まずは何より「心の養生」が大切 貝原益軒の『養生訓』
気を養う大切な方法
原文
養生の術は先ず心気を養ふべし。
心を和にし、気を平らかにし、いかりと慾とをおさへ、うれひ、思ひ、を少なくし、心をくるしめず、気をそこなはず。
これ心気を養ふ要道なり。
現代語訳
養生の第一歩は心と気を養うことである。
心を和らかにし、気を平らかにし、怒りと欲を抑え、憂いと思い煩う事を少なくし、心を苦しめず、気を損なわない。
これが心と気を養う大切な方法である。
自分の体を可愛がり過ぎてはいけない
原文
心は楽しむべし、苦しむべからず。
身は労すべし、やすめ過すべからず。
凡そわが身を愛し過すべからず。
美味をくひ過し、ほううんをのみ過し、色をこのみ、身を安逸にして、おこたり臥すことを好む。
皆これ、わが身を愛し過す故に、かへつてわが身の害となる。
また、無病の人、補薬を妄に多くのんで病となるも、身を愛し過すなり。
子を愛し過して、子のわざはひとなるが如し。
現代語訳
心は楽しみ、苦しめてはいけない。
からだは動かし、休ませ過ぎてはいけない。
だいたい自分の体を可愛がり過ぎてはいけない。
美味しいものを食べ過ぎ、うまい酒を飲み過ぎ、色欲を好み、からだを楽にし、怠けて寝ているのが好きだというのは、みな自分のからだを可愛がり過ぎることで、かえってからだの害になる。
また病気でもないのに、強壮剤をやたらに飲んで、かえって病気になるのも、からだを可愛がりすぎることである。
子どもを可愛がり過ぎてかえって子どもの災いになるようなものである。
心配しすぎない
原文
病ある人、養生の道をば、かたく慎しみて、病をば、うれひ苦しむべからず。
憂ひ苦しめば、気ふさがりて病くはゝる。
病おもくても、よく養ひて久しければ、おもひしより、病いえやすし。
病をうれひて益なし。只、慎むに益あり。
もし必死の症は、天命の定れる所、うれひても益なし。人をくるしむるは、おろかなり。
現代語訳
病人は養生の道をかたく守り、病気のことをくよくよ考えてはいけない。
くよくよすれば気がふさがり病気が重くなる。
病気が重くても、気長によく養生すれば、思ったよりも病気は早く癒えるものである。
病気をいくら心配しても益はない。
ひたすら病気を慎むことに益がある。
もし死ぬときまった病気なら、天命で定まったことであるから、憂えても益はない。
そのことで他人を苦しめるのは愚かなことである。
大切な一字
原文
身をたもち生を養ふに、一字の至れる要訣あり。
これを行へば生命を長くたもちて病なし。
おやに孝あり、君に忠あり、家をたもち、身をたもつ、行なふとしてよろしからざる事なし。
その一字なんぞや。
畏(おそるる)の字これなり。
畏るるとは身を守る心法なり。
事ごとに心を小にして気にまかせず、過なからん事を求め、つねに天道をおそれて、つつしみしたがひ、人慾を畏れてつつしみ忍ぶにあり。
これ畏るるは、慎しみにおもむく初なり。
畏るれば、つつしみ生ず。
畏れざれば、つつしみなし。
現代語訳
からだをたもち養生するのに、きわめて大切な一字がある。
これを行えば命を長くたもち病がない。
親に考、君に忠、家をたもち、からだをたもつ。
何をやるにもかなっている。
その一字とは何か。
それは「畏(おそれる)」という字である。
畏れるということは、身を守る心構えである。
すべてに細心の注意を払い、気ままにしないで、過ちのないようにつとめ、いつも天道を畏れ敬い、天道に慎んでしたがい、人間の欲望を畏れ、慎んで我慢することである。
というのは、畏れることは慎みに向かう出発点だからである。
畏れるところから慎みの心がうまれる。
畏れないと慎みもないのである。
養生訓の内容|貝原益軒による日本人の健康と精神の心得|原文と現代語訳
https://shikinobi.com/youjoukun
貝原益軒の『養生訓』。江戸時代のベストセラーが教えてくれる、健康長寿の心得とは?
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