さて、1984年6月23日付の全英シングル・チャートである。この頃、日本ではどのような曲がヒットしていたのだろうかと参照するために、この2日前に放送された「ザ・ベストテン」のランキングを調べてみると、1位がチェッカーズ「哀しくてジェラシー」で、10位が「サヨナラは8月のララバイ」、この2組のブレイクはこの年にはひじょうに印象的だったことが思い出される。他に石川優子とチャゲ「ふたりの愛ランド」、薬師丸ひろ子「メイン・テーマ」、中原めいこ「君たちクイ・パパイア・マンゴーだね」などもランクインしていて、あーなるほど、という気分になった。中森明菜の夏ソング「サザンウインド」は玉置浩二の曲だが、途中でイエス「ロンリー・ハート」っぽところがあったりしてとても良かった。それはそうとして、全英チャートである。
10. Two Tribe - Frankie Goes To Hollywood
この週の1位である。ちなみにこの前のシングル「リラックス」もまだトップ10内に入っている。「FRANKIE SAYS RELAX」のTシャツもかなり流行っていた。トレバー・ホーンのZTTレコードから出ていたひじょうにセンセーショナルなバンドという印象であった。この曲は当時のアメリカとソビエト連邦との間の冷たい戦争をテーマにし、両国の首脳同士が土俵上で戦うという設定のビデオも大きな話題になった。
9. White Lines (Don't Do It) - Grandmaster & Melle Mel
レコードのアーティスト名には名前があるものの、グランドマスター・フラッシュは実際には参加していないらしい。ベースラインがひじょうに印象的な反ドラッグソングで、全英シングル・チャートで最高7位のヒットを記録した。後にデュラン・デュランによってカバーされている。
8. You're The Best Thing - The Style Council
アルバム「カフェ・ブリュ」からのシングル・カットで、「グルーヴィン」というタイトルでリリースされていた。聴き心地の良いおしゃれな音楽として日本でも大いに受けていた。全英シングル・チャートでの最高位は5位。
7. Perfect Skin - Lloyd Cole & The Commotions
ネオ・アコ、あるいはネオ・アコースティックというサブジャンルは日本固有のものだということが言われていたりもするのだが、ロイド・コール&ザ・コモーションズの音楽もまた、そこにカテゴライズされがちなような印象がある。この曲は評価が高いデビュー・アルバム「ラトルスネイクス」からの先行シングルで、1曲目に収録されていた。
6. Borderline - Madonna
スター街道を本格的にひた走り出すのはこの年の年末近くにヒットした「ライク・ア・ヴァージン」からであり、この頃にはまだ匿名性もあるディスコ・ポップ・シンガーという感じだったような印象がある。とはいえ、すでにとてもクオリティーの高いダンス・ポップであり、たとえば松田聖子の「SQUALL」こそを至高と見なす価値観のように、この頃こそが最高とする見方も成立はするような気がする。
5. Each And Every One - Everything But The Girl
当時、ネオアコとかネオ・アコースティックというような呼び方が流通していたかどうかはまったくよく覚えてはいないのだが、トレイシー・ソーンのボーカルについてはNHK-FM「軽音楽をあなたに」で聴いたソロ・アルバム「遠い渚」からの曲や、ゲスト参加したザ・スタイル・カウンシル「カフェ・ブリュ」収録曲ですでに知っていた。シンセ・ポップ全盛の時代にこういったアコースティック・サウンドこそが逆に新鮮に感じられたことは事実であり、そこにパンク/ニュー・ウェイヴ的なスピリットを感じてもいた。この曲はデビュー・アルバム「エデン」からのシングル・カットで、全英シングル・チャートで最高28位を記録した。
4. Absolute - Scritti Poritti
この年の年末、「ミュージック・マガジン」の年間ベストのリストには、坂本龍一をはじめ多くのアーティストやライターがスクリッティ・ポリッティの「ウッド・ビーズ」などを挙げていたような気がする。そして、この年にリリースされたアルバム「キューピッド&サイケ85」は全英アルバム・チャートで初登場5位、「ミュージック・マガジン」のクロス・レヴューでは同じ号でザ・スタイル・カウンシルに4点、プリファブ・スプラウトに7点をつけていた中村とうようが10点満点をつけていた。一方、とんねるずが主演する深夜の青春群像ドラマ「トライアングル・ブルー」では、六本木のカフェバーのシーンで、よくこの曲が流れていた。
3. Dancing In The Dark - Bruce Springsteen
大ヒットしたアルバム「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」からの先行シングルで、全米シングル・チャートでの最高位は2位とキャリア中最も高いのだが、代表曲とはあまりされていない印象がある。シンセポップ全盛の時代にストレートなロックンロールが逆に新鮮という印象は確かにこのアルバムにはあるのだが、この曲についてはむしろ時代に迎合したかのようなシンセサイザーの導入などが個人的には好ましく、それでいて曲のテーマは大人の男の苦悩というようないかにもなスプリングスティーン節というのがまたとても良い。
2. I Wanna Be Loved - Elvis Costello & The Attractions
ただただ愛されたいという、人間の根本的な欲求について、半ば冗談でもあるかのような真剣さで歌われたバラードで、時代を感じさせるシンセサウンドもとても良い味になっているように感じられる。ミュージックビデオのセンスも最高だが、全英シングル・チャートでの最高位は25位止まりである。
1. Heaven Knows I'm Miserable Now - The Smiths
ネオアコ的な爽やかなアコースティック・サウンドのようにも聴こえるのだが、ボーカルがまったく爽やかではない。そして、歌われている内容といえば、働きたくないという人間にとって至極真っ当なものとなっている。このような曲が全米シングル・チャートで最高10位のヒットを記録していたという事実も、実に痛快である。