八ヶ岳南麓署シリーズ②はたして事故なのか ドライバー破損事件顛末 | 八ヶ岳ゆるふわ日記

八ヶ岳ゆるふわ日記

八ヶ岳南麓大泉と東京を行ったり来たりの毎日。日々のよしなしごとを綴ります。

(清里アーリーバードゴルフクラブにて この日天気晴朗ナレドモ風強シ)

 

 この日の朝、山梨県警八ヶ岳南麓署に一件の通報があった。

 通報者は同地の自称人気ブロガーのA氏。

 本人はブログ友nobu氏の「いよ!人気ブロガー!」というおだてに天を衝かんばかりに舞い上がり、この肩書の名刺をこさえようかと画策しているらしいが、それはこの際どうでもよい。

 

 A氏によると、この日はシーズン最終日直前のバーゲンでなんと2900円でプレーできるというので「清里アーリーバードゴルフコース」でゴルフ友のB氏、C氏とゴルフを楽しむことになったという。

 途中「丘の公園清里ゴルフコース」の練習場に立ち寄って練習をしていたところ、背後のドサっという音にA氏が振り返ると愛用ドライバーが無残な姿で事切れていたというのだ。

 

 通報を受けた南麓署強行犯係由利係長(警部補)と不破捜査員(巡査)はただちに現場に駆けつけた。平和な八ヶ岳南麓で両捜査員の緊急出動は半年ぶりのことである。

 

 ガイシャ(被害者)はゼクシオの中古ドライバー(推定5歳)。刃物ですぱっと切ったかのようにグリップに近い部分で寸断されていた。

 

 

「係長、これは不自然ですね」

「そうだな。経年劣化なら普通はネック(ヘッドのある方)で折れるはずだな」

 

(ここで折れることは通常ありえない)

 

 捜査に予断は禁物だが、事件の匂いがする。

 

 「第一発見者を疑え」というのは捜査の基本である。

 A氏による狂言、つまり「新たなドライバー欲しさの保険金目当ての犯行」という線が真っ先に浮上したが、これは直ちに否定された。ケチなうえにモノグサなA氏は保険なんぞに入るタマではない。

 

 モノ取りは考えにくい現場ゆえ、次に疑われるのが怨恨の線だ。態度がデカく口数も手数も多いA氏には日頃反感を抱いている人物も多いはず。

 

 由利係長がA氏にそれとなく探りを入れた。

 

「私はヒトの怨みを買うような人間ではありません」

「・・・(そうかなあ)」

「考えられるとしたらその場に居合わせたBですね。彼奴、ここんとこ私が上達してきたので嫉妬を感じている様子がありありでしたから」

 

 これを受け不破捜査員がB氏に職務質問(任意)を行った。

 

「笑っちゃいますね」

と、B氏。

「彼は今シーズン100切ったのはわずか3回ですよ」

「・・・(態度のわりに下手クソなんだな~)」

「私は(と胸を張る)少なくとも4回切ってます」

「おお!失礼しました」

 

 さらに現場検証の結果B氏が練習していたのはA氏から30mほど離れた打席。わずか数秒の間にここからA氏に気づかれずに忍び寄って犯行に及ぶのは不可能だ。

 

 現場での捜査を終えた両捜査員が所轄に戻り、「ドライバー変死事件捜査本部」の設置準備にとりかかっているところに、山梨県警科学捜査課より検証結果の連絡が入った。

 この日アメダス野辺山(←アメダス大泉より現場の気象条件に近い)で記録された最大瞬間風速は14m。丘の上にある現場はこれ以上の強風だった可能性が高い。

 ベンチに斜めに立てかけたドライバーに強風であおられたゴルフバッグが激しくぶつかると、グリップに近い部分に思わぬ負荷がかかって折れることは不自然ではないというのである。

 

 かくして本件は事故と断定され、捜査を終えることになった。

 

「不破ちゃんよ、たまには早くあがって一杯やりに行くか」

「そうですね。自分もそんな気分でした」

「A氏一行がゴルフの後に反省しに行くという『心粋』に行ってみよう」

 

(闇の中に異彩を放つ「心粋」)

 

「事故ということになりましたけど、自分はなんとなく納得できないすね」

「そうだな。オレの刑事の勘もそういってるよ」

 

(砂ぎも、ハツ、レバー)

 

「係長、Aさんが『新品のぶっ飛び系ボールを4個失くしたのはオマエのせいだ』ってBさんに

難癖つけてますよ」

「人の話に聞き耳を立てるんじゃあないよ」

「すみません」

「・・・でもまあ事件の線は捨てられないよな」

 

 二人の無念をよそに、強風吹きすさぶ八ヶ岳南麓の夜は更けていった。