もあって、食べるのにも、住む事にも、困ってない。


そして何より、好きな人の、近くにもいれる。


こんな…当たり前の事が、どんなに幸せかって。



戦いの中に身を置いて、私は知ったから。



すぅー…と、胸いっぱいに空気を吸い込む。


むせるような桜の匂いがした。


梵能寺の住職さんに、お薬を手渡して。


…話し相手が欲しかったに違いない住職さんから、



やっと解放されて外に出た時には。


日が、落ちかけていた。



…わ、大変!



…町の外れには、柄の悪いのがいるから…。



香坂先生の言葉を思い出す。



しかも。



ぽつり、ぽつりと。


…雨が降って来た。



『……雨!』



来る時は、あんなに晴れていたのに…。


そう思って、境内を走って横切ろうとした時だった。





『五郎さんが迎えに来てくれたの!?』




聞き覚えのある、弾むような声が聞こえた。


撃たれたように立ち止まる。


見ると、お寺の本堂の中から、小夜子さんくらいの娘さんがたくさん。


…何かの手習いなのだろう。


手に小さな風呂敷包みを持って、出て来ている最中で…。



黒い、蛇の目傘を指した、斎藤さんが。



それを迎えて、いた。




…私って、間が悪い。





つくづく、思う。


周りの友人達に囃し立てられて。


きゃあきゃあと、はしゃぐ声が聞こえて来た。


真っ赤になる、小夜子さんの様子で。


…彼女の気持ちが、痛い程、解ってしまった。


大きな、黒い蛇の目傘の陰の。


…斎藤さんの表情は、伺い知る事は出来ない。


ただ…手に持った。


…赤い傘を小夜子さんに差し出しているのが、見えた。




…激しくなる雨。



凍りついたように、そこから一歩も動けない。



その時だった。



『…雪村さん!!』



ふと、小夜子さんが、私に気付いて走り寄って来る。


『わぁ、濡れちゃってるじゃない!

どうしたの?』


人懐っこい笑みで、私を覗き込みながら、言った。


『あ…住職さんに、お薬を届けに…。』


『…そっかー。

私は、お茶のお稽古!

住職様の奥様が、お師匠さんなのよ!


あ、…ね、この傘、使って?


私、…大丈夫だから!』


喜々として自分の傘を、私の手に持たせると。


くるりと踵を返し…当然のように。


斎藤さんの傘の中に…収まった。




…仏様も。




…けっこう、残酷なコトするんだな…。





さっき手を合わせたばかりの、大日如来様を怨んでみる。


傘は、手の中にあるのに…。


…とても使う気になんて、なれなかった。




…早く、消えて。



二人で入った大きな蛇の目傘が、見えなくなるまで、




私、ここを動かないでいるから…。


…その後ろ姿を見ながら、同じ方向に帰れる程、私、強くなんかない…!



…花散らしの雨が降る。


満開の桜を、散らすように。





…でも、良かった。




泣いてる事に、気づかれずに済むもの…。









…もう、いいかな。


しとしとと降る雨の中。



…もうとっくに、日は落ちていた。



…急がなきゃ。


まだ、完全に真っ暗ではないけれど…。



…怖い。



今更ながら、ここがお寺なのだと気付き、ふるっと震え上がった。



…早く、帰らなきゃ!


小走りに、走り出す。


境内の階段を下りて、鳥居をくぐり抜ける、寸前。



木陰の間から、ぬるりと。



…男が2人、表れた。


もう、本能的に自分の身の危険を感じる。


『…よぅ、姉ちゃん。』


着物に、帯刀。


明らかに浪人崩れだ。


咄嗟に、自分の腰に手を伸ばす。



…でも。



指先には、何も触れる獲物は無い。



…男装を解いた私はもう…小太刀を差していないんだった…!


『…雨に濡れた女なんて…たまんねぇな…。』



もう一人の男が、下卑た笑いを浮かべた。


じり、と。


徐々に距離を詰められる。



…どうしよう、怖い!!



『…き・ゃ…っ!』



男の手が、あっと言う間に私を羽交い締め、…口を塞ぐ。


もう一人が、足を抱えた。



男達が表れた暗闇に、引きずり込まれる。



『…なぁに。


…大人しく楽しませてくれたら、殺しゃしねぇよ。』


口を塞いだ男がそう言うと。


『…見ろよ、この女。

すこぶる上玉だぜ…、こりゃあ…いい。』


もう一人が、私の着物の裾をゆっくりとはだけさせながら、言った。




……嫌だ…っ、誰か…っ!!



口を塞がれているから、声も出せない。



…でも、出した所でこの人気の無い場所じゃ…!!


何とか、何か逃げる方法は…っ!


暴れるだけ暴れながら、必死で抵抗する。




その時だった。




『…その娘を離せ。


…今すぐに、だ。』




斎藤さんの…声が、した。



信じられない気持ちで、その姿を見る。


一瞬、男達の腕が緩んで…。


次の瞬間には、…骨の軋むような音がした。



『ぎゃああぁぁっ!』


男達の悲鳴が二つ、夕闇を切り裂くように響いた。



…太刀筋なんて、見えない。


男達ですら、何が起こったのか解らないかも知れない。


一目散に逃げる男達。


まだ止まない雨の中。



『大丈夫か。』


向き直って、私を見下ろした斎藤さんの。



左手の木刀が・・・・カラン・・・と、乾いた音を立てて落ちた。



濡れた地面に投げ出され、座り込んだまま呆然と…見上げる私。



『…ど、…して…。』



まだ消えない恐怖で、歯の根が合わない。


カチカチと震えながら、乱された着物を直す。


その指先も、ガタガタと震えていた。



…怖かった…っ!!


濡れた前髪から、雨の雫と、涙が、頬を伝った。


腰が抜けたように、身体に力が入らない。


斎藤さんが、私の二の腕を掴むと引き上げた。



『立てるか。

…もう、大丈夫だ。』


暗くて…よく見えない。


…明るかったとしても、きっと…見えなかっただろう…。



『……~っっ!!』



…だって、涙が止まらないもの…。


傘も差さないで…、…もしかして、走って来てくれたの?


微かに上下している肩。



『…どう、して…。』



もう一度、呟く。



『…道場に帰って…暫くしても。


…あんたの部屋の、明かりが点かなかった。


…俺達と同じ時刻に寺を出たなら。





それは、おかしい。』




静かな、声がそう教えてくれる。



『…送ろう。』



先に立って歩き出す、その一歩後ろをついて行く。







……昔みたいに。






【哀しみは雪の降るように⑨ へ続く】






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『幕末戦隊 シンセンジャー』を書いてる人と、


同じ人が書いてますよ?


いいんですかね・・・。



てかもう、この回の斎藤さんが、


斎藤さんが、カッコ良くてしょうがない!!!



やーもー!!!!



自分で書いているのに、本当に申し訳ございませんが、


『部屋の明かり』がつかないのを、


どうして、気にしているの・・・っ!?



と、突っ込みたくなります。


しかも、それで危険察知。




素敵過ぎる・・・。