いい質問、悪い質問、その手の質問
鋭い質問をしたらThat's a good questionといってかわされた、
とハーバード時代の父が言っていたのが子供心に印象的だった。
実にThat's a good questionというのは、2秒ぐらいの時間稼ぎに最適である。
That's a good questionといって笑顔をむければ、相手も(特に生徒は)笑顔を返すことが多い。
しかしその手は通用しない、と表情を硬くするひともいる。
特に、敵対的な質問をしてきた相手というのに多い。
Well? Are you going to answer it?と相手が苛立ちをつのらせる時もある。
それはわかってても、本当にいい質問にはThat's a great questionということにしてる。
I won't resist saying that's a good question, because it brings up...と理由付けをできれば
2秒どころか10秒ぐらい考える時間があるのだけれど、それは単なる時間稼ぎではない。
そういう場合は質問者が表情を頑なにしたままであっても無視することにしている。
最近よく、UVAのエリックロット(師匠)を思い出す。
インテレクチャルとしての彼の身のこなしはいたって鮮やかだった。
彼はいつでもThat's a good questionというひとではなかった。
価値のない質問をするひとには、そんな質問は考える必要がないと相手を切り崩すのに容赦なかった。
National Treasureという映画について彼が発表した時に
「マスカルチャーにはそんな風に語るような芸術的価値はあるのか」という質問があった。
That's a good questionなどといわなかった。
彼があっさり言った一言は、Ah. The value question.だった。
ああ、その手の質問ね。というような。
一息ついたあと、「僕は芸術的価値に興味があるのではなく、この作品から現在の大衆文化の持つ
独特のダイナミズムについて考えているのだ」と答えたと思うのだけれども、
That's a good questionというかわりにThat's a bad questionと言ったも同然で、
その時の敵対的な質問者はさぞきまずい思いをしたことだろう。
それはそのひとに対する、あなたは勉強不足だ、という指摘でもあった。
まあ実際に今になって考えれば、もう90年代にディベートしつくされてる質問だし
本当にそのひとが質問に対する興味があったらもうその答えはスチュアートホールからジジェクまで
読めばいいだけの話だったと思う。
今思うのだけれども、言い方というのは大事だと思う。
「聞いてるとマスカルチャーを語るときに芸術的価値についての議論が一切ない気がするのだけども、
なぜあなたはそういうスタンスをとるのですか?」
という質問だったらきっとエリックは真摯に答えたのではないだろうか。
いい質問というのは本来そのひとが追求していることの理解を更に深めるためのものなんだろうと思う。
本当に興味を示していたら、勉強不足だったとしてもいい質問になると思う。
源氏をやる文学者に「着物で講義をしたりするのですか」という質問をするべきでないのは
それは多分質問者が研究者としてのそのひとよりも女性としてのそのひとに興味を示しているからだと思う。
興味を示しているようでいて実際は興味を示してないような。
男性の国文学者に「羽織袴で講義をしたりするのですか」などと聞くひとは多分いないと思う。
その手の質問はその手の質問だと認識するだけでいいのでしょう。